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騾馬/蜘蛛/鬼/ピーカフ
鈴木
昨晩は錯乱して
まるで
密林で春をひさぐ女たちの
割烹着に付いたシミのよう
木漏れ日の夜を塞ぐバスクが
なりをひそめ
フランス調の哀歌が響くとき
騾馬に詩歌をつまびらくエルフこちら向き
毛づやよいか
遥か彼方に血潮ふりまく朝か
ミクロを通して聞こえる声が波濤になり
五等星を飲み込んだ
*
愛と心臓のふるさとを追い
辿り着きたるは盲目のタランチュラ
穏当な二重まぶた潰して猜疑食え
千年経ってバラバラになった
毒牙
見る影なく
それは一本のしらたき
さぶらうは液体窒素のような
地層のぬくもり
(にべもなく包まれて
あのクモはたぶん
蓄膿症
だったのだろうね)
*
しゃがんでハーネス見つけた鬼
体長二センチ、赤く、ツノ一つ、棍棒一本
少しアフロ、父のにおい、甲高い声
なにする、なにするですかという
ハーネス、齢二歳、青い瞳の男の子
鬼を潰して食う、歯ごたえよく、コクがあり
少し公園の砂に似ている
せまる朝餉の時
母の手ずから作った
*
ピーカフは
ブリキを噛んで枯れた
餞別にもらったムグラを編んで
褥を作ろう
アカネ科の多年草なんです
細長い葉が輪生します
おぼつかない手で
揉む根の吸い上げる水が
汚わいを含んで
それはピーカフ
雨がさびを流さないうちに
なめる
ひそやかな青ざめた甘さを
砕く紐と
季節のおとずれが
次はあなたを解き明かそうとしています
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アンダンテ
望月ゆき
わたしは、ほんとうは楽譜なのです
と 告げたなら
音を鳴らしてくれるでしょうか
指をつまびいて
すこしだけ耳をすましてくれるでしょうか
それとも声で
わたしを世界へと放ってくれるでしょうか
すくなくともわたしは
あなただけを待っていました
ピリオド、のようなものがそこいらじゅうに
点在しているような、夜でした
ずうっとここにすわっていたのに
スタッカートではずんで、あなたは
おとといの晩
わたしの頭上を飛びこえて、今では
4小節ほど先の未来を生きています
西の空から伝うメトロノーム
かすかに、でもたしかに、振動する
あるく速さでね、
って
もどかしく背中をふるわす
そうして、4小節先の未来にいるあなたに
いつまでも、追いつけないまま
ピリオド、のようなものをつなぐと、それは
星座のようなものになり
あしたになったらあなたが
アンタレス辺りにきっといるよ、と
それだけ告げると白く消えていきました
やがて
五線譜のかなたから明けてゆく
レース模様の、朝
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断片集「幸せの庭」
簑田伶子
一.
春待ちゆびが
くちびるにふれて
かた
むね
こし
と
跳ねていく
抱きぐせがつくからだめよ
二.
ぱた ぱた
と舞う洗濯物を
清潔とするなら
しろくよごれていた
午後という午後
てのひらは対になっていて
三.
涙ガラスというのは砕いたときに
破片がこぼれていくみたいにきら
きらきらきら放たれていくのです
、ひかりと呼んでもかまわない
ジンジャーエールを川に流そうか
四.
さくらんぼのことを
さくらん坊といったのは
あなたのせい
夜桜
あいしてるをききながら
い抜き言葉 と
こっそりおもったのは
五.
夏の朝のような笑顔で
(愛について語るか
愛を語るか
愛す)
六.
ドロップって
前世みたいなひびきね
夕ぐれが悲しいのは
明白な事実で
それとは関係なく
あなたはうつくしい
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歯(別稿)
稲村つぐ
あ、という発音が怖くて
歯を擦り合わせている
目が覚めると
世界地図は静止していた
先を泳いでいく素足に
あわてて、喉の奥
スクリューをまわす
窓を出たところで
サルビアに捕らえられ
膿み始めた歯茎が
庭にどっさりと
めくれ落ちたなら
クリア
鼻歌のような話を抱えたままに
あ、あともう少しで
舟はここを発つ
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白桃
umineko
真夜中。わたしはシンクの前に立つ。わたしの右手にはナイフ。左手には、先輩からいただいた、いかにも高級そうな白桃。
何をかくそう、わたしは白桃が大好きである。薄い皮を剥いだあとの、あのけば立った白さが好き。押さえる先から変色してやる気をなくすわがままさが好き。細かな繊維のからみあった瑞々しさが好き。それから。それから。
わたしは。果物ナイフで、すーっと上から下へ切り込んでいく。白桃は抵抗しない。白桃はなすがままだ。そして切り口から変色していく。それから、わたしは日焼けあとの小学生のように、慎重に薄皮を剥ぎ取ってゆく。なんとなく、いやらしい。どこがどう、ってことはないのだが、なにげに、微妙にそこはかとなくいやらしい。まあそれはさておき。
果物ナイフは次の一手に移っている。縦切りの、ウサギちゃんりんごでも作るかのごとく、すっと果肉に切り込みが走っていく。だがそのままでは中央の種があってどうにもならないので、わたしは次の一手を何度か繰り返すことになる。
わたしがいちばん好きなのは、夜明けのグラデーションのような、白桃の断面だ。無粋な圧力で変色していない、ただ切り立って毅然とした壁。
いくつかの切片で本体から分離された桃をそのまま、ナイフで口に運ぶ。桃にかぶりつくのは、あれはナンセンス。鋭利な金属で無理矢理に引き裂かれた繊維、そのやるせなさがいじらしい。わたしはシンクをぼたぼたと濡らしながら、一心不乱の昆虫のようにその物体にのめり込む。切り立った断面を容赦なく口に押し入れる。音もなくつぶれ、ちぎれ、瑞々しい果液の甘さ、逃してなるものか。
欲しいと思ったものが今わたしの中にある。それは一瞬で終わっていく。
そんなふうに愛したことがあった。
そんなふうに。
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霧雨
吉澤直晃
梅花は苔むす庭石に落ち
枝には露が並び
眠りのような光を透かす
赤い更紗を纏った女は
しのつきの流れに
髪からこぼれる香りが
はらまれていく
遠い椿の葉と葉の隙で
土を啄む鳥は雀か鶫か
飛び行く際に知られるけれども
尾の散らす水を追えば
霞を映して白く紛れた
笙の音じみた耳鳴りが
女の膚と敷石のつやめきを重ね
輪郭をはっきり定めてしまう
衣をほどいて庭に降り
梅の木の下で宙を仰ぎ
落ちる滴は凝脂を滑り
なだらかな線を残して
乾墨へ消えた
春風の散らす雨と
小鳥の鳴く声の中
女はうち微笑んで
唇を近づけていく
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小舟
凪葉
夜は落ち
砂を散らす
風の群れ
息を止め
雪消月の海へと
歩む
足の冷たさ
手のひらに
くるまれる 葉の小舟
浮かべる水面
ゆらめく 星月
きえていく
積もる 言の葉
今だけは、と
留めて 祈りを
見据える
瞳に添えて
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くろひとえ
ピクルス
電話ボックスの中で膝を抱えていたね
名も知らぬ群青の子
葉むら草むら眠りの繭
あの人に前髪を触られたい
そうして
あの人は鶏頭の花に口を寄せるんだ
あたしは
まだよちよち泳ぎながら
アールとエルの発音が区別できないでいたの
駅、階段、笑顔ポスター
賑やかな靴音に
そっと耳を塞いで座るベンチ
あの人にあげようと買った花を
浮浪者のオジサンにあげて仕舞ったけれどいいよね
発車のベルが鳴り響く
人波に押されてオバアチャンが転んだ
大丈夫ですか
と、手を差し出したら
ふん、そのテにゃのらん
オバアチャンは油断のない眼をして
あたしを睨んだ
また誰かがラバを叱っているんだ
よーいどん、なんてだいきらい
おしえて
なぜ
正しく美しいものは切手の中にしかないのかを
どうして
繋がれている犬達は困ったような顔で
あたしを見るのかを
パラソルが開くように
この星がそんなだったら
どんなにかどんなにか
ねぇ、
おみくじを拾ったよ
大凶と書かれてあったから
あなたの笑う顔が浮かんだの
影絵みたいに捲れてゆく記憶
映画もプラネタリウムも席は二つ買うの
あたし、
がんばる
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