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ゆびさき
 凪りん
 
あなたは、そのたおやかなゆびさきをしなやかにうごかして、せかいを、瞬く間に変えてしまうけれど、 わたしは、見渡せるせかいからはいつまでもぬけだせないままで、途方もないことばかりを探してしまうから、もう、
遠いところへいくことはできないのだと、思う。 
まわりには、たいせつなことばたちがあふれているから、きっと、この海でおしまいなんだって、そう思うから、だから、ねぇ、あなたはそのゆびさきで、これからもいくつものせかいを変えていってほしい。
遠くに浮かぶ灯台の灯のようなやさしさで、いつか、いつの日か、せかいじゅうの海があたたかいものであふれかえるまで、そのゆびさきを、ふるわせながら、この海をこえてほしい。
 
 
わたしのゆびさきは、あなたのようにうつくしくはなれないけれど、あなたが、あなたがうつくしさを教えてくれたから、この剥がれた皮はじきに固まって、ゆびさきを、いまよりもぎゅっとつよく、
やわらかくしてくれて、そしたら、ほら、だいじょうぶって、あたらしく生まれてきたあたたかいものを、わたしは抱きしめることができると思う。
そのころに、
もし、あなたのやさしさがわたしの海まで流れてきたなら、その時はあなたの仕草で、
ゆびさきをていねいにうごかして、この、
あふれかえる青の中に、あなたへの手紙をそっと、
祈ろうと思うんです。
 
 



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ブランコ
 真山義一郎


芳ばしい風の中で
やさしく揺れているのが
今日のブランコです

青い空
それに気付かずに
エーテルの巨大なビーカーの中で
溺れかけていた
私がいました

君はどうして
そんなやさしい瞳で
栗色で
僕の両耳を引っ張って
助けてくれました

遠くからたくさんの色が
パレードで戻ってきて
原色に切り取られた
公園に
子どもたちが集まってきます
ちんまい手に
ちんまい足に
ぷにぷにした
ほっぺた
きゃっきゃ
きゃっきゃ

夕焼けは
ことさらきれいです
暗い宇宙の天井から
茜色の公園へ
鳥は白く切り取られて
いくらでも飛んでいきます

美しくて不完全な人間と
美しくて不完全な世界と

耳をすましてごらん
潮騒です
海の近くで
夕日はにじんで
溶けだして
海が燃えるように
陽は落ちていきます

腹から笑えた子ども時代と
また子どものように大爆笑の
間を
ぎいこ
ぎいこ
揺れていて

ゆっくり
ゆっくり
揺れていて

手をさしだして
色いっぱいの世界に手を出して
君へ手を伸ばして
世界が穏やかに笑って
ブランコは揺れます





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麻痺
 鈴木

 或る三等星を巡る地球は虹に袂があって
 生む糞は三千年の香り
 春秋の朝日に照り映え雨露に溶けず佇んでいる
 五寸ほどの身
 中心を分かつひび
 通る風が言葉を作る
 
 一頭の牝牛が母の病身を癒す法を尋ねた

 arba arba toco rarba
 sumneitcrace sikisame
 tocorco sasa peeseen

 呼吸をやめた顔に浮く
 漆のような
 皺のできた
 崩れかけた目に寄せた夢である
 へたくそなリコーダーを聞く
 割れた高いレと汗と涎から成る有機化合物
「夏」
 の為にスコップを振るうのだ
 先端の錆が掘る砂に
 味を選り好みせぬよう願う
 願う
 を惹起するアブラゼミへ舌を打つと共に
 虹の袂の糞の言を頭の中で唱える
 
 arba arba toco rarba
 掘る
 sumneitcrace sikisame
 持ち上げる
 tocorco sasa peeseen
 捨てる

 蔀ができる

 呼吸をやめた顔に浮く
 漆のような
 皺のできた
 崩れかけた目に寄せた夢である




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みどりこ
 ピクルス



みずうみの名は
みどりこ
といいます
その昔、此処は険しい谷で
人も獣も草も水もありませんでした
みどりこは
ちょうど五本指の掌みたいなかたちをした
ゼリィ状のみどりこでした
ひらいたりとじたり
むすんだりひらいたり
しておりました

或る日或る時に
高熱を出した我が子を
看病の甲斐無く逝かせて仕舞った若い母親が
みどりこに墜ちてきて
そのかたは死にました

以来、みどりこは
救われなかったり報われなかったりしたかたがたが
いつもは平気な顔をして笑ってらっしゃるかたがたが
がまんがいっぱいになった時に訪れるみどりこになりました

みどりこが溢れてゆく塩辛い水を
いっしょけんめいに撫でていると
すこしずつすこしずつ
すまなそうな顔をした魚が
赤ん坊の頬の色した巻貝が
童女の髪を梳くように海藻が

此処にくると
幼子を喪った母達は
また純粋な流れになって
口紅をつけない母の詩になるそうです
乳を腫らせたかたがたは
数珠を左の手に握りしめ
玩具を右手に大事そうに抱えて
みどりこに向かって
ごめんねごめんねやっとあえたね
と口を揃えて云うのです
それはそれは
うれしそうに






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グリン・ネオン
 ルイーノ
 
 
この町で
冬の朝焼けは
まるで地獄のようです

埃の姿で影が舞う
天球を阻むその上に
奸の島
燃える黄泉は震えている

何度目の夏だろう
(何度目の夢だろう)

それはまったく雪のよう
ああ
見失った菜の花たち
海面の起伏が息づく
熾烈な百合の花弁の中
決して消えない
影を見ました

風が掻く
この墨絵の彼方には
今でも百合が沈んでいます
 
 


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