投稿する
[*前] [次#]

セッション 一、二、三
 クマクマ


あわいにたゆたうスポンジ状の光。向かい側では何を喋っていたか。蝶のトケルマデ、またいで、くらんで、主人公たちにルビをあてる。
後ろの正面に泳いでいる黒衣も、また、体制を整えている。寝返りを打つ度の痛み。

あなたの四肢は、今日の物指し。水晶聖書の中の蛇の尿も、ペンをつまんで歴史になるから、重さに関心がない。
敵意をそなえられない白紙が、検疫を受けてたわんでいく。描けるものは、古いずだ袋ばかりで。何も隠せない。
羊の肉を捌くように、兵士に銀貨を与えるように、同意を得ても、接岸した権力は尚、スクリューの回転を止めない。化粧台におさめた神学。

水をかけても、溜まっていくところは一つではない。だから、溺れ方も多様。
旗と籠の下でふしあわせを売って、云えることを聞いていない。あらわした象徴が似ていても、街道に沿って石鹸が置いてあっても。しゃぶり尽くした骨を拾う。


人型が降ってきて、何をつくろうのかと問えば、全てを復元するのだとのたまうのだ。上では、寒くも暑くもないのか。わたしは、そう伝えてみたいのだろう。
箱の中は、もう組み立てられたまま。特徴を強調することで大きさを誇示しても、比べる対象をしまっているのは海を越えた辺り。探すには、皮膚呼吸ができない。


感情は支持されるほどにばらばらに断ち切る主権だから、引力と云うのはただの誤解に過ぎない。腎虚や和音。変わらないあわいに唾をかけるあざけり 思い遣り。
望みの通りに平行線を引こうにも、わたしのチューブも資産に数えている。もの語りが生きていた頃の滅色混合では、途切れとぎれ。観えないことも、もう、ちょっとの誤りだったから。





[編集]
主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました
 とうどうせいら

あれは忘れもしない
一年前の8月6日
仕事を終えて
家に帰ると
あなたは待っていた

フリルのお母さんエプロンを
ひらひらさせて

おかえりなさい
待ってたよ
ばんごはんの支度が
できてるよ

長い舌をちろちろ出して
オオアリクイが
キッチンから出てきたの

すぐに

ごめんなさい
シンガポールと
間違えてしまいました


きびすを返して
玄関に戻って
帰ろうとすると

玄関には
彼の靴と
わたしの靴が
ちゃんと並んでて
そこはわたしの家だった

いつもご苦労だから
ぼくが
ごはんを作りに来たんだ

オオアリクイは
わたしが持ってきた
スーパーの袋をとって
わたしのかわりに
手際よく
冷蔵庫に牛乳を
棚に明日のパンを
移し変えてくれて
椅子をひいて
蘭を飾った食卓へ
座らせてくれた

やさしくされるのって
久しぶりだわ

オオアリクイが煮込んだらしき
カレーは
きりりと辛いけど
なぜかまろやか

君が
一番好きなもので
作ったんだよ

こうばしいチャパティを
わたしのために
ちぎってくれながら言う

ベッドから
引き摺り下ろすのに
ちょっと骨が折れたけど
いいだしが取れたと
思う

……だし?

そういえば
彼は
どうしたんだろう

口にあったものを
思わず飲んでしまう

あわてて
寝室へ行くと

彼が朝着ていたはずの
黄色のワイシャツと
ピンクのネクタイと
青のパンツが
きちんと
折り目正しく畳んで
ベッドの上に乗っていた

彼が
カレーになっちゃった

わたしは叫んだ

泣くんじゃない!

オオアリクイは
わたしをぶった

食物連鎖 なんだ
みんな
何かを食わなきゃ
生きていけないんだ
悲しいけど
これが世の中の現実なんだ!

そう言って
ひょいとわたしを
かつぎ上げ
足をバタつかせるわたしを
どすんと椅子に座らせる

もうできてしまったものは
しょうがないじゃないか
命に感謝して
最後まで食べよう

わたしは
悲しかったけど
オオアリクイが

君はほんとうはいい子だ

って大きな手で
頭を
くりかえし
くりかえし
くりかえし
なでなで
すると

なんだかわからないけど
そんなもんかもしれない
気が
してきて

オオアリクイが
よそってくれた
二杯目を
受け取ってしまった

もしかしたら
昼間
書類を書いていた
て かもしれないし

ゆうべ
まどろみの中で見た
まるいせなか かもしれないし

一本一本
愛撫したゆびのついた
あのあし かもしれないし

なにを
食べているのか
知らないけど

旨みがじゅわっと
口に広がる
絶妙な味わい

こんな懐かしい味のものを
今までに
食べたことがあったかなあ

もう
喧嘩もしない
どこへも行かない
他の女の人達とお話もしない
仕事の時間がすれ違って
お互いの寝顔だけ
見るような日々も来ない

あなたがわたしに気づかず
振り返ってくれない時
すこしだけ遠い存在に
なってしまったような気が
してたけど

カレーになって
わたしのお腹に
きちんと入ってるから

もうそんなこと
なんにも考えなくていい

ひとつも心配しなくていい

大好きなあのひと

わたし
おいしいと思ってしまったよ

ごめんね

しゃくりあげながら
食べていると

君は悪くない

ってオオアリクイが
また
なでなでする

大きなカギ爪があるのに
なでる時は
爪が
わたしにあたらないのは

どうしてなんだろう


あれから
一年経ちました

ただいま

仕事を終えて
家に帰ると
オオアリクイが待っていて
わたしは
彼のばんごはんに
舌鼓を打つ毎日

スパイシーな
南国の味にも
ちょっと慣れてきた

でも時々
たまらなく淋しくて
なんにも手につかなくなる
オオアリクイは
だいじょうぶ? 
って言って
お水を持って来てくれる

水を飲むわたしを
いいこいいこって撫でる

彼は
とってもやさしい


ただ

ゆうべ
一周忌法要をすませて
眠っていたら
体がちくちくして
ぼんやり目をあけた

気がついたら
胸の上に
またがっていて
パジャマの
ボタンとボタンの
間から
長い舌をちろちろと
差し入れて

いろんな場所を
舐めようとした

くすぐったい
暑いよ

って
笑いながら
はらいのけて

わたしは寝てしまったけれど





[編集]
楽園
 橘 鷲聖


原初の霊たちと神話が未だ受肉していなかった量り知れることもできないような過去この宇宙には生命や物質さえ存在せず目も眩む光とただただ暗い闇の深淵だけが概念として横たわっていたような時代があったまずそのはじまりには微睡んでいた感覚たちが必然と無我と自我を知り同時に光と闇の対立から情熱の如く火花が逸り原初の霊たちを覚醒させたことにある次に霊たちは途方もなく長い間忍耐強く融合し塵を発現させ徐々に鉱物や雹などのマテリアルを生みだし次にそれまでは概念としてだけの広さを持った宇宙を縦横無尽に交錯していた物質とそれらをもたらした霊たちは意志と法則を開示したようやくその頃には生命の源泉となる調和と美が閃き霊たちは物質の中で初めて呼吸をしたそれにより音と振動が発生し言葉が話された霊たちは自らの存在を神と喚びこれ以前の霊と物質の狭間で不完全な経過に留まっていた存在たちは天使や精霊として神の従者となったそれよりさらに量り知れない時のあいだ宇宙は神とその霊たちによる神話により完全な調和に支配されることになった

    *

やがて神とその霊たちの偉大な力と支配が宇宙のすべてにまで及ぶ頃彼らは自分たちの根源となったこの宇宙と自分たちについて深い謎を抱き始めていた何故ならこの宇宙のすべては彼らが統治していたがそれも彼らの存在する次元についてでありさらに高い次元に自らの存在を覚醒してゆくためにはより低い次元の開示されていない真理を引き上げてゆかねばならないからだった


しかしある程度の次元にまで至った存在は母胎となった混沌とした次元に容易に還ることはできないために自身よりも低い次元に留まる天使や精霊を使者として低い次元の真理を探らせていたしかしそれにも際限があったため神々は霊と物質から次元から次元へとより自由と自在に存在することができるような力を持った生命を必要としたそれが人間であったしかしこの存在へと一部の霊たちがメタモルフォーゼすることに神とその霊たちの中には危惧する者も大勢あった高次の霊性と粗雑な物質のレベルを同所に混在させておくことをであるつまり霊体のフォールダウンの危険があったそこで彼らは楽園計画を考えついたまず自分たちに比肩する高次の霊体と肉体を有する存在を宇宙や混沌の諸影響の低い聖域つまりは楽園というエリアで次第に原初の霊的次元まで下降させてゆく感覚を獲得させるためのものであった

だがこの計画には破綻が生じるそれは未だ原初の次元に留まり無我のまま混沌の淵で生きている霊たちの存在であった彼らは霊獣や魔と称され神々や高次の霊たちを自分たちの存在を侵害し冒涜すると思い込み畏れまたは呪っていたそしてこの楽園計画が達成すれば神とその霊たちが自分たちの安住する空間を侵すものとしてこの所業を阻止しようとしていた中でも霊獣の長でもある龍は神を自分の大敵としていた



本来ならば高次の神とその霊たちの行為に介入することなどは不可能であり不可侵であったがこの計画にある楽園では霊質を維持したまま原初の次元レベルまで下降していたために彼らが侵入することを容易にしてしまっていたそして龍により楽園の高次の霊たちは欺かれ混乱をきたし高次から低次を昇降する術を失い堅く脆い肉体の中に閉じこめられたままになった同様に龍と率いる霊獣たちも自らの行いの罪により突然的な覚醒を熾し精神に異常をきたした楽園は神とその霊たちの関与を離れて霊的に混沌とした孤島になってしまったこれに対し神とその霊たちは嘆きまたは憤怒したしかし一部の慈悲的な神により楽園は破壊されぬまま今後許容されることになり神々の意志を離れ地上と名付けられたそこはもう宇宙や混沌の諸影響下にあり長い時間影響を受ける間に次第に霊性はフォールダウンを引き起こし肉体を永久的には維持できないために老朽した肉体を新たに構築するために生殖し子孫を創り低次の物質や生命を摂取しなければならなくなったそれ以後は人間となるまた龍と率いる霊獣たちも同様に地上に顕現したが本質的に獰猛で混沌に耐性のある彼らのほうが強靱で大きな肉体を纏うことができたまたこの少し以前に彼ら人間を救済しようと地上に降りていた献身的な天使や精霊たちもまた様々な物質や事象に姿を落としている大気や水そして植物また中には淘汰した霊獣と融合し動物となり地上に顕現した


そうして地上で永い時間が経過したそれが幸運であるか不運であるかはまだ人間たちには知れることはできないなぜなら何度も肉体を構築しては纏うためにもはや人間たちには自分が神とその霊たちに準ずる霊的存在であることもその記憶も薄明になっていたからであるそれでも一度肉体を離脱した霊体は高次の天界に帰還することができたし地上に身を投げた天使や精霊の加護により蒙昧ではあったが神とその霊たちとの繋がりや目的などを神話や伝承として語り継いでいたそして地上で暴虐不尽に暴れ狂っていた龍と霊獣の一族を鎮めるために献身的な神が何度か降臨し地上を氷河で覆ったこの時人間たちと一部の動植物は加護により守られた次第に龍や霊獣たちは地上から去りまた霊力を失いそれほど強靱な肉体を纏えなくなっていったそれからしばらくして大敵が去り脅かされることのなくなった地上において人間は本来備わっていた霊的資質を用い高次の天界や天使や精霊の助力を得ながら文明社会を拓いていった






[編集]
aphasia
 雪村れい



(マンデリンの夜が)(掬いきれない)(夜
(ビルのいと
おしい隙間)
アンタレスの(ツノ)を打つ(のあ)(ラミ
ネーターを注ぐ(影)
(・・・、)
桜の)『枕元を』
(桜の槍が降る)うれた
暗闇にひとつ
(ものさしと)青白く(ほ
どけて)(おります)(ら)
(たい)そぐわしい
   (ひ)
陽射しの分散


ほつれた糸を手繰るの(うつろう陽)メ
リメの壁と坑/た/まぶちの(ふ)
(腐蝕)(やわいまなび)
りむかない。(ふ)
くりぬかれ/る/うる/わ、(さみだれ)、しい、夏/
かしい(すてらま・りぃす)(来る)
おしいビルの五月雨、(罅割れた)
ささやき。


月蝕、だ(だった。)
(閉じこめられた空間に文字が
ひとり推してある、
春よりの懐かしさがほの
白く透きとおって(仮に)
燃えていました(桜であ
れば/まぶしい/)(真夏の)(来る)
(恣意/……?)


砂塵。アンタレスのツノ(似て)
埋もれて(ひとつ)月蝕だ(非ざる宵)(ふたつであった)
(わだつ)砂莫をふくら『み』の
(まりぃす)ただ、たった/おとといの。


月蝕だ(だった)/父の
まざまざと(蓋がる)(ほおを撫で)
月並みに外れた(おつ)(/あ)まな
凍みの開いた(問い)欠片が
(ガタリ、と)浮ついた
(月蝕だ/だった)(うなだつ)
プレートの(はしおれた
おもいが、おもいが、ふやかした
大地に(stain)
いぶきだす(攫っていく風、)
開ききった、奥の、暖簾を上げる)
(ちらちらと白いものが舞う今日この頃になりましたか、)あかい扉
(僕の)(遮る)(煤)(すすけた白い)
窓際の慈愛(ぶ
れた)(押し花を閉ざして)
歯、ひざしたの(息継ぎの
躊躇いに潜む)
(オパールの階層)(低
迷する海底の)
エイジャ
(ひとつ、ふたつ)









[編集]
マフラーは長すぎて 
 ピクルス

ちいさな掌を
ひとつ結んでは覚えてゆく指あそび
ほんとうなんて要らない
と言い聞かせながら
それは未だ新しい

老いさらばえた両腕は
調和したスープと
子守歌で満たされる
動かない光
あたたかな窓の数だけ
架空の挨拶が交わされる
ごきげんよう
ごきげんよう

薬を飲むの忘れたら
叱られるのが怖くて
初めて嘘をついた
ほんの少しずつ重なって
椋鳥は鳴かなくなった
弱さからか自信のなさからか身勝手さからか
君は知らない

綺麗な石を捜しては
積んでゆく
仕舞いには平衡について考える
不思議ななにかが喚んでいるよ
いつも遠く近く声がする
耳を澄ませると
さみしい
と黙り込む

どこへも帰らない
どこへも帰らない

未だ残っている旋律
拾う事の挑戦
捨てる事の満足
まもる事の

描きかけのカンバスの為に
絵の具が欲しい
緊張と臆病に疲れ
運命の前で愁傷らしく振る舞う絵は
いつまで経っても
家に帰れない

だいすきな匂いは
炊きたてごはん
それを嗅ぎながら
いただきますと祈る
椅子はひとつでも
花を飾り
また
新しい絵を描き始める

かえりたい
早く家に帰りたい




[編集]
灯す
 瓜田タカヤ

知らぬ盛り場の暗闇で
合金が茹だり少女の吐息を赤く待つ今夜
古い毛皮を人毛と取り違え
それは
それでも良いのだと電灯の下で上手くくすむ古母
切れた人毛から吹き出す液体を照らす太陽は
常にアルコールでカラダを拭く母さんとヤクザとの間に混ざり合う煙に餌付く少女の
ポートレートに光る思い出の一切れの灯りにでも
なれていたら ショーケースの幽霊にはならなかったろう

濡れた太ももにすぐに挟んでもらいたい頭は呼吸を匂い
手首を手首ごと無くす痛みを忘れるだろう
もっと
もっと小さく
切り取られた思念はもっと
子宮の粘膜で泳ぐ言い訳になるだろうか
透明のビニール袋のみが
完全に生涯着込んでいい洋服にいたすルールで
デパートに行ったら誰がどれほどの言葉を
優しく話してくれるだろうか
紙コップに水を入れて飲むだけの日々に
放火魔の長谷川さんが気づいてくれないだろうか
命に美しい何かが灯るのなら
それは絶えず何かで覆わなければならぬのなら

私の皮膚を
灯して
証してくれないか
私は盛り場の暗闇で固まっているから
肉親の誰か母さんでもいい
私を見つけて
新しい人間を作ってくれないだろうかな
少女の笑顔灯す
光になれないだろうかな





[編集]
ソング1
 ルイーノ
 
 
あなたの
眠っているうち
わたしはモトヤワタ駅
都営新宿ラインのホームに
ひとりでいる
それには
長いエスカレーターを
二本降りる
始発から間もなく
わたしが腰を下ろす
この列車が
快速であったか
各停であったか
それは今では
誰も知らない謎となる

三十分経ったら
起きなくてはいけない
走れサブウェイ
走れ鉄橋
また顎が落ちる
すり抜けて駆けていく光
人声の絶えた車内を
ニシオオジマ
スミヨシ
もうすぐ近い
キクカワの次
モリシタで降りて
わたしは
道順を覚えている
階段を昇れば
たぶん冬で
朝もやの伏せる中
街並は死んだように
極限まで
音量を落としている
星があったろうか
きっと息は白く見える
五分歩いて
わたしは決まって
ampmで買い物をした
それは
ミネラルウォーターや
いつも
くだらない
お菓子の類だったと思う

煉瓦のマンションに
入り口を曲がると
狭い
エレベーターが開いた
四階を押した後
そこに
どんな沈黙があったろう
わたしはポケットを探る
わたしの携帯電話には
あなたの部屋の
合鍵がひとつ下げてある

それを差し込めば
その中に
深く眠りのあなたがいた

計り知れない
不思議ばかり

あの頃の
わたしは不思議で
出来ていた
 
 



[編集]
[*前] [次#]
投稿する
P[ 8/8 ]


[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]