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[1] ペンキ工の機関大尉は
By Ryou
08-15 20:00
 ペンキ工の機関大尉は、暗がりの中をとことこと歩いていった。
 あたりの様子をうかがいながら、狭い廊下の角をいくつか曲った。そしてやがて辿りついたのは、飛行島の舷だった。深夜の海面には祖国の夜を思い出されるような月影がきらきらとうつっていた。
 川上機関大尉は、あたりに人気のないのを見すますと、ペンキの缶の底をひらいて、二条の針金をひっぱりだした。その針金の先についている小さい物挟を、舷の梁上に留めると、針金は短波を送るためのアンテナとなった。
 そこで彼は、小さな受話器を耳にかけ、同じく缶の底にとりつけてある電鍵をこつこつ叩いて、軍艦明石の無電班を呼んだ。
 相手は、待っていましたとばかりにすぐ出てきて、暗号化したモールス符号で応答してきた。
 機関大尉は溜めておいた重大な報告を一つ一つ電鍵を握る指先にこめて打ちはじめた。
 その時、頭の上で、ごそりと人の気配がした。
 彼は、はっと驚いて上を見た。梁の上にピストルがきらきらと光って、その口がこっちを向いていた。


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