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あめふりおとな曜日
 しもつき、七


くもりにすこしだけ残った雨をすくって封をとじたら
タクシーひとつひろってまちへでかけようとおもうよ
(すきだって、すきなんていったのなんねんまえだっけ)

もっぱらぼくもあいしてるしかつかわなくなりました
拝啓なんて字もかけるようになったし、それでもなあに

しずかになった東京にもあたらしいものがやどるというの

よるみたいなせいじゃく、おとのない、おとなげない、
ひけないピアノをぽろぽろんとはじいたあのころみたい

どうしようもないなあ、政治のはなしもおぼえたよ
きみをさわるためにとっておいたゆびだってとっくに
ビジネスでたくさんのよごれとあくしゅもしてきたんだ

あのころきみだけのせかいで、まんぷくだったんだっけなあ

  ・あめふりおとな曜日



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耳の産声
 ジンジャー

鈴がなる
さまねしの瞳のうららかな
なべたほのおに煤がまう
硯ひろげて つれづれに
ならべた問答が
袖に付く

煤が舞う日の 夕のそら
東の果ては 業に燃え
耳より出し 旋律は
遠く暮れゆく 郷のうた
聞かせてあげましょ
贄の夜を
仄暗い海に縢る灯を

鎹(かすがい)にとまる
白い羽根
耳鳴りの鈴はいぶし銀
ウィリアムテルの草笛に
涼やかな頬は香りたつ
真っ赤な夕陽の礎で
お堀にたたずむ少女から
林檎の心臓は浮きあがり
小さな虚数を数えてゆく

百舌鳥鳴く夕べの遣る瀬無さ
夕凪の野辺のすゞやかさ
釣瓶落としに移ろう陽
肝油いろした黄太陽
藪の茂みで
鈴が鳴る
小さく遠のく鈴が鳴る

静かに流す簀の子板
遠雷の夜にとかす髪
薄桃いろの耳朶に
柔らかな声がからみつく
少女の瞳のとこしえに
神贄のうたはなめされて
菖蒲の桶で湯気にのり
ザバァッと白湯に流される
薄桃いろした耳朶で
くちずさむ夜の向こう側
ときおり声を潤ませて
はにかむ夜を口ずさむ


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水位の上昇
 黒田みぎ

わたしにはわたしが見えて、わたしはわたしに会いたかったのに母はわたしに会わせてはくれないどころかわたしには狐が取り憑いたのではないかと言います
わたしはわたしに会いたいだけなのに、です
わたしが向こうに行くとわたしの足もつられて歩きだします こんにちは 今日は雨です あのわたしは傘もささないからわたしも傘はささない
これは何の罰ゲームだろう
涙が頬を伝って流れ落ちてきた あのわたしが泣いているのだろうわたしもつらいよ わたしもだよ
泣きながらわたしはビルのなかに入ったのでわたしも泣きながらビルに入る
おとこのからだ
わたしは泣きながらおとこの頬を撫でていた 悲しいね 悲しいんだね おとこのからだの足からは樹がはえていてビルの天井からは見えなくなっていた わたしは驚かない 知っているのでしょうわたしのことだものわたしのわたしのこと

(でもわたしの知らないわたしがいてもおかしくないのかもしれない あなたがほんとうはわたしでわたしが他の何か なにかといえば何か 狐? まさか)

わたしのような色をした水が、部屋に流れている どんな色って、わたしのような色よ 座りましょう わたしの部屋はわたしでいっぱいなのだけれどわたしはやはりわたしを待っていた 天気予報は雨 変わらずに外では誰かが降り続けている 水曜日にはわたしはまるで何もやることがないような振りをして、いつもよりたくさんのわたしをみせた わたし思ってないよ 救ってあげようだなんて思ってもいない
電気をつけなさい 母の声がする歩いてくる母に踏まれるわたし わたしはそんなにいい気がしない
つけるわよ 母は感情を剥き出した獣のような声で呟いた おはよう 何よ何もないじゃない 母はたくさんのわたしにまとわりつかれながら部屋を出ていった ひとりのわたしが眠そうな顔でわたしを見つめる
わたしを 見つめる

(わたしはわたしに話しかける あなたは少し違う あなたはわたし? わたしはあなた? わたしとはもう付き合いが長いのだろうか 彼女はわたしをもっていた)

わたしはわたしの思い出の断片を集めることをしてはいけない わたしはわたしと一般的な話題をしてはいけない 三日後にはわたしはまた増殖しているかもしれない わたしは上をむきただ待ち続ける 上昇してくるわたしたちを
それまでは何も言わない
ラストシーンは自然にやってくるものだから



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パジャマのままで春風に乗れ!
 しもつき、七


おきがえ、なんてママのおこごともあきた
そんなのこれっぽっちもだいじじゃないわ

春を知ってる?ってきいたらパパはあきれて
ああ知っているよ、だって、さあわらっちゃう
いそがしいスリッパとトーストのこげる6:58

(めのまえの春風やあしもとの菫に、あのこのいろに)
(きづけないってなんてかわいそう、泣きそうだ)

みずいろストライプが風に乗ってまたたいてる
ゆめのさかなのグライダー、やさしいあのこをつれされ!
(はだしのつまさきはさみしいけれど、それもいいの)

少女でいられるねむけまなこ、もてあまして
めざましどけいは鳴きだすまえにとめてしまった

はやくがっこうに、うるさいママにも春をあげる

  ・パジャマのままで春風に乗れ!



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はれしあめ
 黒田みぎ

 風のまわり 小さな泡が空へとあがる夢をみた
(消えていく泡を遠くにたらしたら "パチンと音がなり、世界にヒカリがひろがっていく、夢)
陽のナイ泉に流れていくあおいろのキツネ。 抱きしめると消えてしまう。
(なでる 手は、優しい。眠っていたヒツジは陽のナイ泉で あおいメを開いて包まれるのをじっと待っている)ヒカリ、
が、ないのでしょう。そこでは雨が忘れさせてくれるヒカリ、が
首からぶらさげた 彼女の名前と、君の舌、
またひとつ 世界の足音がとおくなっていく (ワスレテイク/トオク、
トオクへ、

     \/

右足は砂にさらわれ暗いところに消えてしまった
あくびをして
時間どおりのハジマリ 約束された早送りの結末
右から上へ 唇から喉へ
彼女たちの終わりを、決める為の合図 ほら
夜の雨は降り続け サカナは空へと、あがる
海が めを ひらいて 少女の横顔をながめ、
指の先から、転がる。地面をあがり、口をひらく。少女がセカイの夢をみる。それは、追いかける、
ということ
彼女はメをとじない。
円の下、ひとつの終わりを誰かに伝える、流れだす水を彼女の、舌に垂らして



機械、機械、魂のない機械の行進がはじまる
えんのなかにえんがあり、そのなかに点がある。
(ト―、ト―、トル、ル、ト―ルル、ル、ル―、
 ッ、 )「 あれはさかな さかなとさかな、 さかなの群れだよ!」
小さな彼らが、少女の前を通り過ぎ、少女の指からは小さな光が
    ねえ、みんなが何処へいったかしってる?
    ( ヒカリ、 ヒカリ、 ヒカリのある場所…)
 ‥、…、ぁ、あ、ああ
 ヒ、カリ、ヒカ、リ、ヒカリ、、ヒカリ、に
 崩れていく機械、 魂のない人形の行進は、続く
ひとりの機械が転がってばくはつするとヒツジは真っ赤になって
狐と一緒に消えてしまった
ヒツジのいた場所からは泡がうまれ 空へ飛んでいこうとしているが 空が何処にあるかを
少女は知らない

(人形たちの夢の世界へと少女はゆく 加速して)

「テをはなすよ」
 あす さいごにはなれる にんぎょうのほね
 きみが翔ぶ ぼくは結びつけ 冷たくなった骨 ゆるむと土のテは枯れてゆく 消えるだろう。それは消えてしまう。生きている、ということ、光が落ちてくること 。 棚から こぼれ、うまれかわる テ
  、 なれない 人間に ぼくは 。 求めすぎた ぼくたちは 、、 なれない  人間に きみは   ぼくが人間になれないというのだから それはたしか。 一歩 きみが前に歩けば、ぼくは後ろにさがる きみがてをだすと ぼくは足を撫でてやる
重力なのだろう これは 。 さよなら、春の日
さようなら 。
」「/ アス 生きた少女は思う、 失った 彼方から消えてくる。消してこぼれた、されている シ、 砂。精神的な そのただ、直接冷たくなった点、なくした、抜けだすきみの、脳のある廃墟、光 風への骨。真夏に見つめる結びつけた林檎の転がる先、
雨 あめ 雨 あめ なんだこの雨は!!
     ぼくたちはあめのひにさんらんしている
 きみは ひとりになれなかったのだろう  ひとりになりたいのか  きみ
(だめだ だめだ だめだ だめなんだよ)
人間の視線がいたい
だなんて 言えるものか 好きだよ/きみが
‐かわれたりはしないと・
/きみがひとつ、 きみふたつ 、 きみよっつ きみを数える 人形のほね、ひろう。春のかぜ
  あしもとをみた  あしもとをみた  あしもとをみた ………
 かけぬける かけぬける
 かいすうは なんどでも てをにぎる てをはなす たべる テを ちいさくもえる わかれる
 それは
 あさにさよならをしている
 ぼくと 、 きみだったとしても




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フルーツメモリー
 腰越広茂


ひどい青さの落果
そんなに思い出を失くしてどうするの?
夢をみてるのね
ゆるい傾斜の果樹園で
ひとつひとつの木には
実がふくらんでいて
それいぜんには
花が咲いていて
遠い

息がつまるので
窓をあけ放して
空へこぼれる
理由は
未熟だから
唐突

つまり
染色体は回帰線で
いつまでも分裂するばかりで
さながら、ガン細胞のように
声ほそく

くやしいけれど
果実はリアルな落下で
叶うたびに
果てる
そして雨を祝う



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バケツ
 たもつ
 
 
テレビが湿っている
ただで人からもらった
のだから仕方がないけれど
水分をたっぷりと含み
少し軟らかい感じがする
付属のリモコンも
ただで人からもらったから
同じように湿って
チャンネルを押すと
水槽に手を入れたときと
同じ音がして
同じように指先は濡れる
本当は水槽なんていらなかった
金魚も臭いからいらなかった
でも縁日でもらった
とお姉ちゃんが朱色のを二匹
袋に入れてきて
このままじゃ死んじゃうからって
水槽に入れて
そして二日後に赤飯は
お姉ちゃんのために炊かれた
それから二匹の金魚を
生きたまま埋めて
終わりにした
ただだったから誰も
そのことに気づかなかったし
赤飯も美味しくないから
食べたくなかった
湿ったテレビの中で
司会者や出演者の髪や服は
何かをしてきたみたいに
やはり湿っている
ただでテレビをくれた人が来て
テレビはどうでしたかと聞くので
湿ってますと言うと
庭先にあったバケツを
持って帰ってしまった
結局ただのものなんてありはしない
けれどバケツは滅多に使わないし
縁側にもうひとつ別のがあるから
それでもよかった
こうして眺めると
あの日、金魚の近くに
自分を埋めたことがわかる
 
 

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風車
 稲村つぐ
 
木陰に融け残った雪の
わずかな火種が
不意打ちのような協和音で
眼球を湿らせる
光は、広げられた手にも
同じ冷たさをもって
差し込み、滑り続ける

海原を泳いできて、風は
招かれた丘に逆立ちをすると
揺らぎながら
静かに、瞳を閉じる
過ぎ去った季節が
突き上げてくる音響は
まだ半球の外側を輝いている

青白いタクトにつながれた
視線の奥から
いつしか海鳥たちが降り始め
まぶたでそっと口づける
いま力の限り張られた、その両腕に
歌声のような
深い爪あとを残して


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