投稿する
[*前] [次#]



ハヤブサ
 しもつき、なな



点滅する
やさしくない世界に、
うつくしい人があふれかえっていて
ぼくはみずうみの金貨に
なったっていい
低いところでさわがしい夢を、
見続けるんだ

叫んだりしないよ



いつか温かい手で、腕とられて
砂漠の嵐の日
酸性雨にとかされながら
わらったりしたいね




欲するものなどきかないで
さそり座が
赤く
ぼくは排水溝で
三角になって
すわっているから


そして夜を待つんだ



[編集]

Re:
 藤倉セリ
 

答えられない黄昏に
お返事を待っている沈黙
古い石段は長くて(短くて)
足りないものばかりが
さみしそうに寄り添います
大きな赤い鳥居の翳が延びて
その先にある坂道を登りきると
海は急に広がっていました
寄せる土用波 反す枯山の風
大きな白い鳥が溺れるのを見ましたか?
啼いて暮れてゆく世界の端っこで
朽ちた松の一枝が茜色に染まる
おろしたてのミュールが少し痛いけれど
あなたの横顔が怖くて見えない
ねぇ、…なんて言ったの?
うまく聞こえなくて
微かな唇の残像だけが
暗い海から呼んでるようで
わたし、怯えながら
ちゃんと笑えるようにと
この日の為に練習してた
わたし、練習してた
「…れ…」
と呟いたまま顔を伏せて
それでも
ちゃんとお返事ができますようにと
祈るように指輪に触れていました
 
 


画像
[編集]

午羽
 木立 悟




切り取っては
別の空に貼り
せわしく曇り
鴉は鳴る


こわがりな子らのための菓子
運び馳せるものの頭上に
爪と牙と花の午後
交わることなく生き急いでいる


水の音は無く
立ち上がる雨のむこうから
思い出せない寝息のような
羽の音がひとつしている


目の前に居る人 居ない人を
じっと見つめる
かたちはどこへゆくだろうか
ふちどりは共に居るだろうか


溝の両側
重なる光
飛び立ってゆく
浴びている


桜色の爪
透る指
隠れた応え 鈴なりの息
寝床のなかの 無数の朝


反芻とも輪唱とも異なる径を
裸足の音は静かにめぐる
戻らぬものの洞に降り
積もりつづける笑みを見つめる


泣いている背に菓子は溶け
羽になり森になり揺れている
昨日以外の空の継ぎめに
遠く遠く鴉は鳴る













[編集]

赤い血なんてみんなうそといううたがあったらどんな顔をしてみんなは聞くだろうか
 ホロウ




赤い血なんかたぶんうそだろう
ぼくはそれを見たことがない、ぼくはそれを
それを見たことがなくて
頭を掻きながらぶつくさ言ってばかりいる
赤い血なんかたぶんうそなんだ
信じられない気持ちのほうが強いときには
「信じる」なんて言わないほうがこころによい
信じないことがわるいことであるなら
ひとの一生なんか百年もいらないさ
スローガンにしたがってぼんやり動いていればいい
赤い血なんて、たぶんうそだろう、そんなもの
そんなもの、見たいとも思わない、すこしも、つゆほども
それはあざやかなのだろうか
それともどきっとするほどの
あたたかい温度を持っているのか
それにふれたとき
すべてをゆるされたような、そんな気分になるだろうか
ぼくはそんなもの
すこしも見たいとは思わない
上手に泳ぐためには
だれだって一度二度
おぼれてみる必要があるじゃないか
たやすく叶う思いは
この世でもっとも信じちゃいけないものだ、とくにそう、こんなもの
こんなもののなかに、真実が隠れてるなんてかんがえちゃいけない、ポエットの
内容とは
ことばで塗り絵をつくるようなものだ
いろの明暗とか、構図のつけかたとか
はたまたどんな額縁をチョイスしようかなんて
プランニングをして差し出すみたいなもんさ、プランナーと違うのは
自分ではじめて自分に委ねればいいというところ
自分に委ねればいいということは
責任もすべて自分のものだ、しくじったら
こいつはそれまでたと思われておわりになるだけだ
赤い血なんてたぶんうそにちがいない
それがからだのうちにあったとしたらなんだというのだ
赤い血がそこにあったら、こぼれることばは
とてつもなくあざやかに
かがやいて見えるとでも?
見えないものは
あってもなくてもかまわない、知らないけど知ってる
知ってるけど知らない
どちらかに決めることを
真剣さと呼びたがるなんておわらいぐさだ
音楽と音楽のあいだにある空間のなかにぼくだけの音楽がある
ことばは音符だ
ぼくは
旋律をつむぐのだ、さいしょにうまれた人類のきもちで、野性というものの
自由であるがゆえの
いたらなさをおぼえながら
きみがもしかいっしょに
これをうたってくれたらすてきなことだよね
だけどそれはとてもむずかしいことで
ある日にはすれ違ったことさえ
気づかないであるいていた
ひとりぼっちでいることなんて
ひとりでいるときには気にかからないものだ
ぼくには
つむぐためのゆびがあったから
赤い血なんてきっとたぶんぜんぶうそ
たましい、なんて
あやふやなものに確信をもつのはやめなよ
赤い血なんてみんなうそだから
きみが読んでくれたらいい
きみが
読んでくれたら
いいな



この旋律を









[編集]

朝の、底
 望月ゆき


からだのすべてを耳にしてしまいたい、いっそ





糸電話から伝わった振動が、
あのひとの声だったと気づいたときには、もう
音もなく、底はふるえない
わたしを塞いでいく夜にも、たしかに
変わらないものはあって
混沌と流れる世界はいつも
青信号ですすんで、赤信号で止まる
右にも左にも曲がることはない
糸をたぐり 交差点を直進して、
底がふるえた、さいごの記憶を拾いあつめては 
皮膚に貼りつける
宵の空には、おうし座のすばる




わたしの奥深い場所にある
地図にない湖の、水面が揺れて
あのひとに似た背中が
釣り糸を垂れている
午睡に見た夢の、それは続きかもしれない
夜の継ぎ目で囲われた、その映像は
ただしい角度で見えているのに 
音を、持たない





二人で観た、映画のタイトルは忘れてしまったけれど、
帰り道であのひとがたくさん教えてくれた、
星の名前だけ、ぜんぶおぼえてる





何度も、触れていたはずなのに 
あのひとを形成するいくつもの部位の、
温度さえ、おぼえていない
テーブルの上でこぼれて、気化していく炭酸水と
おなじ速度で 
夜が、ほどけていく
明け方の空に、おとめ座のスピカ
わたしの右手で、左手を結んで その
体温をたしかめる
ひらかれていく皮膚を擦ると、そこから
朝の、声がうまれて ふたたび
ちいさく、底をふるわす










[編集]

鎮魂歌
 腰越広茂

おもいでの形見
私にとってこれは
変わらないことのひとつ
ここには風は吹いてこないけれど
ほがらかなひだまりがぽうっとしている

いつまでも
微笑する宇宙のふちで。
私の子午線をよこ切る
水声の清らかな尾を耳でつまむと
かわいらしいのどごしで
あふれる調べ

私の知らない世界を
知っているおもいでの形見
この懐かしい未知なる遠さ
コンパスで描かれた未到の設計図で
永遠を葬送する雨を降らす日

濡れる声が歌う
星の瞬く岸辺で
耳がかたむいてゆく



[編集]

曇りゆく初春のそらで
 丘 光平


舞っている
朝の受刑に
曇りゆく初春のそらで

巣を燃された冬は
かわかぬ羽で


風はあかるく
傷を洗う

ほどこされた痛みを
つなぐものたち
あらたに汚れて


しのぐために
花をかさね

しずかなる腐敗の庭で
とだえた声
かぶせた父母の土


曇りゆく初春のそらで
巣を燃された冬は

待っている
木々にかくれて
旅の支度を―




[編集]

ひとり ともしび
 木立 悟





壊れた光を抱き
小さな別れが灯り
足もとに背にまとわりつき
押しのけても押しのけても
指が沈むほどやわらかな
淡くやさしいうたを唱う


ひとつはひとつだと言う
それでもふたつだと言う
ふさふさ笑い
かがやく珠の箱に手を入れ
抄ってはこぼれる夜を語る


歩幅に歩幅が入りこみ
重なりもなくからまりもなく
あたたかさだけがはばたいて
眠りかけたものを起こす
切れはしのはし
つまむ指さき
さきからさきへ
わたるひびき


ほつれてゆく影
水の盾
再び忘れる
髪の行方
堕ちつづけても
わけを拒むもの
器の坂を流れてゆく


到きゆくもの
燃えさかるもの
均されることなく
ひとりきりのもの
掃かれることなく
たたずむもの


砂の光が根元を覆い
むずがゆく枝と同じ夜
ひとつの外側に常に在り
在ることを唱いつづける粒たちの
目を閉じたままの笑みの手のひら
こがねと鬼火の三叉路に舞う












[編集]
[*前] [次#]
投稿する
P[ 2/5 ]
[戻る]



[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]