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数と光
 木立 悟



三度に分けて呑み干す光
その日かぎりの地図にこぼれ
街はひとつ低くなる
空き地は碧くたなびいてゆく


わずかに曇った風が吹き
ふところに涼しく正座している
頬を染め 空を見つめ
目をとじ 空を花にする


光に頭を入れてころがり
背から次の光に触れる
昼が午後の花に落ち
午後の花が 午後に落ちる


光の壁が次々に倒れ
道に積み重なってゆく
霧の柱に立ちのぼる
どこかへ還りつづける群れ


流れは二色に練られている
触れては触れては消えてゆく
左目から去り 右目に生まれ
ひたいに光の輪を描く


降りそうで降らない曇を乗せ
まぶたは少し重くなる
見えない輪の影だけが
午後の手のひらに浮かんでいる







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羽むし
 丘 光平


 赤 しろ 黄いろ、
おくれさきだつ花のけむりを
廻りつづける羽むしの
こどものようにしずかな問いを
 風は 打ちつけるのです


 母よ、
わたしはあなたを選びました
そして あなたの内部を
紙のように切り裂く
さなぎのうぶ声
母よ、
 あなたはいまも聞いていますか―


  赤 しろ 黄いろ


 きえてはともる夢のまた夢
眠り覚めやらぬ羽むしを
あわれみたもう瞳の水面を 
わたしは
 打ちつけるのです



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彼女のスプーンで泳ぐ
 しもつき、なな


すこしだけ
ななめにゆれてたカルキが
ぼくらにはまったくの知らんぷりで
とける





クロール
いまだけは
きみとおんなじような感触をとらえられるね
それだけが嬉しくて
あぶくを蹴る


平等に呼吸をうばわれるから
いっしょに泳げばなんだか
逃げてるみたい


そうやって
迷いたがりなきみが
かわいらしげなこえで
「溺れたふりをしてみよう」
だなんて

(ぬれた髪をほどくものだから)
もうおぼれているよ、
と息つぎがてらにくちずさんだ
水をやぶって
ゆるゆると塩素にふれたきずが
炎症をおこしてうろこになって、



たたんたた、きみのやさしさが
そんなことをいってはだめよって
叱りたがってほほ笑む

体温より6℃だけひくい
雨水みたいなやわらかいぬるさを
くちびるや鼻腔でかんじては
きこえないふり








ゆうがただから、と
キスをすることをやめて
あついシャワーを浴びにゆけば
鱗だって、かんじたことだって、
もうなんにもなくて
のこったのは
かなしいことをしゃべる
きみだけ

「あいしてる」を
ゆるして、にすっかりかえてしまう
きみだけ




スプーンにはありふれた砂糖みたいな
ちょっとのあまさだけ



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シークエンス
 ミゼット


よるのでんしゃに
したいをつんで
ごとごとごとごと
はしってく
わたしはねこを
さかなをはなを

ほーむのすみで
あかりのとどかぬ
そのくらがりで
えなめるのくつだけ
てらてらひかる
こゆびのつめにあかんぼう
どろのひーる
でんしゃをまつひと

けいこくとうのむこうで
みずがあふれてる
よるのでんしゃにさわれない
らんぷがきえたら
でんしゃはいない

よるのからだは
こころがおもい
おまえをのせてはいけないよ
しんぞうのうらをでんしゃがとおる

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天球へ
 腰越広茂

真夏に日車は、咲いている


雷鳴の空を裂く。
轟音で目を覚ます
一輪車に稲光りが青白く反射する
一瞬で葉陰の殻は黒焦げになり
焼けた臭いに鼻をひる
傘の骨はしろがね色で
死灰の暗さを支えているのだ
その時から、

黙秘している夜行列車の無告が
息継ぎをする無人駅には
生まれたばかりの切符を切る音

精神統一をしているサーカスが
空中ブランコで交わるが
質量不足で滲んでしまい感無量

あってはならない
大空が焼けおちるなんてことは
道化師の手には造花が一輪
浮上へ沈下しながら溺れているし
車掌のポケットには錆びた笛
発車時刻は静止している風鈴だから
ゆく夏の雷に砕け散る
亡霊の影が
ひるがえり覚醒した
星星の光
。眼から星が流れておちてしまうの。


雷鳴が静まるころ
絶えまない葬列に
未だ不足はありますか
さいはての大輪を手折るのかしら
空蝉が鳴くのです

墓守は、いまもしづかに微笑んでいる


※ 日車(ひぐるま)→ヒマワリの別称。

※(ふりがな)
死灰(しかい)、雷(いかずち)、眼(まなこ)

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あいに眠れ
 しもつき、なな



きみのみずいろになりたくて
絵の具をたくさんのみこんでいた
そんなふうに日々を眠ってゆければ
どんなにかしあわせだろう?、



やさしいひと、ときみは呼ぶ




すべてを
形容詞のせいにするな
沈め、くされ、奪え、愛を、
はてた泣きぬらしの八月
みればいいじゃないか


クシザシにしてくれる?

あの日の夕方が加速して、
わたしに慣れてしまったなら
ゆるやかないろでもって
おいでよ


 
 
 

くちびるに
ことばがなくてさみしいね
詩にしてしまいたい情景やらを
きみはかんたんに消してしまうから

斜めうしろに爪をすべらせて、



けたたましく燃やされる群青といっしょに
消してしまうから




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再生
 腰越広茂

指先で爪
らしい
爪 らしく
きちり

、血のうずく)。不安定な水晶時計(、
の公転にはなじまないけれど
今日のような雨天では
暗雲にさらされて
爪を)紅くぬる

さっと泳ぐのは エンゼルフィッシュ
(水槽で水草が息をして
こんなにも近しい雨に
 私の心音までも しーっとぬれてゆき
天の河

きちりきちり
いいえ泣いているのじゃない
そうでしょ?
とかさねてぬって
さっと泳ぐのは エンゼルフィッシュ
深く深い雲の向こうへ
じんわり暮れていく 血潮



 焼野が原が広がる夜だったそうだ



雨に浮かびあがった くびすじの
しろくほそい傾きが
数え歌を折り返す
暗かった空が
果てを得て澄み
姿見のまえで爪先のバランスはあかくあかく


※水草(すいそう)

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