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家に帰りたい
 狩心


暗闇の中/外灯/マンションの光/走り抜ける自転車のライト
鈴虫の声/ざわめく木々/血に飢えた獣たちが横切る
ポケットの中から取り出した一粒の飴を
震えた手が地面に落としてしまう/砕け散った飴
踏み切りの音/誰もいない公園
ジャングルジムだけが昼間になり/風もないのにブランコが揺れている
人の形跡を追う/地面に残る足音
道に沿うようにして建てられている
絶え間ない電信柱に人々が磔にされている
カタツムリ/家/家の前に眠る車/衝突を繰り返している
距離と影で作られた立体/白いブロック塀が途切れて
現れた/夕日の面影が残る歩道橋を渡る
捨てられたビニール袋が散らばっている
少し高い位置から町を見下ろす
どこまでも続く道/置き去りにされた自転車
蜘蛛の巣にへばり付いたガムが蜘蛛を飲み込む
後退りして見上げれば星空/息は凍えそうで
バス停のそばに地蔵様がいて/居酒屋からは白い煙が立ち昇っている
家に帰る為に左へ曲がりたいのだが/左へ曲がる道が一本もない
蚊の飛ぶ音が耳の中でこだまする/野良猫の喘ぎ声だけが
虚しく響いている




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偏光性青色煩悶螺旋図
 ユキムラハネヤ


 
  ((ら)階段を登るわたし、灰色の、(ば)/坑道、さわりやすい、

  かなしみの、先端、パラディス、(の)/(の、う)み、(み)、

  ちたりたくち(笛)ゆく地、(うる)(わ)、

  『ふる・は・せる』、(坂道)、

  まわりく、たい、(た、い)、『ゆるやかな』

  たまり、(みずうみがたえま)かわく、し、

  羊歯の葉のうら(がわ)、が、(あ、)、り、(ぁ)、

  めくりかえす、「見えるよ、」、子どもは

  ひざのしたで(空に行った)、(や、ら、)・ふ…(に/あ、

  は(‥)、ば、(ら)、う‥、(し、ろ)、硝、

  こだまが(うしなわれた、)うしなう、あ、

  あ、(暗転)、じ、ず、ず、図面、(ぁ/ぇ)

  さわり、あ、るれ、半分はわたしという、うち、の

  せ、蝉時雨、(内側の天球儀)/せわしなく、せみ、

  (なくなる)、夜の、とくべつな発光(対峙、したの

  は/とくべつな『あ』)たしの、見た、

  され(こと)・た、れた、空、(特異なものの森)りぬかれた、

  先(わだち)、長雨に閉じこめ、みずみずしい金色が、

  (均)/ひとつの弛(いんせいの、か)かがやきを、大地に、(吊ら)

  ついたてる、目映い閃きが、雨の、遠くでな、(く

  なる)、(らくだ)(し・く・な/る)(あ)(の)‥、

  (ば)(かなたの)、澪(み)・つくし、見わたす

  か(霧)なた、の/あ(な)‥な、た、のあ、(い、き)

  たの、かなしい0/ふた/こころ(・こ)(・えたの)(ば)

  ラ(の)ダイム、(し)、えず、のは、百舌鳥のこ、

  し〇/だ(のは)、画の上に零した、道、(ら)

  (いろ、を、)知るものなんて、(階段をのぼる、あ)、ま、

  だ、(シシリエンヌ)、(れ、な)(の)(だ)(また)

  『ヌイの鳴く』(こごえて)、見わたす、せん、

  (の)り、の、真中に、(ば)、(ら、)(の)金色のただひとつ、

  (特異な)、(感覚?)、ま、(れ)、(る/眸、ま)(あ、る)

  それという、(・均)、(潟)、ゆうぐれの、あまたの、あ、

  (ら、あ、)ま、だ、れ、(の?)『こういう』(夕風いろ)

  (零)(ころ)(か)(もん)(絞まる)(さは)(り)(安む)

  (違う、あ、)(や‥)巻る天球儀の、な(、ぜ、)(‥)(そ)

  (して)(の、ば)(あ)/はだしの長雨、とン、ディア、(ら、

  ろ、) む、の、薔薇いろの、星くず、いし・(とまれ

   )(『そ』<<<

  のいのちよ/(と、じ)(ら‥)・りもさ)あ、(割りやすい)『し』‥

  (静み)あふ(零、か、((えるのは(ずっと))

  (みずうみ)ま、

  (輪の、)(は‥)、割る…、と、)(は)(遠)(の、と‥)

  あ、い(わ)く、(す)(で、も)(な

  く)て、))




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イントゥイツィオン
 橘 鷲聖


 
瑞々しい深緑へと注ぐ光陰が
複雑幾何に斑紋する中で
険岩流水が脈動している
ハンモックで胸の上に神秘の祈りを組み
眠る女の唇が
ラ、の音を発したのか
それとも
夢の淵で無心に触れた鍵盤のキー
ピンと立つ耳
白くて大きな犬は
血まみれで仰向けになっている俺の耳元に鼻を寄せた
「おまえが欲しいものは何だ?」
乾いた血で塞がった両眼がバリリと開く
死にたくなるような赤い夕空
いや、それは眼前で飛沫いた返り血
驚きに見開かれた彼の瞳を見たその時
彼のその一生涯の
魂の記憶のすべてが
数十年の歳月が
わずかな瞬きの間に
俺の中に集束しフラッシュバックした
そして死の間際の壮絶に
俺は俺を見た
どうすればいい
今度もラ、の音
長い余韻、誰か、美しい水辺の静寂(しじま)、高音の
キーを、女の素足が青草の上に降りる、全身を戦慄かせた「俺は」
悲鳴にはならない悲鳴をあげてんのは、俺か、白くて大きな犬の、右眼は空のように澄んだ碧、「俺は」、ラの音、「どうすればいい」、無人のハンモックが揺れ、左眼は、音、ルビーのような深紅、背後からの一閃、をかわす、「どうすればいい」、犬が俺の頬を舐める、ラ、鍵盤、あの曲は、ラ、ラ、ラ、懐かしい
十字架を背負って丘を登る人の、夕陽に照らされた横顔は、誰だ、あの何十万の兵団を統率し戦場へ赴くその人は、誰だった
「おまえが欲しいものは何だ?」
意思の無い鉄と骨がガチャガチャとぶつかり合う中を走った、本当に赤い雨が降っていた、自分の怒鳴り声が聞こえない
汝に主のご加護があらんことを、誰だ!、俺の味方は誰だ!!、今、殺したのは誰だ!!!、ガチャガチャガチャガチャ
女の髪を引っ張ってゆく、誰だ、首の無いあれは、誰だ、助けて、誰の腕だ、ラ、目眩、紋章だ、犬が俺の頬を舐めた、今、殺したのは、誰なんだ、燃えている空が、鍵盤が、真っ赤に、まただ、天使が、ラの音が、俺は走る、祈り、白い小さな犬を追って、「教えてやるよ」、無数の飛行機の群影が、銃声が、回転ドアが、悲鳴が、俺が、おまえが、誰かが、汝、ラ、ラ、ラ、ラ、太陽、素足を水に浸した、動かない母親に、死にたくない、抱かれたまま、水の波紋、掌に打たれた釘、「教えて」、泣いている、ラ、誰か!、ご加護があらんことを、幼子が、「教えてやる」、爆音が、塔が、黄金の射程を描き、俺は追いかけ、灰が降り、あの曲が、ラ、ラ、吹き飛ぶ、白いドレス、ラ、あれは、魂の記憶のすべてが、ハンモックから落ちた聖書が、飛行機が、ラ、ラ、ラ、今度も
タン
その物音に女の華奢な背中が振り向く
白い獣が傍らの岩から向こう岩へ跳躍していった
俺と女の視線が、ラ、一瞬だけ交錯する
その後、どこをどう走ったかは知らない
白い大きな犬は
断崖絶壁と満月を背にした覚悟
待っていたかのように
そして今、飛び降りようとする影に魅入られ
その尻尾を掴もうとして
「俺は救いたかったのだ」
と思った
俺は今、迷わずに走らせているものを
信じる
 


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リスク、
 望月ゆき


夜が、二足歩行で
足早に通り過ぎていく音を
淡い錯覚にくるまりながら、聴いていた
抱きしめあう行為は どこか
呼吸と似ていて、ときどき
わたしたちは声を漏らす
ともすれば 
この部屋に充満しそうになる 孤独に、
上書きするためだけの



遠ざかる、オノマトペ
曖昧に音階をずらしながら消えていく、それに
反芻してしまわないよう
はやいため息を かぶせる
閉じられた耳の、
奥の、ずっと奥で、あのひとの指が 
今も 愛撫をつづけている



半音だけずれたまま はじまる、あした
そうして また
慣れない左足から 踏み出しては
おんなじところばかり、すりむくのだろう
二足歩行が得意な、夜に
傷つきたがるわたしたちの 悪い癖
かさぶた、その下の
リスク、



常夜灯をたよりに つま先から
てっぺんへと、たどると
用意されていた視界が 落下して
朝が 見え隠れする
ひらかれていく、内側
まだ再生されないままの 皮膚に 
遠くの給水塔から
きのうの雨のにおいが流れこんでくるので
どんなに深く、
深く抱きしめられても たぶん、
泣いてしまう



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DIVA
 文月悠光


釣ってきたヨーヨーが
浴衣の袂をはなれ、
夏休み中ずっと
引き出しの中にあった。
折れたクレヨンやら
針のないコンパスと共に
無造作に
しまいこまれていた。
次第に風船のゴムが古くなり
塗装にひびが入った。
クレヨンたちは
見てみぬふりを決め込んでいる。
そうして
ヨーヨーはしぼんでいく。
祖母がソファの上でしぼんでいく。
祖母が「サイダーがほしい」と泣きながら
だだをこねているのを
ただただ傍観していた。
引き出しの中に押しこんでいた。
見てみないふり。

祖母の声を無視して二階にかけあがり、宿題のプリント
を探すため引き出しを開けた私を、しわくちゃで待って
いた緑のヨーヨー。学校祭の縁日が彼女の内側にある水
のなかにまだ残っているから、私は黄色いはさみを動員
して、祖母のおなかに刃をいれた。

水があらぬ方向に吹き出てきた。
くくりつけられていた輪ゴムも
びしょびしょになり、
二度とはずむことのない
ヨーヨー。
祖母の声が
家中に響いている。
私はよろよろと立ち上がり
冷蔵庫をあけた。
サイダーのペットボトルに
それとわからぬよう
ミネラルウォーターが入っている。
飲んでも飲んでもすぐ忘れてしまう。
呼んでも呼んでもすぐ忘れてしまう。

介護されているのは、誰なんだろう。
祖母をはずませていたはずの、私と家族。

何かをグラスに注ぎいれ
祖母に泣きながら手渡していた。
はっとして身を起こすと、
手にしたはさみからしとしとと
雫が落ちていた。





二〇〇七年八月二十一日



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舞妓さん
 兎太郎

紅藤色(ライラック)のぼんぼりに灯りをともしたその立ちすがた
花かんざしに 銀のかんざし 珊瑚珠(だま)
人形液でしあげられた白い顔
うしろすがたもあでやかに、だらりの帯はおしりをかくし
きみとぼくと舞妓さんの日々がはじまった

舞妓さんはくまさんのリュックを背負って(きみは舞妓さんのこどもっぽさをバカにする)
これでいいの。鏡にふりむき訊いてから バレエのお稽古へ、伽羅(きゃら)の薫る頬をして
ヨーイ、ヤサー。とアラベスク
きみとぼくは舞妓さんの舞台をみにいった
ヨーイ、ヤサー。で ゆきうさぎたちはいっせいに跳ね 
桃色や空色の花がさきそろう
どれがぼくたちの花なのか ぼくにはわからなかったが

舞妓さんの誕生日にぼくが買ったつげの櫛(千鳥の抜き彫りされた櫛 それはきみのものになった)
ちいさな千鳥はながれる髪の上 すべるようにとんでいき 
たおやかに整えられていくぼくたちの日々
きみが電話するといつでもすぐ  
ドールハウスから 紅藤色(ライラック)の振袖をはためかせ 舞妓さんはやってきた

セーラームーンのような恋にあこがれている舞妓さん
薔薇色に薫る頬をして 短いスカートひらひら 薔薇色のくらげのように
きみとぼくの先を小走りにかけていく、
セーラームーンになったつもりで 喫茶ソワレのゼリーポンチにむかって

暴飲暴食。
とうとつに舞妓さんがいった
あきれたおかあさんのようにきみが説明する、
まいちゃん今日は、かき氷ふたつとジュースさんぼん。 
舞妓さんのぽっくりは こみあげるしあわせの笑いをふくんで艶やかに沈黙する 
空には色とりどりの駄菓子がうかんでいた

雑貨屋のうさぎがだっこをせがむ
しょうがないからだっこして きみはあかるいおどろきの声(うさぎの下半身には砂鉄がつまっていた)
新生児の重さ
きみはよこだきにして 
きみとぼくの眼にみえはじめる そのうすい前髪のあたりをそっとなでる
それは舞妓さんがひとりで産んだこどもだった

まいちゃんには友達いない。
きみがいじわるいったことがある
おるもん!
花かんざしに 銀のかんざし はげしくゆれて 
舞妓さんの泣きだしそうな声(その声はぼくの口からでたようでもあった)
ごめん。ごめん。
そのときのきみこころは すなおな珊瑚珠(だま)
それからぼくたちは松彌(まつや)で 金魚と風鈴と花火のお菓子 三にんぶん買ってかえった
………………………………

蝶たちがみずからのすがたをあちらこちら刺繍していたあの街で
きみとぼくと舞妓さんの花が咲いていた





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春にうまれたあなたのこと
 藤丘

ある日
贈り物をしようと出掛けた
セーターを買いに行き
サイズを聞かれた
わたしは答えられない

靴屋に行き
やはりサイズを聞かれ
答えられない

ネクタイを買いに行って
好みの色が分からない

何てこと
あなたのことをあまり
知らない

春にうまれたあなたに
贈り物をしたくて
秋の中をうろうろし
途方にくれて

繁華街にある小さな森のベンチに
うつむいて座っていると
寂しさがこみあげてきた

わたしは涙を認め
愛しいと想うことのはじまりを理解した
枯葉と秋桜の中で





わたしは何冊かの書物を読み
何本かの映画を観て音楽を聴き
そして日記を綴り
気がつくとあなたのことを考えている

あなたが何も言わないのは
旅をしているからなのでありましょう

考えても考えても先へ進まない
わたしはちょうど
満ち潮でもがくオールなのでありましょう

しばらくのあいだ
魚になっているに限ります

でも
眠ってはいけない
泳ぎはからっきし下手で
きっと深く溺れてしまい
月夜の
青い砂浜に戻されてしまうから





冬支度が始まる
暖炉を磨きあげ
白樺を
少しばかり上手に焚けるという理由で
火の門番になってしまった
寒さは三日続いた

炎の形を知っていますか

誰かが孤独の形だと言っていたけれど
わたしには孔雀に見える
一羽であったり二羽であったりする

そうして
掴みどころのない寂しさの中で
窓硝子の向こうの
ペンタスに灯る星を見ている





三キロ先のチョコレート屋まで
犬のロビンと散歩をする

道々でわたしは顔見知りに会釈し
犬同士は
じゃれたりすましたりしている

秋を貫く両袖には楓が燃えて
その真ん中に続くなだらかな小径
わたしの足は
再び戻ってくる道にあり
新しい道の上にもあり
そうしてわたしもひと時
旅人の仲間入りをする

色付き始めた道しるべは
再生の種だ

それは季節のあちらこちらに散らばり
そのほとんどを見つけ出すことは
とびっきり難しい
あなたの車窓にも見えるだろうか





見覚えのある景色の中では
つま先が空を見る
遥かな空を見上げ計測してみる

あなたは遥かで
あなたは空で
あなたは春で

そうしてあなたは
いちばん近いところに
いちばん近いところに
つま先が空を向いている





林の中にも季節があり
気がつかない命の準備がある

そうして循環の中に秋があり
知っている温度があり
かつて耳を澄ましていた春がある

あなたは春にうまれ
わたしは秋にうまれ
季節の中で咲く花がある

花を咲かせる本当の意味を知る
という贅沢は
新たな空腹を生む

そうしてくりかえす営みの中で
時期に逆らわないことの全てと
知らないということに
気付いていくのかもしれない

わたしは秋の林を歩いている
贈り物はまだ届けられそうにもない

遥かな空
あなたは春にうまれた








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転華
 橘 鷲聖

波紋、波紋、億兆の雨音
八百八町の曇天だらぁ、怒声呵々、褌一丁、刺青者が牽く人力車が、ががら、がら
道々にゃ百花繚乱、そこは吉原
然しも、誘蛾灯侘びしく、頓痴気な嬌声も戸の内とは滑稽ぞ
あれ見ろ
盲(めいし)の花魁が高楼に居った
誰ぞ三味線、泣かしちょう
さて指折り数えたんは、何か
梅に雨だれ、ぽつり、ぽつりと
浮き世流れ世、花びらは浮き流れ
待ち人など忘れんさいな
ぽつり、雫
酒呑んでたわきゃないよ
片手に袖持ち、滴りを、掬う真っ白い手
踵が浮いちょう
いなびかり
どんしゃらり、ど、どんしゃらり
しゃらり
濡れた花びら、墜つた
ががらん、車を投げて走り寄った
波紋、波紋、億兆の雨音
曇天だだらぁ、願い乞う星もねぇ宵のこの銅鑼に、哀れな姿身を抱く羽目になるとは、ひでぇ血と雨だ、雨、雨だ
もうええの、もうええの
嗚呼、わかった、嗚呼、わかった
もう泣くな
しゃらしゃらり花が雨に舞い散るばかり
舞い散る、ばかりに舞い、散る
嗚呼、桜、晴天に、はらはらと眩む、刺青の肩に女が掴まり、降りた、車、牡丹刷毛が袖もとから落ちたのを、見やる、気づかずに、行ってしまう様子を、ねぇ、姉さん、これ
ど、どんしゃらり、どんしゃらり
もう泣くな、天理の神さんは見捨てやしねぇ、どけどけ、どけぇ、車輪は捻切れんばかりと、百鬼夜行の暗天下、挺身の牙、飛沫を切り裂き、背中の龍がごうごうと湯気吐き、白い一点になった
雨音が消えた
怒鳴り声も掻き消えた
車の中で
女はうっすらと目を開けた
明るい青空が見えちょう
桜の花びらが真綿のように舞っている
人力車を牽いているあん人の背中は脇目も振らないので
嗚呼、ねぇ、と声を掛けようとして
躊躇って俯く
閉じた右掌が開いて、そこに花びらが落つた
ゆっくり握るように指を折ってゆく
はと、する
人力車は止まっていた
あん人の背中も無い
はらはらと桜が舞って
不安になり車から降りようとしたら、ぽつりと温かい滴が、手の甲に当たり
その手をあん人が
ひっ掴んだ
暗い、真っ暗になり
抱き抱えられ
耳、耳元でおおうおおうと声がした
滴がまたぽつり、ぽつりと
嗚呼、ねぇ、花びらを
嗚呼、ねぇ





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