月刊 未詳24

2007年6月第3号
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2007年4月創刊号
2007年5月第2号

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ノート(かたち さざめき)
 木立 悟



飛び立つ鳥のかたちの木と
降り立つ鳥のかたちの木とが
風のなかでとなりあい
はばたきと狩りを語りあう


常にどこかにいる冬と
めぐりつづけるものらとの
軋轢の色とかけらがひらき
ひらいてはひらいては響きつづける


落ちつかぬものを落ちつかせようと
時間と音はすぎてゆく
何もかも怒りや怖れのふりをして
ほんとうはただひとつの悲しみでいる


渦まくものに触れ指を切られ
また生える指を見つめている
痛みの無さを燃すものはいても
応えの無さを問うものはいない


どこか遠くから器へと落ち
はねつづけ回りつづける影たちが
糸のような線を描き
すぎるものすべてを音にしてゆく


飛ぶものは少なく
歩むものはなお少ない
夕暮れの刻みを流す水
風を映しては言葉に変える







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ノート(象応輝)
 木立 悟



越えると海があり
越えると
またひとつ海がある
踏みしめた
指のはざまの
銀色


風の来る方へ
息を吐き
風を吸い
空洞の
奥の奥を
のぞきこまれることに戸惑う


曇から地まで 一本の
途切れることのない雨が
揺れながら
降りながら
まぶたの内にも
降りながら


そしてふたたび
濡れては昇る
濡れたものの一部を持ち去り
白から青へ
青から蒼への
長い路を昇る


飛び去ってゆく音の跡が
銀に映り 銀を梳く
海と海を分ける窓
隔たりは小さな鏡のように
くりかえしくりかえし
小さな息に洗われている


横たわり
うすくひらかれた目に
午後の灰はまぶしく遠い
ほどく手
つむぐ手の生まれる場所に
持ち去られたものらはかがやいている







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かなしい予感
 しもつき、七


よるをやりすごせるかしら、あたかもじかんをひとつ、
食べたらあしたがくるみたいにひょうひょうとしてみる

(がまんをしなくちゃいけないのだ、すこし眠って)

あの子のくちびるからこぼれおちるひとことぜんぶが、
いとしくてたまらなくなるときは、きっとくるんだろう
あやうい指をとることも、それさえも罪になるんだろう

あいすることをおそれましょう、いつかなくすことを
わたしがいつか、きみをあいさなくなるだろうそのとき
、そのときはきっと、せかいでいちばん幸福なキスを

ことばをうみみたいにのみこんで、ゆるい水平線をつくる
(ここからきみは、きちゃいけないよ、って)まだ慣れない

  ・かなしい予感



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生きていくこと
 たもつ
 
 
駅前で冷蔵庫が名刺を配っていた
私も一枚欲しくて列に並ぶ

冷蔵庫の中が無性に見たくなって
ドアを開けようとすると
少しムッとしたみたい
ガサガサ音をさせる

もらった名刺には冷蔵庫の言葉で
幼い頃、生き別れになった兄の名が書いてあった
皆、生きていくことに懸命なのだ

途中、スーパーに寄り
ささみとお風呂のふたを買った
クリーニング屋さんにも行きたかったけれど
サービス券を忘れてきてしまった
 
 

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さよならにてきせつな処置を
 しもつき、七


あまずっぱい温度のなか、しろくなるきみのからだ
熱湯をそそいだみたいにたぷんとした、なんてやわい
てざわりによい痴れる(せかいをかかえて眠る)

うっとうしい雨をやりすごしたら、たぶんふたりで
世界のおわりのような顔をして朝をむかえるのだろう

とても、とてもゆううつな波にたゆたゆたゆたう、
水平線ぶっこわしてえいえんもしんじないといって
(そうしよう、一瞬だけ恋におちたのだ、ぼくらは)

きみにさわると、檸檬水にふれたみたいにひえるゆび
くちづければなつがくるけれど、はやく舟をほどいて

(まほうをとく呪文をとなえる、あしたもあさがくる)

  ・さよならにてきせつな処置を



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シオリちゃん
 藤丘
 
シオリちゃんは、わたしを見つけるといつも
はじめまして、と言う
わたしも、はじめまして、と言う

たくさんいっしょに遊んでも
次の日には、わたしのことを覚えていない
でも、シオリちゃんは、
おかあさんだけは絶対にわすれない

シオリちゃんは、ときどきどこかへ行ってしまう
みんなは探す
わたしは居場所を知っている
シオリちゃんの時計の音が微かに聞こえているけれど
約束したから誰にも言わない


修学旅行のとき別々の部屋になった
シオリちゃんの側らには
いつも先生がいらっしゃる

シオリちゃんは、こっそり部屋を抜け出して
お土産を選んでいるわたしに
はじめまして、と声をかけた
きょうは、おかあさんがいないので
いっしょに寝よう、と言う


星が泣いているから可哀想だと言って
シオリちゃんは目をこする
そうね、と見つめていると
シオリちゃんの二つの宙にすいこまれそうになる

子守唄をお願い、と言うのでわたしは歌う
その唄を知っているけれど
いま、はじめてきいた、と
シオリちゃんは言う

わたしは子守唄を歌う
お布団の上から軽くトントンとしながら
おかあさんの代わりに歌い続ける


シオリちゃんの瞳はしだいに空と海を映しはじめる
一羽の白い鳥が水平線の向こうから
ほろほろ、ほろほろと鳴きながら近づいてくる
あまりに、かなしく鳴いているので
わたしも、ぽろぽろ、ぽろぽろと泣いてしまう

シオリちゃんは、わたしの濡れた瞳をまっすぐに見つめ
お日さまのように微笑んで子守唄を歌ってくれる
はじめてきいた唄を、さらさらと歌う

シオリちゃんは青いリューズを巻く
満天の星空が瞬きだす

それから、ふっと夜空を指して
いま、空が笑った、と
シオリちゃんは笑う
 


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 たもつ
 
 
 タクシーに乗って
 道を歩く

こんな時間までお仕事ですか?
運転手が尋ねるので
ええ、まあ
と答える
今日は暑かったですね
暑かったですね

 本当に暑かったのだろうか
 暑かったと答えたのだから
 本当に暑かったのだと思う
 長い道のりになりそうだ
 歩けるのか心配になる
 ラジオからナイター中継
 一進一退の攻防が
 繰り広げられているらしい

 県道の切れ目
 少し奥まったところで
 一組の男女が手を挙げている
 タクシー、止まる
 同時に
 わたし、止まる

お客さん、相席よろしいですか
構わないですよ

 中年の男女が乗り込んでくる
 二人は深刻な様子もなかったが
 楽しげでもなかった
 タクシー、発車
 同時に
 わたし、歩き始める

すいません、注文お願いします
恰幅の良い男の方が声を出す
おかみが来る
ビールと枝豆とモツの煮込み
男が注文する
カルボナーラをください
女が注文する

 しばらくしてテーブルに
 料理が並べられる  
 こちらに遠慮しているのだろうか
 二人の会話は弾まない
 時々ひそひそと何か話している
 以下、漏れ聞こえた言葉の羅列

   ソファー、
   書類、
   ないすい(内水?)、
   (ビールを注ぐ音)
   お医者さんも、
   だって、きゅ、
   珍しいなあ、
   (枝豆を口に入れて指でさやを押す音)
   (さやから水の出る音)
   観葉植物の方が、
   (煮込みの汁をすする音)
   さ、窓口で聞いた

 物音ひとつたてずに
 女、カルボナーラを食べ終える
  
 ラジオのナイター中継は
 相変わらず一進一退の攻防が
 続いている気がする
 タクシー無線が入りしきりに
 三号車どうぞ
 と繰り返している
 わたしは少し歩きつかれたが
 休むわけにもいかない

お客さんはどこのファン?
いえ、野球のことは詳しくないんです
このままナイター聞いてていい?
どうぞ、一進一退のようですし
ビールもう一本ください
恰幅の良い男がまた声を出す

 タクシー、一番線ホームに到着  
 同時に
 わたし、止まる
 扉が開き
 たくさんの人が乗車する
 車内が急に込み合う
 中年の男女は
 端の方にテーブルを寄せる
 タクシー、発車
 同時に
 わたし、歩き始める

 まだ三号車はつかまらないようだ
 本部からの無線は延々と続く
 人と人の隙間から
 先ほどの男女の姿が見える
 二人はうつむき
 話してはいけないことしか残っていない
 かのように沈黙している
 一進一退が終わらない感じがして
 あたりは少し寂しい
 窓の外にはありきたりに月がある
 月明かりのした
 わたしは歩き続ける
 お客さん、窮屈ですいませんね
 運転手の声が遠くから聞こえる
 気にしないでください
 と答えはしたものの
 それが声なのか
 もはや自信もないほどに
 少し汗をかいている
 
 

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ひととき
 丘 光平

生まれたばかりの花の額にも
その枯れてゆくしるしが淡く灯っている、そのように
わたしたちは始まったのだろう

ときおりわたしたちは
語り合うことばの雪片におののき、そのために
重なり合うまなざしに
まだ熱のあることを悟るのだ

そして街を、野道を、あるいは道なき道を歩みつづけて
わたしたちはわたしたちに触れる、その静けさ
その静けさのなかに
かつて思い描いていた幼いあこがれや
ただ美しさを装う嘆きの
本当の姿を垣間見る――

 たとえば、わたしたちのそばで物言わぬ一本の枯れ木
その澄み切った沈黙にこそ
彼のすべての声が
高らかに暗示されている、その慎み

そして
立ちつづけてきた彼は
じっとわたしたちに耳を澄ませて
わたしたちのひとときを
他に取り替えようの利かないこのひとときを
せめて祝福してくれるのだ



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