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[1] 堀川の館
By Ryou
12-26 19:07
堀川の館はもう一町ほどの前に近付いた時に、うしろの黒い影が何かの合図をすると、暗い物蔭から更に七、八人の黒い影があらわれて、ばらばらと駈けよって三人を押っ取り巻いた。再度の敵に采女はまた驚いた。
「誰じゃ、おのれ、強盗か。」
黒い影は一人も返事をしなかった。その幾人かは先ず小坂部の手を捉えて、しっかと引っ立てて行こうとした。ほかの幾人かは一度に抜き連れて采女に斬ってかかった。今度の敵は眇目の男のたぐいでないので、采女もすぐに抜きあわせて闘った。うろうろしている侍従は誰かに蹴倒されて、救いを呼ぶ声も立てられないで、路ばたにただ小さく這いかがまっていた。
小坂部は捉えられた手を振り払った。女と思っての遠慮か、但しは他に子細があるのか、敵もさのみは激しく迫って来ないのを幸いに、かれは摺りぬけて一間ばかり逃げた。その一刹那に、かれの胸に泛んだのは、これから自分の館へむかって走るよりも、兄の師冬の館に逃げ込む方が路順も好い距離も近い。こう思いついて、かれは大路を横に切れた。采女もおそらく同じ考えであったらしい。これも眼の前の敵を斬り払って、小坂部のあとに付いて逃げた。二人がどうにかこうにか三河守の門前まで逃げ延びたのを見とどけて、敵はもう諦めたらしく、そのまま何処かへ散ってしまった。
「姫上。お怪我はござりませぬか。」
「そなたも無事か。」
二人はいたわり合いながら、まずほっと息をついた。
千葉 田舎暮らし 房総 渇すれども盗泉の水を飲まず
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