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鎌倉
 ピクルス
 
蝉の鳴かない朝でした
胸の端からほどけてゆくひかり
できたばかりの海は睫毛に乗る軽さ
静かに浮かぶ顔に人知れず声を燃やす

髪を結んで横たわる
約束、と呟いて水より生まれし数字を忘れてゆく
墨絵の空が一枚、句読点の雨に開く傘は
覚悟を秘めたまま決意までには少しだけ遠い
偽りあり
偽りなき
待合室の冷たい長椅子には
切手を真っ直ぐに貼れない男が座っている

まだ乙女達の脚が堅く閉じられていた頃
新しい靴が欲しかった
宝物みたいに切符を握りしめた改札口
桜を見下ろすレストラン
もう、手を洗った回数さえ思い出せない
いつの間にか誰かが九官鳥に悪い言葉を教えてしまう

薬を飲む度に
大切な名前を呼ばれた気がします
同じ話は同じ返事と寄り添っては
さほど残念そうでもなく、すれ違ってゆく
命乞いする顔色の男が咳払い、ひとつ、ふたつ
林檎を剥くのが巧い、知らない男だ

冷たい枕の下に眠れない瓜を冷やす
夜具に問いかけては
心臓のところ、指を伸ばしたその先に乳房は無い
もう違うんだよ
まだ違うんだよ
あの花を取って
と、せがんだ鎌倉には
白い夏帽子がよく似合いました
どなたか存じませんが
いつもありがとうございます




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鳥たちは鳴いていなかった
 丘 光平

鳥たちは鳴いていなかった
鳥たちは五月の朝空を忘れて
がらんとした道端で
夜の落穂をつついていた


 白い花のしずかな匂い、
たくさんの働き蜂が
そのちいさな口を黄いろにして
白い花のちいさな朝を頬張っていた


僕は振り返らなかった
遠くで山々が緑に燃えている
ここで世界が燃えている
僕は振り返らなかった


 すこし渇いたのどを
朝の冷たい光でうるおわせて
季節はずれの枯れ木のように
始発の駅に立っていた




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不安定性突然変異
 狩心


羽が生えた
獣の人は
鋭い牙と
鋭い爪で
社会の飢えを
飛んでいく

牙から滴る唾液と
爪から滴るドス黒い血液が
夜の街を歩く不眠の人の頬に
優しく触れて誘う
堅く閉ざされた建物の中へ

月の光も届かない
影もない
未来も過去もない場所
羽がバサバサと蠢く音が
冷たい壁に何度も反射する
不眠の人の目には赤い光
闇に適応した悲しみのスコープ
その万華鏡の中に現れた獣の人が
手を差し伸べて
死別した家族の面影を装う
もしくは別れた恋人の面影
もしくは会わなくなった親友の面影

暗闇を覗き込んだ時に映るもの
それは人によって違う
しかし人は皆
差し伸べられた手を取り
必ずそれと同化するのだ
獣の人の呻き声が
建物の中に響き
不眠の人は目覚める

堅く閉ざされた建物から出ると
あんなに賑やかだった夜の繁華街の喧騒は消え失せ
人気のない静かな朝焼けの街が現れる
少し湿り気を帯びた空気を吸うと
その街の歴史が血液を通り
脳を刺激する
社会の飢えを消化する為
唾液が流れ
自らの口元を触ると
鋭い牙が生え揃っている
鋭い爪で唇を傷付けてしまい
醜い顔をさらに醜くする

羽のない
獣の人は
沈黙の中を
自らの足で歩く
目はいつの間にか見えなくなり
臭覚と聴覚が発達する
自らの足音だけを頼りに
方向を決める

知らない街
夜の繁華街を通り過ぎる時
道端に倒れている不眠の人を見つけては
声を掛け
背中に背負う
死別した家族
別れた恋人
会わなくなった親友のように持て成し
一人で歩いていた時よりも
ゆっくりとしたペースで
次の街へと向かうのだ




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キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド
 狩心


キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド
ゆめのなかの、たんじょうび
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド
ふりかえったときの、いたみ
もう、ぎゃくほうこうに、まげられない
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド
けいたいの、じゅうでんのなかの、きみのえがお
めつぶしで、さいたあさがお、ろんどんぶーつを、かちかちならして
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド
しわくちゃのしゃつ、ゆかにはりついて、のびきったたこ
ぼたんをとめて、おなかがしまる、たちあがって、でんきをけそう
よこになったかばんと、かたくなったごはん、めざめのあさは、きのうのあさで
ごみがたまってる、めのおく、ほじくりだそう、かぜのとおりすぎるまど
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド・ひとびとの
しかれたふとんと、ほされたずぼん
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド・ひとびとの
たんすのなかは、まっくろけ、あみどをしめて、ひとびとの
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド・なつのひの
のこるよいんが、ゆめのあと、どうろのすずしい、こんたくと
せまいみちには、おうだんほどう、もうふでぐるぐる、みのむしのまね
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド・ぶらさがる
はんきょうするへや、ちいさないのち、ながれるといれの、てをひろげたい
あなたにとどく、までのきょりきょり、ひげがのびても、そのまんま
もえるごみごみ、もえないごみごみ、ぶんべつしないと、おこられますよ
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド・ぼくときみ
りょこうかばんに、くうきをいれて、ぱんくのじてんしゃ、てでおすにょろにょろ
すってんころりん、ふたりでこけて、がぶがぶがぶがぶ、みずのんで
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド・もんきーぱんち
じゃれあうきみと、せっていおんど、ひかりのところに、むしがあつまる
まつりのあとの、キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド、ゆめみるぼくと、きみのうちゅう
はだかおどりで、あしたもわらう、キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド、おまじない
どれみふぁそらしど、もうすぐあきだよ、びにーるぶくろと、いっしょにだんす
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド、しんぶんし
まいにちよむよ、ぼくらのみらいず、きょうあくじけんも、たはつするけど
かぶかもきゅうに、げらくするけど、キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド、ひとびとの
おーるばっくが、せいぎのみかた、ゆうひをまたいで、あしたもはれる
キ・ン・シャ・シャ・・ドレッ・ド・お・ま・じ・な・い・




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後ろでは軽い調子の音楽が流れています
 狩心


※この詩は、下の行から上の行へと読んでください。





人間というものを。
私たちは知らなかったのです。
私たちアンドロイドは、母の葬式で涙を流しませんでした。
だから私たちアンドロイドは、同じ過ちを二度と繰り返してはならないのです。
人間が絶滅した原因は、しっかり塩味の涙を流さなかったからです。
これが、激しい運動の前のストレッチです。
これは、今流行の占いの診断結果です。
荒れ狂う地面、逆立つ前髪、広がるホクロ、食い破られた内臓です。
救急車を呼ぶなら電話番号は「重要なのは言葉ではなく、体の温度でした」です。
沸騰した味噌汁で舌を火傷して、何もしゃべる事ができなくなった時、
真剣に怒ってくれる人とぶち当たった時に、嬉しくて塩味の涙を流すのです。
日本中が母子家庭です。父親は不在です。
それが、おふくろの味です。
それは、水が脳味噌の呪縛から逃れようとする化学変化です。
そして、日本中の味噌汁が沸騰します。
自動車は回転しながら、垂直に上昇して行きます。
その恐ろしさに、小鳥達が一斉に振り返り、ペットの犬は死んだ振りをし、
と、歯を剥き出して、よだれを垂らしながら、狂ったように叫ぶのです。
「いいか。敬語は使うなよ。形式ではない本心でぶち当たって来てくれ。」
そして、自分よりも目下の者に対して、
もしくは、何も書かずに念力を込めて、白紙のまま提出して下さい。
余白が完全に無くなり、紙が真っ黒になるまで塗りつぶして下さい。
文字と文字の隙間に文字を書き、さらにその文字と他の文字の隙間に文字を書き
文字の上に文字を重ねる事はもちろんのこと、
もし、文学でご飯を食べていこうとお考えならば、
だから、直接会うことはできないのです。
母の死後、税金は支払わなくなり、指名手配中です。
電話番号は「直角を測ったら正確には88.45度でした」です。
商品に不備があった時、誰かの心に問い合わせたいなら、




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誰が主役なのか
 狩心


世界中のどこもかしこも蒸し暑い夏の日を背景にした舞台劇場になり
油彩画のように凸凹している駄菓子屋の背景の前に群がっている子供達
誰が主役なのかという事でモメテイル口論の際中だにゃ〜こりゃ〜
どの子も自分が主役で他の皆は脇役だと大声で叫んでいる
隣の家の雷じいさんが「うるさーい!静かにしろ!」と怒鳴り込んだら
子供達ミーンな血ッ濃くなってションボリところてんにナッテシマッタ
ミンナ静かになって駄菓子屋でアイスキャンディーを買って
これでもかって言うくらいにベロンベロンに酔い舐め尽くしている
帽子を被った小さな男の子のアイスの木の棒に「アタリ」と書かれている
「僕が主役なんだ!」と嬉しそうに飛び上がると突然雲行きが怪しくなって
脇役かもしれない子達が歌を歌いスキップしながら一斉に家に帰ってしまい
主役かもしれない子が一人ぽつんと電信柱の横に水彩画のように残される
その子は負けてたまるかと泥でぐちゃぐちゃになっている道を匍匐前進する
雨は強くなり川は氾濫をはじめ町は濁流に呑み込まれる
匍匐前進していた子は大量の水を飲み込み全身の力が抜け水面に浮かぶ
雷じいさんはその子を発見するやスグサマ神様にお祈りしたあと濁流の中に飛び込む
その子のもとに辿り着いた時には雷じいさん腹にビニール傘の骨が突き刺さる運命
そしてやっとの事その子を2階まで水没している民家の屋根の上に乗せる
雷じいさんは雷の如く龍の姿と合い重なって濁流の中に消えていく
屋根の上にいたオバタリアンの世間話の力によって応急処置は施され
子供の口から競争社会と親子喧嘩と大量の水が吐き出され意識を取り戻どす
次の日が来るとつい昨日に大災害があったにも関わらず
子供達は何事も無かったかのように元気一杯で大ハシャギ
変わり果てた駄菓子屋の背景の前に群がりながらゲームのような世界に対して
「昨日のあのアドベンチャーは僕が主役だったんだ」と大声で叫ぶ
あの怒鳴り声は無くなったが子供達には誰が主役かなんて見当もつかない
昨日に溺れている子供達がそこに居るが昨日溺れた子はそこには居ない
昨日溺れた子はオバタリアンに自分の知らないストーリーを聞かされ
「僕が主役なんだ!」と叫んだ自分を蔑み蔑みこれ以上なく殺そうとする
体に残る全ての人の熱が自分の体温を36.5度に保っていると感受する
世界中にある蒸し暑い夏の日を背景にした舞台劇場のどこを探しても
もうその子の姿は見当たらないだろう




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女がどんなジェラートを欲しがっているかなんて男には絶対に理解出来ることはない
 ホロウ




夜の明りは窓辺の結露で最高な具合に濡れそぼっている…ごらんよ、メロドラマのように結晶化する日常の数々を、俺たちは祝福されているのさ、判るだろう―ウェディング、なんて簡単な言葉で片付ける気はないぜ…そんな甘っちょろい契約みたいな浮ついた響きに全身を投じられるものか!俺はお前と燃え盛る炎に焼き尽くされるような語らいをし続けたいんだ…約束を幾つも重ねた事を覚えているかい、いくつかは踏み潰したけどいくつかは叶えた…そしてそれはとてつもなく有意義な現象だとは思わないかい、なあ、ちょっとやそっとじゃ拭い去れないようなとてつもなく有意義な現象だって?俺はお前とこの部屋にいる、この部屋に居て、とてつもなく有意義な現象に身を投じようとしているんだ…なに、多少の意見の食い違いなんか問題にもしないよ、なぜなら俺はずっとそれを貫き通してきたっていう誇りがあるからね…お前は俺を信じないのだろう、今だって、心のどこかじゃ俺が裏切ったりするんじゃないかって勘繰ったりしているんだろう?だけどそれは別にたいした事じゃないさ、だってお前は言うんだろう「それもこれもみんなあなたを愛しているからこそなのよ。」って―だったら構わないのさ、だったら構わないんだ、俺はそんなことにちっとも頓着したりなんかしない、ああ、そいつはちっとも頓着したりなんかするようなことじゃないのさ、女は男の炎に水をかけるものさ、そうしなければ間違ってしまう事もあるからな…勢いでどこまでも突っ走ってしまって、どうにもならなくなったところで初めて間違えた事に気がついて、頭を抱え込んで動けなくなってしまう―二人がそんなところに陥らないためにお前の言うような言葉が男にブレーキをかけるんだ、俺は幾つもそんな関係を目にしてきたよ…もっともそれは、男の側にいくらかの真剣さがある場合に限っての事だ、そしてもちろん、女の側にも…真剣さとドラマツルギーは決して比例しない、ごらんよ、明りの向こう側に映る俺たちの幾つものいさかい、行き違い…それらは過去として幾年も幾つも堆積したからこそドラマティックな価値を持つものなのさ―だからこそ俺たちは燃え盛る事を許されているんだ―ロミオとジュリエットなんて飛んだ茶番劇だぜ!「だからこそ」彼等は14歳でなければいけなかったんだ、「それが許される歳でなければ」な…おい、ワインを飲もう、今日は祝祭だ、俺たちは囚人どもの祭日のように解き放たれて勝どきを上げるんだ、やったぞ、ついにやったぞ、俺たちはやったんだ―神よ、俺たちを見ろ…これこそが勝者の姿なんだ、俺たちは報われるために生まれてきた、そして、服毒や短剣なんかで決して死んだりなんかしない―そんなことで何かが報われるなんてシェイクスピアだってきっと考えちゃいないぜ…もしかしたら、あれは、そういうたぐいの物語なのかもな…あれを見て涙を流している観客どもを見て、シェイクスピアは腹を抱えて笑いたかったのさ、なあ、そう思わないか―おい、こっちへ来いよ、一緒にワインを飲もうぜ、今日のために用意させといたんだ…どうした、疲れたのか?まあいい、先は長いんだ、のんびりやるさ…おい、どこへ電話をかけているんだ?たいした事じゃないって、今電話しなければいけないような用件なのか?そうか、そんなこともあるんだろうな―なあ、覚えているか、二人で始めて動物園に行った日のこと、お前はあの時ジェラートをろくに食わないうちに地面に落としてさ、そのせいで帰り際までずっと不貞腐れていたんだぜ…そうだ、思い出しただろう―電話は終ったのか?だったらこっちへ来いよ、隣へ腰をかけるんだ、初めてのときみたいにさ…上着を取れ、楽にさせてやろう、なに、構わないって?出かけるって―どこへだ?馬鹿を言うな、俺たちは今日ようやく式を上げる事が出来たんだぞ?どんな用事があるのか知らんがそんなもの今日済ませる必要は決してないはずだ…なに、どうしても出て行こうっていうのか?俺はそんなことを認めはしないぞ、俺がどんな苦労をしてここまで来たと思ってるんだ?俺はそんなことを絶対―おい―ワインに何か―それとも
グラスに…





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