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星のおおかみ
 丘 光平


成功はしないが失敗もない
そんな道をうろついてきた
ただいつも昨日のぼくが
墓場をはなれてかけつけてくる

ぼくは思いだした
八月に遠い国から手紙をもらったことを
手紙の夏をめくってみたら
砂はこぼれて一枚の地図になる

いかだを持たないぼくの
窓のむこうはあじさい色の海
いるかは帆をなびかせて
船出の合図を待っている

ぼくらは追い越してゆく
水上を歩くうつろな夕暮れたちを
そしてぼくの中のおおかみは
時を空を一気に駆けのぼった

星を入れておくには
宇宙は広く深いのだから
だれより大きいだとか光はどうだとか
もう気にすることはない



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低空飛行
 村田麻衣子

屋上にいると からだはんぶんずつ消えていきそう ゆうしてっせんが空をてっぺんから
だめにする、僕のあしもとのおもみがなくなり、飛んでいく鳥の骨を抜きとってしまった、
「ひる」口にできない。つたうひびき、くちばしから内臓まで乾かしてしまうあの風がと
どまる瞬間の、「あめ」いくつもの針をさしだすが、つめたく。みずから足先から大腿へ、
だしぬかれた あの滞空を貫通して成層圏をはためかせると 
 僕がふらふらする 、言えなかった。

「ネジがとれていてよかった」
。つきまとう真昼の夢はオイルをのみこめないくらいせつなくして、そのけだるい眠気が
僕のしなやかさをくりかえしくりかえし離陸させているのだろう ネジは埋めこまれてい
ない。 なめらかに翳した傷の凹凸 消えそうな僕の手で 幾度となく
顔の輪郭で翳っている亜麻色の髪の、うつくしいあなたを首を5cmくらいななめにかし
げると、なないろにみえてしまうからこの胸をくすぶる。    切りすぎた前髪に 
花粉のさきっぽ が誘われて旋回する どこまでも見ていたいけれどしだいに濁音が、
滑走路を削る   去勢されたおくゆきは 空っぽの教室をなめらかに落としこむだけ

、プロペラが2枚だけ空からはみだして。
限りない視野 旋回しようと、手足をばたつかせているけれど、
みうしうなったもの すべてじゃなく、そう。僕が、みえなくした。ふらつくときはいつ
も平衡かんかくだったから
そのまま手足がそなわっても、僕たち少しも飛べなかった。 みうしなっていく
それが浮つくひびきにも似ていて、噛み合わない空気に巻き込まれ 軋む音は聞こえない

墜落でなくしたパズルがひとつだけ、みつからないんだ、うなばらを、めぐる夢から覚めると
いつも
、浮かばれる、事実が
単調な作用をつづける、
プロペラの外枠線が書いて消してまどわせる この足場をすくって、こぼしたくない、
あめふりのはじまりに、数え切れないくちびるのふるえをゆだねる
ぼんやりとしたおもみ、
その高度で見つけた机に伏して、ちかづくとはじまる沈殿。みずくさのあるうすぐらい僕
の部屋、そのおもみで一枚がはがれた、すぐには、落下が始まらないけれど ほら、こぼ
したくない
募ったもの落ちていく川べり公園の成層圏
墜落しないまま くりかえす、水位から水位へ ゆうしてっせんで
錆び付いた 青 くぐもる
歪みない空だったから、僕はぶんみゃくを馳せる。公園のベンチに
ひとり 果てしないから にごりがない
(こぼしたくない)

夢を見ていた



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待ち合わせ
 たもつ
 
 
駅前に
都会が落ちていた

命のように
きれいだった

なくさないように
拾って
ポケットにしまった

そして
三年振りの待ち合わせに
僕は現れなかった
 
 

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女の子サーカス
 吉田群青
そのサーカスには
三人の人間がいました

一人は
お腹に赤い金魚を飼っていて
ぽたぽたと一匹ずつ
出すことが出来ました

一人は
その気になれば
好きなひとを
骨まで食い尽くすことが出来ました

一人は
物凄く上手に
しかも徹底的に
誰かを傷つけることが出来ました

だけどこの三人は
何も特別な人間ではありませんでした
ただ
女の子であるだけでした

サーカスは暫く巡業を続けていましたが
ある日
熊に襲われて壊滅したそうです

女の子たちは森の中へ連れ去られ
割と幸せに暮らしていると
そう云う噂を聞きました

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夕暮を乞う
 しもつき、七


橙が撃ち放つ夕暮、みぎての水鉄砲で狙ってみせて
きいろい赤い花が揺れる垣根から、ビニールでできた夏
光合成をぶじにおわらせたそれぞれの葉緑体のみる青

こげたアスファルトにこれでもかと水をまく母のまいかけを
(ホースを踏むとおこられて、いそいで笑って逃げたっけ)

未だ夏はあの蚊とり線香をかかえたままであつい日々と、
おとなになろうとするかかとをぎゅうと抑えつけるのだね

50円サイダーのビー玉、洗いたてのシャツにかおをうずめる
夕方をこばんでこぎつづけたぶらんこは揺れたままなのかな
おしろいばな摘んではいみもなくすてたりした、撃ちぬかれる橙

群青さそうはいいろのうみにサンダルをわすれてきたんだ
(あかい紐がほどけて泳いだまま、遊泳禁止のプラカード)

  ・夕暮を乞う




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わたしが泣いたら雨もなく
 しもつき、七


雨はろくがつからふりつづけている、
えいえんということばが皮肉にもふさわしいように
ぺしゃりぴしゃりと子どもらの長ぐつを濡らして

わたしはわずか
泣きはらしためをぼんやりとかすめながら
詩をかこうとしているが
じかんがない
よわい刺激ももらえない
雨はまだふりつづけている

成長の過程でおそろしくめざめたみたいな
きみがただ唯一わたしに残していった芽は
なんどか枯れようとこころみたようだったが
わたしにはそれがはばかられた

(いつかひとりでに錆びるものだとしんじきって)


なつをいそぎすぎていないか
梅雨をまたずにわたしたちは

ビニール傘で雨をすかせばプラネタリウムが、
いっしんにきづいてもらえるのをまってる
いつか詩のなかでわたしの描いた少女たちは
みんな泣いていたというのに


さあさあと霧雨
よるの、ひとの、匂い
終電


こわれたいほどにさみしいのはきたいしすぎるからだとおもうよ



  ろくがつをこせないわたしたちの
  わたしの



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扇風機にコエ
 たもつ
 
 
長い列車に乗る
弟が先に座って待ってる
向かい合わせになり
二人でハムを食べる
好きだったケチャップ味が
どこまでも続く
入浴もあったが
傷が目立つので
やはり列車でよかった
せめてものあらましが
行程表になって久しい
本当はどこにも行かず
少し死んでいる気がする
むかし弟がしていたみたいに
口を大きく開ける
今になって
その理由がわかる
溺れてはならなかったのだ
自分のために、ではなく
人のために
救いのようなものが
車内にアナウンスされてる
けれどそれは声になることなく
風に飛ばされそうな紙切れの中
文字だけにとどまってる
 
 

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手ほどき
 クロラ

だれも手に手を取って
教えてくれたわけではないから
何をするにも空中に
恐々と結んだままの手を
棒のように伸ばした
すると何も遮らないのだった
だれひとり
まちがいだとも
叩き落としもしなかった
あやふやな重力で指は
水中花のように伸びた

よわよわしく
一本の芯がない
うつくしい草花

たがいをからめあうほどの密度も寒さもなくただ
うらうらと繁茂したわたしたち
おぼつかない隙間に充ちた
天気雨のように記憶に遠く

それほどにわたしたちの個体数は少なく
ただ触れる空気の先に空気が拡がり
見ていると
いまもその指先から破裂するように
また空を抱えて
見上げる上空にみな消えていってしまう

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