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いつかのオレンジ
 ピクルス

うまくいえないし
うまくできないから
そんなじゃなく
みぶりてぶりで

そんな花に
綺麗だと云った
いっしょけんめい
花が返事するだなんて
想像もしてなかった頃の話

奇跡みたいな
みたいで
もちろん、
人は花じゃないさ
オーライ
過度に清潔な可憐の白と
ものぐるほしい潤いの黒は
こんがらがる事なく
ひらひら燐光となって
なんもかんもを
揃って新しくして
その、踊る掌を
おそろしいとさえ
思った時の話

なぁ、
そんなふうにはできない
こわいこわくない
誰かがシェイクスピアの話をしていた
もう、
思い出せないや

たいせつを喪って
硬い唾を呑むだけなら
しあわせは
ゆくえもしれない
無言の秘密に
決意を秘めた顎の線を
見たような気がしたから
イエスイエスイエス
それ以外に
しらない


こころざし
の裏には何も書かれてないといい
いつか読んだ童話の勇者
のきもちだったらいい
その世界が
きみの思い通りになるといい
そのほかにはなにひとつ
のぞまないといい
 


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果実の詩
 ルイーノ
 

太陽の吐息のような
甘い
腐敗に近づく熱帯の
香りを湛えた店先には
色彩がきつく笑っている
べたつき
洗い落とすかのように
つめたい午前の雨は降る
雨音が線を結ぶ色
輪郭はおぼろ
店の奥では
安楽椅子に掛けた老婆が
申し訳なさそうに頷く

俺は声を
箱入りの果物を買います

ちょうどそのくらいの
まごころを
差し上げたいひとが
いたのです

胸を責める豊潤がひとつ
細手のナイフと踊る指先
薄皮を
器用に剥いて差し上げる
誕生に輝く
色艶めいた切り口より
腐臭が溢れるその前に
一瞬が
眠る一瞬さえが
危うい

樹木の影は感情を畳んだ
かすかに歌う
灰色の雨は掻き消す




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夏のおはなし
 藤丘


『 雲の子 』


それは、ある夏の夜のおはなし。
縁側から庭に出るとオーケストラがチューニングをしている。
「こちらへ、どうぞ」
黄色の洗濯バサミが、二拍子のリズムで左右交互に跳ねながら僕の前を歩いて行く。
すぐに木製のベンチに案内された。隣の席には前足を揃えた猫の親子が行儀良く座っている。
間もなくすると座席の前方で、物干し竿とシーツがスポットライトを浴びて丸く浮き上がった。

「あっ、それっ」

続きを言いそうになって慌てて言葉を呑む。
母猫が眉をしかめて、ちらりと僕を見たから。

(でもあのシーツ、僕のなんです)

そう心で呟いた時、拍手が湧きあがった。
いつの間にか庭は大勢の観客で膨らんでいる。
月の帯に跨って指揮者が空から降りて来た。
青い風が一斉にホルンを奏でると、真っ白に洗い上がった布の隙間から、
無邪気な鼓笛隊が飛び出しては空へ昇って行く。

僕は猫たちと一緒に手拍子する。
行進は夜明けまで続いた。



『 手紙 』


昼寝から覚めると、僕は真夏の森にいた。 懐かしい夢を見ていた。
彼と最後に会ったのはいつだっただろう。
久しぶりに声を聞きたいけれど、ここには電話がない。
仕方がないから手紙を書こうと思うが、便箋もペンもない事に気づく。
とりあえず歩く。木漏れ日を浴びながら。

「おーい」

返事はない。
向こうに見える一際大きな山の天辺に綿雲が浮かんでいる。
その上で麦藁帽子をかぶった木霊が昼寝をしている。
あぁ、ドーリデ。
見上げると、僕のいる山の木霊もやっぱり昼寝。
僕は歩く。友人を想いながら。

空がどんどん高くなっていく。膝がくすぐったい。
重なる枝を潜り抜けて、

「おーーーい」

歌うように呼んでみる。
緑色の風につつまれて、僕は夏の森を歩いて行く。



『 宿命と運命と 』


ピンクの冷気がメガネを曇らせた夕刻。

「私は南極へ行くの。もう決めたんだから」
アイスキャンディーが僕を振り切る。その拍子に僕のメガネがどこかへすっ飛んだ。

「ちょ、ちょっと待てよ」
僕は慌てて止めたが、彼女はキッと睨んで言ったんだ。
「だって、そうでしょ。こんな曖昧な人生、嫌なのよ」
「素直なままでいたいと思ったら、カチカチに封印されて、今度は融けろって。冗談じゃないわ」

「だって、君の宿命は」
僕が言いかけると、彼女はすかさず反論する。
「でも私は、私の未来を変えるのよ」
僕はもう何も言えなかった。そして南極へ旅立つ彼女を見送った。

あれから三度目の夏が来た。僕は相変わらずで。
なくしたメガネを探しているけど、裸眼にも少しは慣れてきた。
彼女は元気で暮らしているだろうか。



『 ターニングポイント 』


真面目な人がある日、突然、不真面目になった。
斜めに帽子を被り、道端に吸殻を捨てた。
喫茶店で珈琲を注文してから鼻歌を歌った。

一陣の風が吹く。

龍の形をした夏雲が間もなく迎えにやって来て、
いつのまにか、その人の片方の靴だけが残っていた。



『 夏の夜 』


花火大会の夜、帰ろうとすると花火がついて来る。
驚いて見上げると、花火はすまし顔で一言。

「真っ直ぐです」
しばらくすると、また一言。
「次は右です」

花火に言われるまま僕は進む。
公園を二つ越えた所で、直角のカーブを曲がると泉が広がっていた。
僕は指示を待つ。
でも花火は何にも言わない。

赤や青や黄色の雫を時雨のように泉に落とす。
僕は思わず声をかけた。
何だか急に淋しくなったから。

「こっちへおいでよ」

花火は空の途中で少しずつ縮みながら、僕の肩まで降りて来てくれた。
それから僕たちは並んで蛍を見た。
夏の夜空の下、ずっと、ずっと。






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