投稿する
[*前] [次#]

無題
 ちよこ

頬の高さに寄せた薄水青
あたしの最後の場所はいとおしく
そんなふうに見つけた
薄荷水の瓶の底から
涯てをなくしたような空

私たちの犯さなかった罪について
誰かの膝にくるり
おちる撫子ひとつ

うすい木漏れ日を睫にのせて
わらう
何もかも許したような晴のあの人が嫌いだった


薄暮で胸を満たした
群雲の天使が羽根を掛ける
そっと
そうして包まれて
だけどここからなら
わからない

頬の高さに寄せた薄水青
あたしの最後の場所はうつくしく
小さく音を散りしいた
円い町



[編集]
向川2
 ピクルス
 
また次の日になると知らない言葉で書かれている魚たち
暮れてゆく川面、記憶されない追憶を照らす曲線が白々と滑ってゆく
(街灯は新しい方角を待っている)
(その傍らには喜劇のあぶくが準備されて)
(死んでしまった蝶の溜息が一斉に灯る)

かんじやすくなるよ

佇んでいる人々は滲んだ結び目をほどいて水に目覚め
小さくいやいやをした昨日の夢をまた拾い損ねる
(満月を渡る橋の淋しさ)

「水、くれんかの?」
「水だけでいいのんか?」

予感はいつも前屈みで微熱の余白を広くする
頼りないビニール傘が幾つも浮かぶ空に
助手席で眠った人の顔が浮かぶ事はもうない

独りだったので魚の形に生まれました
猫の影も夜に喰われた路地裏で
白い鳥が、ぽつり
ベカラズと囁いて
(もう時間ですから滅びてしまう)
その痩せた喉に流されて静かに目を瞑る
(夜の次は夜の次は夜)
リンスの薫りに懐かしい声を探さない
(ちゃんと並べてくださいませんか、神様)
橋の下、流れなかった魚たちが焚かれている
(廃線の踏切で今、牛が哭きましたよ)

かんじやすくなる
(繰り返し百万回)

水の一粒光る度だんだん軽くなる
もうすぐ
もうすぐに
沈黙の石を我が子のように抱き締めて
崩れるように散る魚たちの
うれしそうに死んでゆく魚たちの
浮かばない舟のゆくところ
(冷たい水が手招きしてる)
 


[編集]
風はうたう
 丘 光平


  風はうたう、
 わたくしの隅々で 風はうたう、
夜半にくるまる薄い背なで
いさり火のようにふるえるまぶたで 風はうたう、
けもの道で立ちつくしたまま冬を身ごもる枯れ木のように 
聞きもらすことのないしずけさで
雪が鍛えた青白いまなざしで 風はうたう、
ことりたちの指さきが届かないわたくしの隅々で
 痩せたおんながうつろに手まねる
  銀のぴすとるのように 風はうたう―




[編集]
グラン
 ミゼット

蓋を開けると 大きな心臓

うたう おどる おまえの指

血を噴きながら 鼓動する

部屋に 黒く重たい血が満ちる

じゅうじゅうと音は響いて

床を 流れる 駆ける 滲みる

おどる えがく この足

片方だけ 靴を履いて 跳ねる

重たい血を踏んで回る

グラン 六角の離れ

グラン 冬の木立ち

鳥と 果実と 震える窓

灰色の繭 黒い血で、いっぱいの


[編集]
坂の向こう
 木立 悟



無音が無音をわたる波
青空よりも遠い青空
どこへもたどりつかない坂を
息つぎだけがのぼりゆく日


雨は生まれ 雨は消え
雨は雨を巡っては消え
坂を駆ける髪と背に
翼の苗を植えてゆく


坂の向こうへ 坂の向こうへ
霧は銀を流している
坂の向こうは
音で見えない


終わりを畏れる心は消え
終わりと共に歩んでいる
終わりは冬の蜘蛛をほしがる
蜘蛛は 歩むものの目を見つめる


羽と飛沫を重ねる手のひら
折りたたむように もうひとつの手に
差し入れるように
光のように


双つの橋と憎しみが
区別のつかぬまま燃え落ちる
水と舟は揺れている
何も言わない明るさになる


鈍色をした煙の言葉
到かぬものさえ到く午後
眠りのなかを巡りながら
眠りのなかに刻まれる


曇の音をつなぐ命
空を結わえる小さな手
雨を越える雨 青の青
まばゆい坂より放たれる












[編集]
卵の焼き加減に対して語ることがあるとするならばだ
 ホロウ




戻れない時間に眼をこらして
お前は明日への抜け道を探そうとしてる
新しい場所へ踏み出す勇気が無いんだろう
明日がいつかの焼き直しみたいになっちまうのは
紛れも無いおまえ自身のせいさ
したためる言葉は何のためだい
自己満足に浸りたいだけなら止めときな
それは
ゲームセンターでハイスコアを狙ってムキになるようなものだ
あとに残るものは空っぽの財布のみさ
新しい世界を引っ張ってくるんだ
新しい世界を引っ張ってきて
お座りをさせて言うことを聞かせるんだ
犬を躾けるのと大して変わりはしないのさ
車を持ってる友達にでも電話してみなよ
気分が良ければどこかへ連れてってくれるかもしれない
ひとりで生きるってことは誰かと上手くやれるってことさ
長いこと無駄に生きるとそういうことは判るようになる
ロック・シンガーのような態度なんて
十代の神話と大して違いは無いってもんさ
真実は熟成される
お前は眼をこらして
そういうものを見つめなければならない
したためる言葉は何のためだい?
時代錯誤なヒーローを気取りたいだけなら
図書館で涙でも流しているんだな
イズムに誰かの冠が被せられているうちは
お前自身の書棚は空虚に等しいぜ
何のためにそんなフィーリングがあるのかってことを
書きながらしゃにむに考えるべきだ
唇を噛みながら
本気の言葉を連ねても
それがありきたりなら何の意味も無い
本気の殺意を並べて見たところで
標的が血を吐いて倒れるなんてことは無いんだぜ
復讐の模倣に終始するんなら
わらで編んだ人形に釘でも打ち込んでみることだ
書きながらしゃにむに考えてみる事だ
嘘なんてついちゃ駄目だよ
嘘なんてついちゃ
だけど
それはありのままを記すという事じゃないんだ
海に潜るのに空気を吸い込むように
やらなくちゃならない工程というものが必ずあるわけさ
自分がどんな気分でそれを書いたかじゃない
文字を追うやつらにゃ
そんなことまるで関係が無いんだから
玉子焼きに砂糖を入れるのは好きか?
柔らかく焼くのは好きか?
葱を刻んで入れるのは好きか?
玉子焼きよりはオムライスにしたくなるか?
スクランブル・エッグじゃないと落ち着かないやつだって居るだろう
卵をひとつ手にとって
どれだけのことを考えているのか一度書き出してみるといい
その中にだって答えは隠れているんだ
見つけようと思えば
探そうと思えば
誰かのイズムを着ぐるみみたいに被る前に
何かちょっとしたものからイマジネーションを広げてみるべきだ
ジャンルなど飛び越えてしまって構わない
ジャンルのために書き始めるやつなんて居ないだろう
ジャンルなんか決して気にしなくていい
それは誰かのイズムを被る事と同じことだ
お前にはフレーズはあるかな
俺はいくつか持ってる
貸してあげてもいいけど
たぶん使い方が良く判らないと思うよ
それに俺のだってそれほどたいしたフレーズって訳でもない
フレーズを利用したフィーリング
そういうニュアンスを操るのが大事なのさ
長い長い糸を巻きつけたからって
誰よりも高く凧を上げることが出来るわけじゃない
意味なんか考えなくていいんだ
それはあとから勝手についてくるものさ
韻なんか気にすることは無いんだ
リズム感が良けりゃある程度形になるものさ
出来心地なんか気にしなくていいんだ
あらゆるスイーツはパティシェのためにあるわけじゃないだろ
手ならし程度のものが
美味しいと評判になることもある
もちろんその逆も
何でも出してみる事だよ
何でも出してみなくちゃ
自分のやってることがなんなのかも確認できなくなる
ひとりで生きるってことは
出来るだけ誰かと上手くやれるようになるってことなんだぜ





[編集]
水影にわれ果てる
 腰越広茂

水が、渇いていく
いのちある喉から
光陰の嗄れる
か細く陽光に
反射する雲へ

終ぞ
逃れられぬ影を傾きつづける
静寂の光

水涯にたたずみ咲いている睡眠

絶大なる虚空を灯すひとしずく
その飢えに焼けた血の流れで
いっそうの、岩船に乗る 青白き燐光

流体のほさきが
うしろ手を組み
みずからのゆびさきをみつめつつ
こけむした石段を昇っている

組成される影の臨界が
宇宙を暗く照らし突きすすむ
あくまでも足音は高く、高く
雨音の静けさに

かつて……なく。
七輪の母は歌う
懐にみずみずしい魂を持ち
しわがれた涙をうるおして
星にかえす
影の尽きる大音声

わたしのしかばねをこえて
ゆけといったのは
いつだったか
水先の視線が水煙へ そそがれる
いとおしさよ!


※(ふりがな)嗄(か)れる、大音声(だいおんじょう)


[編集]
[*前] [次#]
投稿する
P[ 2/5 ]


[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]