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朝のしくみ
 凪葉
 
 
 つばめ
 
 
薄桃色に染まる
空の遥か
溢れ出したひかりの斜線が
真新しい朝を彩る
ひとつとなって
風にうたう木々の深みへと
含まれていく
 
田舎道に潜む
木製の小さな電信柱からは
さりげなくのばされた細い
電線がひとつ
くたびれて
まるで
なまけもののように
眠たそうな曲線を描いている
 
つばめは、
その曲線の中心に立ち
嘴を真っすぐに
遠い空を見据える瞳で
振り向くこともなく
静止画のような
その なめらかな輪郭で
ゆるやかに佇む朝の
器となっていく
 
 
 
  かえる
 
 
けろり、
夜に消えた雨の気配から
朝に生まれた命の気配へ
おはよう
おはよう
それはまるで
音楽、
のような囁き声で
無差別なすがすがしさを
喉元に孕ませている
 
静かすぎる風が
なだらかに広がる田んぼをやさしく撫でれば
稲の合間の透き通る青を泳ぐ
かえるの、
たおやかな脚線は
波紋となって
広がりはじめた朝を
掻き回しながら
ぐるぐる
掻き回しながら
風に馴染む草木のように
司るものの
ひとつとなっていく
 
 

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森の道から
 ma-ya



森のいりぐちに
おばあちゃんが立っている
ちゃんと
さようならを言うと
チョコレートをいっこ
わたしの手の平に落として
蜻蛉になって 飛んでいった


はじめの一歩は右足からって
5歳の夏に決めて
それは
左足をなくしたからで
ほんとうは
決意なんてなかった けれど
一本足になっても
右足は右足で
ひまわりのように
すっくと立っている


草むらに仰向けになって
呼吸したら
顔も手も
汗だくになって
肌は乾いて
しわくちゃになってしまった
土にしみこんだ汗で
子供たちはぐんぐん育った


影になった木々に切り取られた
ゆうやけが揺れている
とてもやさしく揺れたから
「お母さん」と
呼んでみたけれど
声が掠れて
うまく呼べなくて
はーい、と返事をしたのは
よる の 空


ひまわりはすっかり
花びらを落として
森の中を歩く
たくさんの種が
浮かんでいる泉に
たどり着いて 崩れる

もう生まれるから
だいじょうぶ.


わたしは
森のいりぐちに立つ
いつかこの場所に
孫がくる
ちゃんと
さようならが言えたら
チョコレートをいっこ
あげる

そうしてわたしは
右に傾きながら 飛んでいく






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森の奥で湖が揺れている
 泉ムジ



絡まる草を
ふりほどくように、歩けば
緑に靴が汚され
それは、ちょっと拭ったくらいでは
落ちそうにないから
僕たちは押し黙ったまま
手をつなぐ
枝と枝の間を
突き抜ける光に
照らされる彼女の息は白く
顔を背ける

朽ちかけたボートで
湖面をあざやかに切り裂いていく
静かな波紋が
岸まで滑り、泡立って、乱反射する
聞こえない音に満ちる
湖の中央で
僕たちは互いの靴を洗いあう
そして、靴が乾くまで、と
彼女は僕の膝枕で
眠る
彼女の
足の爪はなんて赤いのだろう
いびつな小指まで
丁寧に赤く塗られている

夕焼け
焼き払う
ふりむけば、ひとり
よるべなくたたずんでいた日の夕焼け
焼き払って
寝息を立てる彼女の首に
手をかけると
ささやかな脈が
抵抗するように速くなる
僕の心音と絡まり、もつれながら
落ちていく
もう
夜だった







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彼と世界の終わりみたいな動物園の終わり
 ヤツヒガタ




流れ星さえも僕を素通りするようになりやがて僕はどーせ一人で死んじまうんだぜ
うふふ
「何もないから」と胸元にナイフを突き刺した殺人犯に嫉妬しながら
寂しさの象徴はウサギだけど
ミミズクだって
ニシキヘビだって
雨蛙だって
オオワシだってジャッカルだってアメフラシだって
セアカゴケグモなんてもっと淋しいはずで
だけど成り行きで飲み干した思案化合物がこんなにも広い部屋に僕を一人住まわせた
心臓を抉りとられたツキノワグマの悲しみを
タンバリンみたいなスズムシは泣く、泣く
せめて休日くらいは晴れ空をください
傘で皆の気色を隠してしまわないで
さながら銃火器のように楽器を携えた軍服達がアナウンス
空間を支配した
きみ、という言葉は誰も指し示しちゃいなくてくるくるとただ
僕はまだ知らないんだ
お願いですから音楽は止めないで
お願いですから音楽は止めないで
今だからこそ全ての言葉に本当の本気で嘘も虚飾もないわそんな顔をしないで
伝えたい思いも残したい言葉もなく先天的に光る機能に異常を抱えたホタルはこの星では住む場を追われた
一晩中でもずっと雪が降り止まない国のことを思う
一晩中でもずっと雪が降り止まない国に住む人のことを思う
お願いですから音楽は止めないで
一人でいることがお決まりの真夜中にだって響き続けるから
フラミンゴは時間がただ過ぎるのを待ち続ける
こんな時間には誰もいないってわかってて携帯電話をいじる手癖の悪さ
誰か腕の経つ医者を紹介してください
体中の穴という穴から明日が落ちていっているから
絶望に効く漢方薬を調合してよ
アマリリスはずっと震えている
くちばしを歪めて笑うカラスは素直じゃないって噂
落下した明日は僕に矢を射るはずだった天使の利き腕をひしゃげ潰した
嘘つきのキツネが描く孤のような月のした
見知らぬ男女がキスをしていることすら
僕はまだ知らない
僕には関連性がない
天井の低い檻のなかでアフリカゾウは叫び続ける
お願いですから音楽は止めないで
歌い続けたカナリアは喉を潰した
逃げて逃げていったい何処へ向かえばいいのか
翼を広げて
いったいどこへ向かうべきなのか
当てのないコウモリはぶらさがってじっとこちらを見ている
誰も話し掛けてくれないで死んだオオカミの死骸をまたいで中に何もない檻の前に立って
少し考えてから中に入って鍵をかけ
一晩中でもずっと雪が降り止まない国のことを思う
僕はまだ知らないんだ
淋しさと対となる言葉
僕はまだ知らないんだ


これがセバスチャンの考えていた大体のこと
破裂して死ぬ間際から死んでからの五秒間考えていた大体のこと





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楠の傍らに君が眠る
 藤本哲明




ぼくたち、はあまりに眠ってばかりだ/った眠りながら朝食 をたべ 眠りながら家 をでて 眠りながら歩き続け/ている 

     「常に眠っていれば疲れることを知らずにすむ。」と云いだしたのはぼくのほうだ/ったからきみには何の責任 も ない普段なら そんな怠惰をきみは許さないだろう に きみがぼくに同調し/たのはぼくたち、が
     
     もう二人で何かを生み出すことに疲れ果ててい たから/で 眠りながら 先へさきへと急 ぐぼくはきみ が「眠りながら眠りにつきたい。」と云ったとき何も思わなかったそれも当然、の
      
     ことだと首 肯したのだったきみ は大きな楠に凭れて眠り の中の眠りにつき おやすみということば がぼくときみのあいだで初めて交わさ、れ
 

(ぼくたち、にとっては眠っていることなど当たり前すぎてあらためて 眠りの挨拶などする必要はなかったの/だ。)

ぼくは独りで眠りながら変わらず歩き続けてい た が独りで眠る行為 は味がよくわからないそ してこの冬が来たのを契機に起きてしまっ た(ぼく/は た だ起きて顔をあらい歯をみがいたりもすることからはじまる生 活 をはじめ) 

眠り、の中できみとは二重に隔てられ楠の傍らに行ってみてもきみの世界に通ずる手だてがなにひとつないことを知りそれ、以来ぼくは一度足りとも眠らずに過ごしつづけている






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夏草のオーガズム
 ピクルス
 
囁く水の招きに
おとなしくなってゆく
たのしい夢をみて
かなしい夢もみて
ちっとも貧しくならないから
誰にも聞こえないように小さな声で
誰にも聞かれないように大きな声で

蜂蜜みたいに三日月
バナナボート揺られて
次第に淡くなってゆく
いやしいカラダは小さくて
さよなら
とは云えずに
ただ頷いていた
遠ざかってゆく夏も
近づいてくる夏も
静かに静かにしているよ
くるしめた言葉は
花を添えて無人島に埋めよう
晴れた日に
風は吹いて
その
強い強い風に
くらくらしながら
電信柱にもたれてる

たくさんたくさんたくさんの
影踏みをして
狂ったように
ぴょんぴょん跳ねて
わずらってはいない
ピアノのトリルが流れて
深海のような空に漂う
もう言葉は風でしかない
喘ぎながら繰り返そうとする
隙間を埋める声ではなく

またねまたね
転びそうになりながら
走ってゆく
懐かしい顔は
何処にもないから捜さない
僕等は欠伸ばかりで
なかよく座って
僕等は胸を焦がしながら歌った
いつまでもいつまでも歌った


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フィルム
 ルイーノ
 
 
 
遥か
眼底に泳ぐシャドウ

最後の日差し
葉脈を透かせて
一人
また一人
輝くほど
立ち去りゆく軌跡よ

蝉の見た夢は壮絶

積雲の中に
隠した秘密は
行き先知れずの
通り雨に佇み
その扉への
懇願を目撃した

語らざる風景を
きみの背中へと
焼き付けたのは

この夏

遥か
眼底を泳ぐフォルム

しなやかな海洋の歌
未だ幾千に光る
黄昏の岬の風に

僕は

忘れ得ぬ
一瞬を切り取った
 
 



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