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 吉田群青
海を見るのは好きだけれど
泳ぐのはあまり好かない
ぬめぬめしたものが絡まりつくし
飲んでしまう海水はいつだって
あまりにのどに塩からすぎる
それなのに夏になると
いつの間にか海に居るのは
夜中になると上がる無数の手や
砕けた貝殻や魚や宇宙
そういったものに呼ばれているためだろうか

何年か前
海水浴へ行った帰りの道で
わたしを含めて二人だけの筈だったのに
後部座席に一人
人が増えていたことがある
それに気づいたのは高速をおりてからで

ねえ一人多くない
と顔を近づけて囁いた相手は
湿って歪んだわたしだった

夕暮れの海に向かって体育座りをして
ともだちの惚気話を聞いていた
そろそろうんざりしてきた頃に
眼前に扉が現れた
ぺらぺらの一枚だけの扉
どこにもつながっていないようだった
ふとともだちが立ち上がり
それを開けて中へ入っていった
入っていって出てこなかった

え と思ってわたしが開けても
そこには眼前の風景があるばかりで
ぱたん と倒れた扉は
波にさらわれていってしまった

それっきりともだちの姿は見ない

でもほんとうに正直なところ
ちょっと いい気味だと思っている

暗い海に胸まで浸かり
火のついた煙草をくわえて
こちらを見ている人がいる
夜はとっぷり更けているようで
その人の顔は見えない
ひとすじの煙が空に立ち昇って
送り火のようでもある
やがてそのひとは何も言わずに
ざぶざぶと沖のほうへ行ってしまう
煙草の先端の火だけが
小さくゆらゆらと進んでいく

そういう夢をよく見るのだけれど
目覚めたあとには必ず
布団に砂がこぼれている
そして
財布を覗くとレシートとレシートの間から
ポケットティッシュを出すとそのパッケージの隙間から
ぱらぱらぱら
砂がこぼれてくる

服を着てポッケットに手を入れてみた
ざん と海水が指先にふれ
いったい海はどこからどこまでつながっているのだろう
わからない
寝転がると溺れてしまうそうだから
ずっと正座してテレビを見ていた
砂嵐は潮騒の音がする


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冬と道
 木立 悟








鳥の声 泡の音
鳥の声 泡の音
水のなかで
鳴いているのか


目をつむり
そこに居るものに会う
半分にし 半分を使い
残り半分が雨になる


わからないものを捨てられず
すぐそばにただ置いている
ひとつの町の名が
すべての雨の名のようにまたたく


鏡を知らない生きものが
鏡の実る樹の陰にいる
雪の原に赤い光が
落ちつづけては消えてゆく


光は人を見るだろう
氷が溶けてしまうまでの
ほんのわずかなあいだだけ
人は虹を見るだろう


すべてが揺れ動いていたためか
風が消えたことに気づかずにいた
風と同じかたちの膜が
夜を鈍く覆っていた


雨すぎる雨 すぎる雨
まばゆいひとりの盗人の唄
汚れた爪を血で洗うのは
常に名もない指たちだった


失われた譜と奏者の夜
ところどころ割れた器の
わずかな響きを呑み干して
光はゆうるりと道をまたぐ
















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Call
 イシダユーリ


犬みたいに舌をだしても
暑さからは逃げられない
あの空にある雲は
外にでていった精子たちの
かたまり 霧散する
なにもはやさない種
ずっとかえらない卵
愛してると何度も歌った
数え切れないくらい
何度も何度も
対称が保たれていると
どうして
あのひとたちは
無邪気に信じてるのだろう
美しいから
うつくしいからね
そうだ
あいしてる
対称が保たれているなら
きみを殺すことは
きみを生かすことと
異なっている
童貞のやつが
かく官能小説が
なによりもすばらしい
という言説が
真っ青な空に描かれていく
それは背骨 軋んでいる

愛してるって
いまもかわらず
歌い続けているけど
ヤったことのない
ヘロインみたいなのかな
コレ タッチミーが
わからなくて タッチ
けど タッチミーナウって
公園 弾遊び 肝試し
みんな 愛してると 一緒
タッチミー
ミミズが 夏に ひからびて
生き物は みんな 暑さから
逃げられない にげられない!
きみを生かすも殺すも
同じことで
すなわち 愛してる タッチミーって
ことで その言説を
無限数の精子が 許さなくても
それとも 許しても
しらない しらない!
わたしは 生き物だから
もう 無邪気に 信じない
きみからは にげられない
戦争のはんたいは平和
白のはんたいは黒
信じない しんじない
メタルのはんたいはパンク
自然のはんたいは人工
雨のはんたいは晴れ
しんじない しんじない
きみから もうにげないから
平和のはんたいは愛だ
平和のはんたいは愛だよ
愛してる
あごが はずれて
よだれが ながれっぱなしになる
うたいつづける
うたいつづける
あいしてる


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お菓子
 吉田群青

半永久的に腐らないもの
なんて
加工して密封された
お菓子しかないのです

だからわたしはお菓子しか食べない
密封された袋を開けると
清涼なくだもののにおいがして
それはおそらく賞味期限として定められた
一年後の今日でも同じことであろう

鮮やかな色に染められたお菓子を
ためらうことなく口へ運ぶ
何かの味がするんだけど
それが何の味だったかは思い出せない
咀嚼し飲み込んで手を伸ばす
その動作を繰り返す

此の頃はなんだか食べてばかりいるから
耳の穴の入り口まで
甘いにおいのするお菓子でいっぱいだ

お菓子では埋められない空洞が
体の中に存在しているのだろうと
うすうす感付いてはいるのだけど
それでも もう どうしようもない
暗い穴は底無しで
いくら詰め込んでも終わりがない

誰かが目の前で
何か言っているんだけれど

全然聞こえないから
曖昧に笑う



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 ゆくりな
 


温かいマグカップに
楽譜が丸まって入っている
誰かが拾ってくれることを待っているのだけれど
あいにく指がついている生き物が
この部屋にはいない

水槽のなかではわたしの彼氏が
いつかはずしたコンタクトレンズを探している
それがないと君を見ることができない、
君を見ることができない、と
今年の流行り曲に乗せて歌っている

背丈よりも大きな窓を開けるけれど
気がつけば誰かがいつも閉めてしまうらしく
酸素が少なくなった部屋で
彼氏の浮気相手が発作を起こして倒れている
ピークは三十分以内なの、
とかわいい顔して冷や汗をかいている

短い前髪が空へ飛んでいってしまって
いつしか鳥の羽になる
といったようなことを
ずっと夢見てきた生活だった
まともにマグカップへ牛乳を入れることさえできなかった
そうして詰め込んだのは初めて書いた曲

ぼやけて光が膨張した世界は
何だか心地が良くて
わたしもコンタクトをはずすことにした
水族館へ行きたいね、行こうねと
水槽に張り付いた彼氏に伝えてみた
魚の鱗は未来の光

鍵盤のうえで指が踊っている
白い小さな部屋に
むりやり入れたグランドピアノは
この部屋の唯一のドアをふさいでいて
出入りするたびに足を傷つけてしまう
浮気相手はそれを見てごめんなさいと泣くような
やさしい女性だった

同じひとりの男を同時に
愛したということに運命を感じて
発作を起こしている最中におっぱいをあげた
長い前髪が乳首に当たるたびに
ピアノの音色が半音上がった
きっと彼は生まれ変わったら人間ね、
と笑ってまもなく
気を失って口から牛乳をこぼした

何だかまぶしかった
すべてのものが白く反射して
だから目を閉じて
指を持った誰かが
楽譜を読んでくれるのを期待して
少し眠ることにした


 


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うた
 いとうかなめ
 
 
いとう のわたしはいつかしぬ

結婚して さとう になってもいつかしぬ

かさぎ から いとう になったおかあさんもきっと

きっとわたしよりも はやく

こどうが おそくなって

ぶらさげた わたしの

ラジオたいそうのカードに ハンコがぜんぶ

埋まるまえの


(
ぶったいになる
あたまにこびりついている
こまかにせんだんされた
なわばり
たいようにほされて
ぞうふのかわきがはやい
)


おかあさん

わたしいつか結婚するよ

結婚してあなたを捨てる

悲しい順にわすれてく

どうしようもなさを 手にいれながら


おかあさん

死んだらきっと かたまりになるね

いとう が いとう じゃなくなるね

昨日かぞくの手紙 燃やしたよ

となりの犬が 吠えてたっけ


おかあさん

朝もやの 葉のうらのしずくに

言いたいことを おいてきた

ひとつになったら こぼれてしまう

台所よりも やさしい

さこつ

死んだら なぞろう

死んだら なぞろうよ



(

きしんだほねのあと
せいじゃく
 
 
 
 


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かみさまについて学んだいくつかのこと
 望月ゆき


1.

かみさまはいるよ、
って 
教えてくれた人は
もうすぐ死んでゆく人だったけど
それは黙っておいた


だって、あいしてるんだ



2.

きのう、かみさまを見かけた
高速道路を流れてくテールランプの中だった
ような気もするし、
公衆便所で流した水の中だった
かもしれない

とにかく
そんなふうに流れてくものの中に



3.

のどあめの中に、ぽつんと
気泡が入りこんでたら
そこんとこにたいてい
かみさまはいるんだ

だからって
口に放りこむ前に
いちいちたしかめたりする必要はない



4.

すべてのひとがしあわせになる
なんてことは
たぶん、ないんだろうね


かみさまだって、居場所くらい
確保しときたいだろう?



5.

かみさまは
容易に虹を渡ったりはしない
行ったり来たりしてるときは
仲直りしたいか、
おしっこしたいか、
どっちかだ



6.

うそをついたこと、知ってるのは
わたしと
あのときたまたま近くを通りかかった
かみさまだけ



7.

「かみさま(が、いるとするなら)!」
「かみさま(が、いるとするなら)!」

って、何度でもおいのりしてごらんよ

かみさまがカッコの中身まで見ていたとして
それが聞き入れられるかどうか
それはかみさまだけ知ってる



8.



星の砂を信じてる人のとなりには
かみさまがいるんだって



9.

ああ、かみさま
あなたになら理解できるだろうか
この世界に拡散する、


声なき叫び、
文字なき手紙、が



10.

だって、あいしてるんだ


そればっかりはかみさまにだってどうにもできない、
ってことがあるってこと
ちゃんと知っているなら
ちゃんと知っているから
だいじょうぶ


かみさまがいても
いなくても







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パレード
 フユナ





あなたがあまりにも大きく樹をゆらしたので
花びらが落ちているのだった
色とりどりのかみふぶきに混じって
潔白な白がくるりまっているのだ
地上ではパレード
美しくなった出会いと別れへの
賞賛と
落ちてくる
祝福もしくは、ノイズ


ねこが
廃屋の前にたたずんでいた
屋根からは桜が生えているようだ
ねこは
犬のような筋肉をした茶トラのねこは
ガラス戸の前にたたずんで
長いことそうしていた


なあ
ねこ
ねこよう
おまえはそんなにも
そこに何を覚えているというのだ
そのちいさな
ちいさな脳みそで、なあ
ねこ


ああ
花びらが落ちているのだった
あなたがあまりにも
大きく樹をゆらしたので
僕とねこという
にひきのちくしょうのうえに
地上ではパレード
に降る祝福、もしくはノイズ


ねこは
野犬のようにたくましい筋肉を持った
ねこは、長いことそうしていて
(僕はとっくに飽きてパレードを見ていたのだが)
ふと
目を上げるとさも当然のようにそこにはおらず
あるのは
賞賛と
祝福、もしくはノイズ

















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