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蛍追い
 藤丘

それがほしいのだという
網の籠を背負って
捕まえて入れるのだという

静かな息に
舞い上がり漂ったのち
重さを感じて落ちてくる頃に
掴むのだという

小走りに途切れて
靴音の後ろから呼ぶと
ほんのり丸い標が
瞬きの裏に
しんと
しぃんと浮かんでいる

燃えているのか
束の間に
遠く留まっては立ち昇り
燃えているのか

耳を澄まして
暫くは
零れた頃に見上げ

蓋をした先から
また
点々と翻った
それがほしいのだという


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リボン
 ルイーノ

プラネタリウムに
無数の鉤き傷

取り返しようの無い
毒素に沈んだ
抱かれ易い鑑賞魚

底冷えのする水槽から
甘い
パステルの音階を
引き伸ばして
熱のあるときは
いつも
泣く以外に
なかった
死ぬ以外
真実は在るか
眠る以外
逃げ出す方法は
在るのか

よく晴れた
木漏れ日で未練

まぶしい程の

ポインセチアの反乱に
狼狽える
視線が
涙ぐんでしまうとも


鈴の音は聞こえる

沈黙の夜の
つめたさ
振り上げられた斧が
幹に食い込むその瞬間
ぼくはきっと
謝ろう

歌う時間なら
いくらでもあった

しあわせな子供
あそんでいる子供
ねむっている子供
泣きぬれた子供

百万の色のリボンに
この魂がなればいい

それは命の綱
かすかな望みの
ミルクの道

子守歌の暖炉は霞み
悪酔する水銀の星に
顔を覆うのは獣の指先


だから贈り物だけでいい


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女友達
 ピクルス
 
まるで、その背中から
おぼろに光る翼が生えてきそうな
おんなのこ達
三十を過ぎても
ひらひらと

生きていると初めて知るのは
人が曲線で結ばれている
と解る時だ


黄昏、降りだした雪に
次々と開く傘は蝶のようです
その狭くて広い世界で
もう少しを寄せ合って
夜を待ちきれずに抱擁を繰り返す
世界中の世界で一番の恋人達の曲線

ひとつだけしかない、それぞれの隙間は
欲しいもの
おなじだけの
見えない「はんぶんこ」に殉じようとする
祈るような仕草は曲線
いつか夢で見た
メリーゴーランドの時間は
いつも夢で見る
大切だった人の瞳に映るのは

見えなくなっても手を振って
凍えそうな掌達は
躊躇いながら
紋白蝶のように
揺れている街の灯
あの下品な灯りの、ひとつひとつに
くすぐったい言葉があるならば
どうぞ
独り、膝を抱える人達が
手鏡を光らせた夢の続きで
明日という日に挨拶できたなら
どうか

結ばれなかった雪は
ますます深くなった
未だ誰も踏んでいない夜更けの雪道は
微かな確かな死が匂う
無垢だから美しいなんて
教会にしか書かれていなくても


信じています
という脅し文句を軽蔑して
死んだふりを好む
無口なおんなのこ達は
何かに驚いたように
重いカーテンを開けた

三十を過ぎてから
命令する事に慣れた
結べない事を嘆かない今更
誕生日には少し時計を遅らせて首を振る
頼りない溜息だけが
贈られた手鏡に降り積もる

解ってる

生きていると知るのは
掴もうとしている情熱
生きていると知るのは
手放した時の静寂


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