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知らないままでイイ
「ちょ、あっ、めっ!や、離して〜〜!」
随分可愛いい生き物だ。顔を鍋から上げて彼女を見上げると怒った青い目に俺が映っていた。
「もうないの!」
ぐいっと、鍋を俺から遠ざけるように彼女は立ち上がった。そのまま流し台に向かう彼女からは甘い匂いがまだこびり付いている。
「やん!」
美味しそうだと思ったから彼女の膝を舐めただけだ。
「もう!さっき、いっぱい食べたでしょ?これは洗わないといけないの!」
足元でじゃれる。人差し指を立てて、まるで母親のような事を言う。面白いなと思うから、まだ何か仕掛けてやろうと思ったら主の気配が直ぐ其処にやって来た
ので俺は大人しく座り込んだ。
「何してやがる」
それは俺に向けた言葉だ。
「何って…鍋洗ってるだけよ?どーしたの?そんな恐い顔して…」
ただ、彼女は知らないだけだ。律儀に応えた彼女を尻目に俺を睨む主は相当に切れている。
彼女曰わく、恐い顔だ。
「見れば分かる…」
嘆息しつつ主は言った。彼女の背後に回った主は体重を掛けないよう流し台に手を付き彼女の細い体を羽交い絞めに拘束した。
「なによ、自分から聞いて来た癖にぃ」
俺を無視する事に決めたのか、はたまた見せ付ける為か、主は己の顎を彼女肩に置く。
「ひゃ!つっ〜〜〜!ちょ、とぉ!くすぐったい〜〜っ、い、息がぁ〜〜!!」
なんとも色気のある抵抗だ。雄を昂らせるのにコレ以上ないのではないかと俺も思う。
主は楽しそうに笑っていた。
今更そんな風に見せ付けなくとも俺には手の届き様がないものを、主はどこまでも狡猾で独占欲が強い。
「ちょっと、ヒル魔くん!どうしたの?!」
知らないのは彼女だけだ。
「なぁ?」
「つっ!!だからぁ!耳元で喋ったりしないで!」
「ケケケ、止めねーよ。ウラ、手ぇ止まってんぞ?洗い物とやらはもうイイノカ?」
「やっ!だ、誰のせいだと…!」
「なぁ?姉崎サンヨ」
主は一際楽しそうにそう囁くと、さわさわと彼女の尻を撫でる。
「!?」
ビクンっ、と彼女の体が反応を返し、同時にガチャン!と食器類が擦れる音がした。
主は素早く彼女から離れる。俺も最早彼等を傍観出来うる位置にいた。
彼女は手の泡をさっと流し、水気をエプロンで拭き取ると壁に立てかけてあったモップを手にし、主を振り返った。コンマ何秒の早業である。
「セクハラ悪魔さん!今日と言う今日は許さないわ…!」
怒りに声を震わし彼女はモップの先端を主に向けている。主は応戦する気がまるでないのか部室の出入り口付近で白旗を振っていた。
「ケケケケ!どー許さないつもりかは知らねーが、コレは有り難く頂戴シトイテヤリマスヨ」
そう言って主が右手からひけらかしたモノは彼女が隠し持っていた主へのバレンタインデーチョコだった。
綺麗にラッピングされた小振りのソレは主が来る前に彼女が俺に相談を持ちかけた発端だった。
チョコがまだこびり付いた鍋を俺が舐めているとき彼女は溜め息を突きつつ言っていた。
『甘くないの作ったの…数も少ないの…二つだけよ?小さくもしたのよ?…でもね…ケロベロスも知ってるでしょ?』
そう言って俺の頭を撫でる彼女は悲しそうだった。
『ヒル魔くんは…甘いモノがキライなんだもん…』
だが、彼女は知らない。
彼女だけが、いつも知らない。
「なっ!?いつの間に!?」
ハッと、慌ててポケットを弄った彼女だが、其処にソレはある筈もなく。当然の様に主の手中にある。主はソレに口付けて見せると彼女を挑発した。
「!!」
かぁ〜〜!っと、赤くなった彼女を流し見て主は反転した。帰って行こうとする主の背に彼女は叫んでいた。
「ちゃんと食べてくれなきゃイヤだからね!!」
ひらひらと後ろ向きに手を振っていた主が、その後彼女のチョコを食べたかどうか、俺も知っている。
いつも知らないのは彼女だけ。
END
遅ればせながら
ハッピーバレンタインデー♪
ケロちゃんはオスである説に一票!(笑)
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