月刊 未詳24

2008年7月第16号

[次ページ]
投稿する
P[ 1/6 ]

雲間
 木立 悟




内に向かって壊れた胸から
水がわずかに滲み出している
うすい陽の声
穴の数の息


草が逆に波打つ
濡れた色になる
夜の風のなか
渇いた音のなか渇きを疑う


布に爪を立てた日に
筆を幾度も折った日に
それとは知らず
雨を呼んだ


髪に額に
目に頬に
見えない滴がひとつ置かれ
微動だにせず
微動している


一度だけ巨きく響くもの
渦まくものの行方
音に揉みしだかれる音
ただ一度だけのもの


忘れ去られ 思い出される
消えるのではなく 重なってゆく
見えないものは鳴りつづけている
見えなくなりつつ 震えはじめる


雨と火と七
ふと閉ざされて
指の影の声
雲間を見ていた


ひとつの葉に話しかけられ
ここまで来たこと ここに居ること
水の点が 道を覆う
目を閉じても 覆いつづける
道が消えても 覆いつづける



















[編集]

11:30
 ミゼット
くうそうのじゅうを
こめかみにあてて
ひきがねをひく

しょうひんらっくの
きてぃちゃんや、なんていったかな
なまえがおもいだせないや、それかはじめていたのにしっているつもり

になっているんだ、しろいいぬのきゃらくたーなんかにみとられて
わたしはそいつらにちをあびせつつ
たおれる

あたまにはちがいっぱいつまっているから
いつかてれびでみたしょけいみたいに
ばったりたおれたあとから
どくどくどくどく
しょうひんらっくのしたにまで
ながれだすわたし

どくどくどくどく
ぴんくやしろ、うすいぶるーのひつぎです
おおきなあたまでまるいからだの
かわいいきゃらくたーがみとってくれます
あいされるためのちみつなけいさんしきでできたかれらは
すこしもないてはくれないけれど
べつにいいんです
ないてほしいわけじゃないから

よごれたきゃらくたーはどうなるんかな
まさかそのままちんれつされつづけるわけでもないやなあ
しんだわたしのははおやなんかにわたされるわけでもないわな
ついでにもやしてくださいこのごみ
ああ!
なんてかわいそう!!
しんだわたしもおもわずなみだ
って、ほんとにどうなるんかなあ、きになる



くうそうのじゅうを
こめかみにあてて
ひきがねをひく

おひるをすぎたら
きっとわすれる


[編集]

雨の街
 丘 光平



わたしらは昨日を探していた

汗ばむわたしらの真上で
風にゆらめく砂漠のように
雲は流れてゆく

にわかに
雨がこぼれてくる
たくさんの昨日がこぼれてくる―


 こわれた傘が
うつ伏せる雨の街

泣きつかれたこどものように
冷たい川が
わたしらを流れてゆく




[編集]

アズ・ティアーズ・ゴー・バイ
 ホロウ



あなたは漂流しながら
私の深い部分を探す
時間は溶けて
忘却のせせらぎへ流れる
忘れたくなんかない
忘れたくなんかないけれど
死にたくない限りは
忘れていくしかない
あなたは指先を伸ばす
難しい道を行こうとする
カタツムリみたいに頼りない指先
あなたは指先を伸ばして、入口に触れるけれど
たどり着く前に諦めてしまう
そのまま、乱暴に
イデオロギーを突っ切ってくれたら
私は馬鹿になってあなたを信じたかもしれない
なんていう暑い夜なのでしょう
意地を張って冷房を止めていると
狂ったように汗があふれる、あなたが見えなくなってしまう、狂ったような
狂ったような汗に蝕まれて
狂ったような汗に蝕まれて
私をどうにでもすることが出来たはずの
束の間の奇跡だったあなた、あなたの指先
二人の間をふらふらと諦める頼りないカタツムリ、私にはすべて判ってしまった
あなたは私が眠るのを待って、新しい夢を見るはず、新しい靴を履くはず、新しい道に出るはず、新しい列車に乗るはず、平行移動の先に未来があるって愚かにも信じてる、ああ、いとしすぎる、いとしすぎるけれど、どこに行くつもりかなんてもう興味もない
私はすでに遠ざかる靴音を聞いている
ぬくもりはまだすぐそこにあるけれど
欲しがる意味が見つけられなくなったならそれはもう過去なのだ
私はすでに遠ざかる靴音を聞いている
それは窓の外を行過ぎる車のように速い、私はきっとそれを信じていながら見たくはないのだ、私はきっと、それを





受け入れていながら
哀しくてしかたがないのだ





[編集]

数滴の物語
 木立 悟





左手をうしろにまわし
羽をこぼし
幸せをのがし
灯りを点ける
命のない明るさが
粉のように甲に降る


長い長い長い夢の
つづきをどこかへ置き忘れている
鉄の隙間に生えた芽が
既に花になっている
雨の次の次の日の
青はどこかよそよそしい


ほんの少しの歪みをともなう
この何もなさはどこへゆくのか
隠れて爪を切りつづける陽を
鳥のさえずりが真似ている
風が風になる前の午後
扉のむこうのまわり道


暗がりを辿る双つの羽に
異なるかたちの光が降りおり
無音をはさんでまたたいている
建物のなかを迷いつづける
淡い傍観者の夢から覚め
光のかたちだけを憶えている


手紙はある 手紙はない
手紙は常にはばたいている
望まれない隔たりの両側
まぶしさの柱に見え隠れしながら
ひもとく指を
何もない器にすべらせて
言葉を色に変えてゆく
















[編集]

そしてシグナルタワー、女子
 しもつき、七

排他的な女の子は空を所持している。
その底のほうには、白くてきれいな宇宙船や、
手垢できたない算数の教科書、軍隊の格好をし
たキューピー人形や、プラスチックのマニキュ
アの瓶が、ざくざくとはめられている。


何百年か前、とても優秀だったパイロットが操
縦するエスカレータで、なだらかに街をくだっ
ていく。ひどく静かな通路には、電気くらげが
点々と吊るされていて明るい。


豆電球がきえるとしんでしまう人たちは、コー
ドのようなものでおぎなえるだけ存在している。
きしょくわるいカラフルな配線を、ふくらはぎ
のコンセントにつないだ男の子が、びしりと両
手をあげて、横断歩道をわたっている。


地下室にあるプラットフォームに漂着する。
回送の電車をぜんぶ、赤くぬりかえる。ペンキ
くさい体で飛び込もうとしたら、どこからかざ
わざわと動物がやってきて、すっかり女の子を
かこんでしまった。(羊のお腹はあったかい。
このふくらんだり、ちぢこまったりする呼吸の
なかには、体温が入っているんだろうか。解剖
したい。)少女っぽい感じのチューンが、発車
ベルのかわりに流れつづけている。



女の子のハイヒールが、かっとう、かっとう、
とないている。皮を剥いた果物みたいなくるぶ
し。



薬品のにおいのするレントゲン室に、三月と六
月をつれてきて、こわれた光のぶんだけ、暗転
させてみたい。どうにか人のかたちをしている
それらの、うつくしいあばら骨。(そのなかで
一番好きなのを、ぬきとって捨てるんだ。持ち
重りのしそうなそれにも、たしかに血液が回る
のかどうか。)


産まれたときから女の子だけど、子宮はまだ欲
しくない。



せまい公園の空に、はいりこめなかった夕方が
ぼたぼたと滴り、飴だまになって降ってくる。
かくれんぼをしていた大人たちが、すべりだい
の階段から、ぶらんこのゆれぎわから、わあっ
、と駆けてきて、いっせいにスカートをひろげ
た。水たま、縦縞、花柄。傘の模様のような布
を観察する女の子だけが、そのなかでやっと一
つ、ハリボテではなかった。


おちてきてしまった人工衛星をひろう。機械に
よって点滅している。ハイテク、とつぶやいて
、女の子はきれいな部分から、解体をはじめた。


[編集]

バニラ
 稲村つぐ


ひとつの会話の合間
それは、海へ行こうという意思だった
高速に合流する
さようならも、ありがとうも
ゴウゴウと内臓を轟くばかりで
メーターが振れるたびに
もう何も言葉にしなくても
良かったような気がしたけれど

車線を変える
半球の向こう側へ
運ばれていく砂遊び、みたいに続いていた
私たちの会話
沈黙のひとつひとつだけが
本当に伝えたい言葉の
内臓を溢れて止まなかった一瞬

次は、バニラ味の
ソフトクリームを食べたいという
私たちの笑顔を
半球の向こう側から
引っ掻いてくる、砂色の遊撃兵
わかっていて
ひとつ白旗を振った
寄せては返す波の合間
さようならも、ありがとうも




[編集]

ユーフォリア
 いとうかなめ
 
 
ユーフォリア
幸せ
乾ききった幸せ
化粧をして
鏡を見る

幸せそうな顔をしている

雨が降る
誰に教わることもなかった
夏の匂いだ
落ち着きはらった蝉が鳴いている
かなしいから

ようやく畑に行く気になって
私はタオルを一枚
背中に入れて向かう
子供たちが蓮の葉で
好きな子の顔を恥ずかしくて隠す

君達よ
君達の手のひらに
なにがある
しあわせがあるか
ふしあわせがあるか
沈黙があるか
均衡があるか

古くからの友人から電話があった
おれさ 結婚することになったよ
ああそうか
手紙 送るよ
わかった おめでとう
じゃあな
うん また


誰かが人間を落花生に例えた
からっぽなのだ
私達の中身は
何をいれようか
悩むことはない

昔から何もなかった
生きていたら勝手に色々詰め込まれていた
正直に言うよ
自分の意識がどこにあったのか知らない
自分の意思で決めてきたことが
いままでどれほどあっただろう
自動的だった
かなしいほど
私は知っている
かなしいなんて嘘さ
忘れていく

ユーフォリア
幸せ
私が決める
君が決める
とめどない花の匂い
雨で濡れている
ユーフォリア
 
 



[編集]

[次ページ]
投稿する
P[ 1/6 ]
[詩人名や作品名で検索出来ます]

月刊 未詳24BN一覧
2007年4月創刊号
2007年5月第2号
2007年6月第3号
2007年7月第4号
2007年8月第5号
2007年9月第6号
2007年10月第7号
2007年11月第8号
2007年12月第9号
2008年1月第10号
2008年2月第11号
2008年3月第12号
2008年4月第13号
2008年5月第14号
2008年6月第15号

pic/北城椿貴


[管理]












[メッセージ検索]


[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]