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雨の犬
 藤丘


君は
君の家に入らない

雨が降っているというのに
軒下の風を嗅いで前足を舐めている

私の上には屋根があるので
髪に降るよりも
雨は、
硬質な響きで
音の羅列を渉っていく

滲み込んでいく土に
水溜りの不在を望み
遠い太陽を入れた私が震動する

夕陽を知ろうとすれば
朝を迎える度に静脈を広げ
祈ることは時に願いに変わり

雨の上に新しい雨が降り
風は様々に形を現す

既に夜の匂いの中で

( 私たちに関して、その姿は明滅ごとに
密接に迎え入れられている 、
日々の上に、
暮らしの中に、)

水の、
芽生えはじめた滴は次第に近づいてくる
雨は、よく響き
雨音が私を象りながら落下していく

壁一重を隔てた対流が窓で跳ね返り
透き間を探し
感覚の落差が居場所を求め
混じり合い
呼吸し

一枚の葉が露を抱いている

( 朝陽に混じっていくための渇望
繰り返す過程に
その過程に )

対話する
抱擁の静けさ

( 開かれる雨の先の、
打ち続ける音の向こうの、
雨は、雨のままに
虹は、虹のままに )

雨がうまれるということ
太陽は生きているということ
名を望まない素粒子があるということ
虹が架かるということ

雨の犬
いま見ているものが既に過去だという事を
君は知っているのかもしれない

共にある君の
小さな鼻先を翳める雫は柔らかく

細くなった雨は
まもなく止むだろう

君は、
君はとても上手に眠る




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とうめいの声
 今田コボ

夕焼けの水平線に
引き込まれるわたし
明日の事も
分かろうとせず
無を、怖がる

窓辺に映る雲は
西へと動き
わたしは
小さな音を鳴らしながら
ゆらゆらと流れていく
裏がえっては小さくなる
砂のようなあなたは
現れては消え
幻想を見せる

かすかに聞こえてくる
あなたの声は
わたしにふりそそいでは
死んでいく


.

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果て
 たもつ
 
 
オシロイバナがどこまでも咲く
原っぱの真ん中で
日焼けのしていない細い腕を
嬉しそうに振り回している
いくつになっても夢をあきらめない
ここまできてやっと
あなたは扇風機になれたのだった
 
 

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ヒーローたちは奇形
 イシダユーリ


だからあたしは首を傾げるの
口を大きくあけて威嚇する
そして空気をなでるみたいに
一歩前へ!


ふわふわの帽子かぶって
ジャージなんか着てる男に
やさしい歌ねなんて言って
バスを待つ
それは映画の中のはなし
そのたち方はシティのもの?
そのスラングはシティのもの?
そのポケットとブーツは
シティのもの?
シティっていい響き
そいであたしは田舎から
でんぐりがえしで
ここまで来たの


あーあーあー、響かす、
ミュートで、響かす、
羽根飾りの色を、選ぶ、


ヒーローたちは奇形で
だからテレビから糸をとばして
誰かの心にひっかけて
きつくむすぶ
おもいっきりひっぱる
血がとまって
かたちが歪んでいく
わかる
みえなくったって
ショウは一瞬だけ宙にうく
そうやっておなかが膨れた
幾何学図形に舌を這わせて
つつじの先をくわえて吸う
みたいにあまくて情けない
情けないのはシティ!


糸はきれない
さきに千切れるのは誰かの心で
ちりぢりになって
誰かのみえない壁は汚れる
鉛筆の先はみんな同じで
けどヒーローの歯型をつけようとする
ちりぢりになって
あんたのみえない壁は汚れる
そのシャドウはシティのものなの?
口々にでてくる
音程や言葉は
挨拶、天気、地図記号、


あーあーあー、ミュートで、響かす、
みえなくても、あたしの壁、すっかり汚れた、
響かす、のは、手のひらを、奇形に、あわせてさ、
ふとももを、たたく、うえをみたら、
電車がはしってた、まるで、孤独みたいに、
うるさいや、だから!
あたしは、口をおおきくあけて威嚇する、
聖書がずっとさかさまに、風、
ページをふきとばすみたいに、
一歩前へ!



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続・書店で働くということ
 吉田群青

雨の日の書店は
外より随分静かで
静止していると
ブロンズ像になってしまったような気分になる

レジ下には
地球が終わるその日まで
おそらく無くなることはないであろうほどの
大量のブックカバーが
羽根を畳んだ鳥のように
折り重なって息を止めている
あんまりにも暇なので
わたしはねずみになって
レジ台の上で
飛んだり跳ねたりしながら遊んでいた

一時間経過すれば
レジスター係は交代だ
ねずみから人に戻ったわたしは
いつものようにハタキを手にして駆け出す
すると
すれ違った先輩社員に
尻尾が見えていますよ
と注意されたので慌てて隠した
そんな先輩社員はと言えば
頭から猫の耳が見えている
それを指摘すると
雨の日は本性が見えてしまうよね
と言って舌なめずりをした
そのまま喰われてしまいそうな気がしたので
ちゅう
と息を漏らして慌てて逃げた

掃除をしながらぐるぐると
店内を巡回してはみたものの
今日のお客は幽霊しかいない

雨の日に出没する幽霊は
大体いつも立ち読みをしているが
ぶつかることは無いのでハタキをかけるのは楽だ
アダルト雑誌コーナーを整理していたら
女の裸に未練を残したまま死んだのであろう男の幽霊に
この雑誌をもらってもいいですか
と声を掛けられた
だめです
と答えたらにやにやしている
君はいつ死ぬんですか
死んだら僕とどうですか
なんて言ってる
無視したらすっと音もなく消えた
男の幽霊が立っていたところには
なまあたたかいお湯のようなものが
水溜りみたいにひろがっていた

しばらく掃除をして
時間がきたので休憩に入った
事務所内の休憩スペースは
本がうずたかく山積みになっているので
傘を差していないと危険である
ちょっとした振動で雪崩を起こして
上からばさばさと降ってくるからだ
床には
本に脳天を直撃されて
意識を失ったアルバイトさんが倒れていた
傍らには血の付いた「家庭の医学」が落ちている
しっかりしてください
と抱き起こすと
本に当たって死ぬなら本望です
そっとしておいてください
とうっすら笑って動かなくなった
休憩中なのに面倒だな
と思いながら
倉庫にそのアルバイトさんをひきずっていって
指定された場所に安置する
動かなくなったアルバイトさんや社員さんたちは
そこに横たえるのが決まりなのだ
中には昨日入ってきてもう既に
今日ここに運ばれてしまった人なんかもいて
少しかわいそうである
彼らは明日の朝
銀色のトレーラーに積まれ
業者に運び出されていくはずだが
どこへ運ばれていくのかは知らない

そろそろ休憩時間が終わるので
わたしは最後の煙草に火を付けた
閉店まであと何時間だろう
咳き込むと喉の奥から
さっき誤って吸い込んでしまった活字が飛び出して
からんからんと音を立てた



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冗長なチアノーゼの感触の重度のセレナーデ
 ホロウ




心臓が 壊死したようなか細い脈拍の紡ぎ
緩やかな哀楽に取り囲まれて五里霧中のステイタス、じっとした指先から落度のように汗が零れる
欲しくもないのに取り過ぎた食事、あと数十分で多分吐瀉物になるから
忌々しい内奥でのやりくりはそれで終幕だ
礼儀正しい芋虫みたいな秒針の孤独な行進、ぜんまいを巻く事が親密さのひとつだなんて―そんな風に語れるアンティークをひとつでも持ってれば良かった
アトムの子供らが作った時限爆弾からは稼動音なんて聞こえない、何もかも無駄に難解になって
気づいたときには四散しているというわけさ、拾ってくれ、拾ってくれ
野良猫が食い散らかした生ゴミみたいな俺の脳漿の有様
まだ書き終えてないポエジーが残っているかもしれないから!
…心臓が壊死したようなか細い脈拍の紡ぎ、清潔なシーツに落ちていくポンコツのメトロノーム、理由の無い人生に
血眼になって注意書きを書いている俺の事さ
牙だと信じていたがどんな観念にもそれは食い込みはしなかった、俺だけじゃないはずさ
みんなきっとうすうす感じているはずだぜ
みんな枯れた老木みたいなものを追いかけているのかもしれない、祀るあてのない貢物を持って
なにかを神格化したくて仕方がないんだ、人生にログインするパスワードみたいなものを―自分仕様のプログラムを適当にまとめてくれるそんななにかを―電子の時代だからってちょっと躍起になりすぎだよな
心臓が壊死したようなか細い脈拍の紡ぎ!何だか腐臭まで漂ってきたような気がするぜ
本気になれない事への言い訳かもしれない、なにか一歩後退りしたところで時を刻んでいる自分の―免罪符みたいなものを得たがってる詩篇も多分いくつか…
古い紙切れは本棚や…もう着ることのない洋服のポケットの中なんかで変色している
なあ、パピルスにも黄疸ってあるんだな
そこに刻まれたものが一緒に死ぬのかどうかまでは俺には判らないけれど
語りたがりたちは死んだ事にするのが好きだね
なにか新しいテーマを持ち出す事がやつらにとっては革命なのだろう、フィギィアの出来を語るようなもんだ
本当に新しい事が知りたきゃ鎮めておくより他に手はない、控えめなゴーストの足音を耳にしようと
決意したような心境がどこかになければ
心臓が壊死したようなか細い―いま表で誰かが叫び声を上げた、もしかしたらでもそれは俺の唇から洩れたものかもしれない
叫びにシンクロ出来ないやつに何を綴る資格があるよ?少なくとも俺はそう考えているぜ…個人的って言葉は便利だ
パーソナルなものを正当化するにはその言葉が一番だ、他人の領域にはみんな遠慮するものだ…真人間は
ここまで綴る間に秒針が何回転したか判ってるか?その間に死んだ細胞の断末魔が聞こえたか?その間に生まれた細胞の産声は?真理は必ず手の届かないところにある…アメーバにならそれが見えるのかもしれない
でも、アメーバにはそれが理解出来ない
シンプル・イズ・ベストにもセオリーがあるってこったな
こう…イメージが広がる事を―加速も減速もなく走れるホイールみたいな気の利いたものを―そういう願望は決して言葉にする事が出来ない、だから安心して長く綴ってみせるのさ、そうしてるうちに判ってくるんだ
キング・クリムゾンのやってた事は決して無駄な事じゃなかったんだなって
その気になれば世界中のカルチャーを知った気になれるこんな時代にパイオニアだけをありがたがるなんてお気楽過ぎないか―?
混沌としよう、混沌としようよ、兎にも角にも言葉を正座させたがる連中よ、混沌として、渾然一体となって、ぶちまけて広がるさまを残せ
内情吐露とは全色混ぜ込んだペンキで絵を描く事だ、おお、なんてことだ、近頃は悪夢ばっかりだというのに―
憂鬱な気分を味わった事がない、飢餓で死んでゆく子供にインタビューがしたい、日本にだって探せばそれは居る
彼らがアメーバになる前に、彼らがアメーバになる前にさ…テレビ・ショウのためのアメリカン・プロレスみたいなマイクを持って
きっと食べ物の方が嬉しいだろうやつらの口に近づけるんだ「いま、どんな気分ですか?」
彼らが最後に見る風景は俺だろうか、それとももっと観念的な曼荼羅のような絵柄なのか
ふっと死ぬさまをこの眼の中に残して欲しい―駅の構内で忘れられた伝言版に書き込まれたメッセージみたいに―俺はそれを誰にも伝えたりなんかしない、無数の言葉に変わるように変換を繰り返す、時々は数字にも
この世で一番最初に壊れるものはきっとヒューマニズムだ、それはヒューマンが証明して来た事じゃないか
心臓が壊死したようなか細い脈拍の紡ぎ―秒針はここまでで何回転した?当たり前なので気にならないスペシャルなこと、少し前に食ったもの達が食道を駆け上がってくる―やつらは命として主張し過ぎるのかもしれない、でも、食われないための権利なんて概念が彼らの中にある事はもちろんやぶさかではない―出来れば俺の消化器官に変なダメージを残しては欲しくないが―俺が噛み砕いたもんにそんな注文をつけるのは虫がよ過ぎるってもんかな
だけど、自分のことしか考えられないぜ、自分の事しか考えられない―それを否定出来る人間がひとりでもいるんならここに連れてきてくれ、俺はそいつに喰らいついて内臓を引きちぎる、生きるための権利と言うのは元来そういうものだろう?
何もかも歪んでしまった、何もかも歪んでしまった、何もかも歪んでしまって―目標を失った弾ばかりが放たれるから関係のないやつらばかりが死んでゆく、そいつらに報いる術はない、どうしたってない―だって、すでに四散してしまっているじゃないか、野良猫が漁った生ゴミよりもずっと酷い尺度で…それについて細かい数字なんか算出しようなんて俺は思わないけどさ
嘔吐っていうものは概念とか、現象とかいうものよりずっと余地がない、掻きこんだものが出てゆくだけ、節度の壊れた巻戻し、統制の壊れたハードディスク・レコード、もっと酷い過去へのタイム・スリップ、冷汗が色のない血液のように吹き出す、おお、俺血まみれだ、血まみれで便器に顔を埋めている、糞に喰らいついているように見えるぜ、糞に喰らいついているように見える、生き抜くつもりなんだろう、お前!そんな陰惨な景色を最も近いところで見ても―お前の誇りだっていびつな配列で巻戻されるのさ
壊れた人間が壊れた人生を、壊れた人間が壊れた人生を、壊れたままで構築しようとしている、それははたして完成したりするものなのか―?一生のうちでは目にする事の出来ない建築物、煉瓦を積み上げる、煉瓦を積み上げる、何から身を守ろうとしている、煉瓦を積み上げる、肺活量がズバ抜けた狼なんかやって来ない、おい、何から身を守ろうとしている…怯えているのか、たくさんの言葉を綴らなければ、伝わらない気がして怖ろしいのか?それは証明か、それは証明なのか…お前はなにかを証明しようとしてるのか、電子の時代に、アナログな手段を用いて―もう価値なんか無い、もう価値なんかないかもしれない、10進法か16進法で無ければそれはもう伝わらないのかもしれない、マシン言語なんて一生理解するつもりなんてない、アルゴリズムなんてバイオリズムより重要事項になることなんか絶対にない



冷汗がシャツに染み込む
俺は死ぬまで生身で生きようとしている





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青い機械
 今唯ケンタロウ

花びらの堆積の下で
ウゴメイテイル
       ユラメイテイル
機械
それはきっと青い 機械

       ……子どもの頃
        ぼくが創った
     オモチャだったあの
         小さな機械
      なくしてしまった
     いつか彷徨い出して
         たくさんの
        ぼくが捨てた
      ガラクタや残骸を
       体にクッつけて
    引き摺っていった機械
        ……何処へ?
  …ぼくの知らない深海へ…


あれから数多の花びらが降った
きみが去った
海底までを埋め尽くし
花びらが降った

花は皆散ってしまった

     今 ぼくは何処に?
  …だれも知らない部屋に…

 ( 落ちて
   探されないまま
   ぼくは落ちて  )


花びらタペストリィの裏で
ウゴメイテイル 
       キラメイテイル
機械よ
ぼくは祈り続けるのだ
この
一面壁がけで閉ざされた牢獄で
(そして祈り疲れて死ぬのだ)
花の死骸に心地よく囚われた
ぼくの霊魂が
肉塊を抜け出し
きみの中で目覚めることを

花びらタペストリィの裏で
ウゴメイテイル
青い 機械


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静物−nature morte−
 丘 光平

たとえば
六月の深夜の片隅
大皿に横たわる果実の類
あざやかな
月光に磨きをかけられて
彼らはつぎつぎと覚醒する
それぞれ互いに
噛みつき足りないのか 
新たな交配に燃えつきるか
飼い放たれた歌声は
惜しみなく部屋中を駆け巡る
ただ
部屋の黒い中枢で
さようならは一糸乱れず
無造作に
壁の磔となっていた
白いブラウスの袖がすこし
焦げている



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