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時雨れる少女
 腰越広茂

とおくみつめる

あの秒針の刻む音が
きこえるほどの しずけさで
あやしくぼんやりとした曇天に
にじむ光の粒子を
私も刻む
時のまなざしは熱かった
 始まりは、秋の縁側で
ぶらさがっている風鈴の
身じろぎはせずに連なっ
ている余熱のしわざだっ


やがて
仄暗い庭で
繁茂している清廉な呼吸に
さざなみたつ胸の奥のひろがりを欲して
風にそよぐ影のあつさよ
ついに奏する調べよ
なみうちはじめた雨音に
かなしみの骨格が透けて
うすいそこから微笑みがこぼれる
おりかさなった層から
未来製の水晶が
稲魂を放つ
無機質な内臓の深淵で
変わりようのない 視線が
ひっそりと虚空をつらぬいている

そうであっても
すがたは、かわりつづける
くうちゅうでただよっているかとおもえば
ちじょうをながれるときもある
しょうじょのなみだにきづけるでしょうか
(しずかにふるえる
 うごかぬことり
 てのひらで
 えいえんのねむりについた)

さぁーっと
しずまりゆく雨のゆきさきの
花ともる黒髪をあらう
少女はふるふると水面下から
(時とともにあるの)
波紋ものこさず
空へのぼりゆく羽音をきいた


※ふりがな 稲魂(いなたま)

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光の果て (10月に殺された31人のわたしへ)
 黒木


わたしたちは何処かに行かなくてはならない

仲の良かった人がまたひとり消えてしまった

わたしは悲しくて泣いた 静かに 誰にも聞かれないように

光を望んでいても それは離れていくだけ

視界のなかに誰もいなくなっても下をむくしかないのだから
この悲しみというやつはほんとうに質が悪い


小さな頃のわたしは人の住まなくなった小屋で飾られていた
そこには大好きなお婆さんもいなければ優しいお爺さんもいない
ひとつのわたしは確かに自由だった
そのわたしはまだ忘れられずにいる
きみの存在を
隠れて逢いにきてくれたきみという名前を
もうひとりのわたしは眠ったまま
太陽がまぶしくてもわたしは起きない
きみみたいだからわたしは太陽が好きだった
月が苦手なのはおそらく
夜にきみが逢いに来てくれたことがなかったからだろう


過ぎた日の記憶を辿るのをやめる
遠い雨の日の記憶ではお婆さんには足がない
泣きそうな声で骨を削る
わたしは布団に隠れながら早く夏がくればいいとばかり考えていた
夏の晴れた日は特に好きだ
晴れの日のわたしは名前を必要としないほどに
生きている
泣いてしまうお婆さん 安心してください
祈る声が聞こえる頃には助かるかもしれません
さようなら
過ぎた日を辿っていても目が開くことはない
だから今も



(美しいものに憧れる 美しいとは何なのかも 知らずに)



自分に見られて目を覚ますわたしを かわいそうと思ってください どうか
美しいとは何かを考える時間がほしいのです ただ独り言を繰り返してるように見えますか
誰も迎えにきてはいけない 削られた左足に理由を埋めるなんて言いませんから
わたしは何処へも行けないし 行こうとしない
美しさよりも不完全なきみについて考えたほうがよいのかもしれません
しかし悲しいとは何なのかだけは解いてはいけません たったひとつの悲しみですら分裂してしまう
( 誰 も が い つ か 消 え て し ま う ん だ )
共有するもの 零れないように ずっと長いあいだ 光の果てにあったもの?
光は帰らなければいけなかった 季節を沈ませれば 波は離れるものたちをさらう
わたしたちは何処かに行かなくてはならない?

わたしは何処にも行けない
わたしは何処にも行けない
わたしは何処にも行けない

名前を遠くに 飛ばそうとする つまり
(きみの名前) を
生まれ変わりというものがあるのなら わたしはきみたちの嫌いなものになろうと思う

わたしはやはり 何処にもいけないのだから

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みなしご
 雪村はねや

あるくときは、ゆっくりで
みちばたで ねこをみかけると
たっ 走り出す
ころがるけだまは
街とつながっていて
細い路地の隙間からこの世界の向こう側へ
すりぬけてゆけるって
しんじていた

たからものを隠した地図

りすのようにこずえの根元に
うめて隠した
アールヌーボーの文様がかかれた
拾ったきれいなガラスの破片
ひざしに透かすと
指先にまあるいプリズムをつくる
ひみつにしていた
たからもの

おとうさんとおかあさんがいれば
せかいなんていらなかった
とこのまのつめたさも
あしがしびれたってはしりまわったりしない
みんなの声がするから
やさしいはなうたの
ふゆの毛糸
ちりちりした静電気だって
あたまをくしゃくしゃになでてもらえるから
ぬれたてと、かわいたてと
どちらで電気がつかまるかな

せかいなんてなかった
おとうさんとおかあさんのとなりに
盲目で、車いすのからだで
やすらかにうぶごえをあげたい
あたしのちいさな手は
ふたりの服の裾をきゅっと、つかんで
ふゆの日によこたわる

ふるいレンガのあくびと
かんだら苦そうなはだかの
蔦をみあげているんでいい
数えたりしない、いちまいも葉がなくていい
それがいのちでいい

あたしは窓の外を舐めあげる
何マイルも何マイルも
山を越えて海よりもかなたの
おとうさんとおかあさんをとびこえて
せかいのうらがわになげだされてしまった
あたしはごくんとのどをならす
ガラスの破片は、どこへ仕舞ったかな。
ポケットが、つめたいや

はなごえではなうたの
あたしをあいそうとおもいました
はなごえではなうたの




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不感症の夜に
 望月ゆき

   あのひとの記憶がしずむ海は、いつしか防砂林で見えなくなった
   越えられない高さに、すこし安心した
   





砂が、降って
深く深く沈んで 底まで
皮膚だけが呼吸をわすれて、ねむる
いつしか あのひとの
面影にさいなまれることもなくなり
それなのに
容易に寝付けないまま
わたしの夜が音をたてる



わずかにずれていく音階に
からだを寄せると
遠く、幼きころ
鍵盤にそっとのせた
細い小さな指先のふるえを思いだして
いっそう 深く深く
沈んでいきそうになる



ソの音だけが いつも
弱々しかったわたしの、小指をとって
指きりのしぐさで笑わせた あのひとの
口ずさんでいた歌も
もう忘れてしまった
記憶の隙間には いつしか
砂が、咬んでいて
あたらしい毎日を保留にしている




防砂林をすり抜けて届く
かすかな振動が
わたしの皮膚を起こして 徐々に
不感症の夜が明けていく
見上げた景色を切り取ると
空の手前に電線がゆれていて
それは
行ったきり帰らない音が
のっていた五線譜の空白に
よく似ていた





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祖父
 田崎智基


私は と言うことに決意はない
ただ、雨垂れの音を数えている
増える楽員の鼾の影に
落ちている胎動
(挨拶が殖えていく森の
 緑の溜め池)

血色のいいりすがいる
潤んだ目がとんぼのように膨張し
白い腹には水銀袋が詰まっていた
「私のための
 特異なりすのための
 不安、という言葉」

辺りに埋まった小石が
孵化して
小さな生命
を持った
持ったから
祖父は泣いたのだと思う
私たちの足許に蟻が

私は 私は という言葉を
私たちが口にするたび
蟻は住み処を追われていった子どものように祖父は
泣いたという私たちの足許に 彼の不安に




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電光
 ルイーノ
 
 
電光を見たよ!

チーズ粒の星に触れる
青のスパーク
あまいからい夢
月が海を照らしていく
眼球が澄み固まる
つめたい夜
おめでとう!
これは大当たりの夢です
俺はまぼろしを見た
何の為に
それはともかく
俺は大当たりの特典により
ここで再び
電光と出会うのだろう
と思う
すべてが眠るうちに過ぎ
奪われるがまま
夜風までが酒のよう
夢想を食事する
散りぢりの身体を捧げる
恋よりも美しい
激しい光の中心に
何が見えると思ったのだ
遥か眼下遠く広がる

あれが氷砂糖のように
街の灯のように
散りばめられていた地上は
淋しげであった
眠るように

こんにちは
俺は今
夢の中に浮いていました
誰かとここで
出逢うその日を
願うほかには何もない
そこに電光は
散っていました
 
 




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斧が足りない
 漆

僕は亡霊に急いでスパンを測るんだろう、ホームのベンチに荷物は置けない、馬車が必要だ。

いつもパッシブはいちるに満ちる、からみも散る。
静寂に呼び戻されて足首から順を追って切り落としてゆく。

ゆくゆくは僕の咽喉から汽笛を鳴らして、すべた貴方の詭計を唸らせて

帰りましょう、

今が今日を指すのなら。


さあ、日傘を洗い
よもや濡らしたのではなくとも
奈落の袖や髪の毛や、
楽園の胡坐なんてものを

右にまわる列車は黒煙に満ちなくとも構わない、馬の胃に染まり留まる、窮屈ではない

切符が呼気を持つ、あらゆる歴史を以て。


目豚に腐るレプリカの声には泣くほど器用な細工が在った

そうして線路で僕は、
いつかの僕の指と出逢うのである。



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