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冷感
 及川三貴


おねがいゆっくりしゃべってはやくちのなかにきえてゆくいしにまきついたあなたのほそながいくびおねがいわからないようにいいかえてしりたくないあなたのしずかすぎるといきおねがいがなりたててちからとねつからにげられるものなどないからあなたがそれをかみくだいてほんやくするのきくことさびしげなうつむきかんしょうがとてもよくにあうおねがいゆっくりうごいてはなしたそらでおなかをだいて




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 桃弾
 

しととしとと
雨の降りよう夕には
いつも
目をあけてぱくぱくと息をとめてみます

あなたに
わたしに
バスを待つひとに
まっすぐに同じだけ降る雨がゆるやかに模ってゆく
傘をもたないわたしのあいまいな輪郭
それから波紋

とけてしまえたらいいのに、ね

息の白いお嬢さんがゆきちがいます
むこうにはゆらゆらと漂う魚がいるばかりで
しあわせな彼女の語尾も傘の下きらきらと
とけてゆくことです

わたしは歩く
足裏にまとわりつくアスファルト
じゃりじゃりとした重たさにこころもとなく
髪の毛から背中につたわる雨つぶはぬるくて
ますますのあいまいなわたしの輪郭をつれてゆくのでしょう

ほら
見上げたら昇ってゆけるかもしれない
ゆきつく先の雨ぐも

わたしがいつか海になれたら
そしたら、
そうしたらぜんぶ昔のはなし

それまでは濡れる

雨が降りようです
わたしたちを
明滅をはじめたネオンを
やわらかに萌えるくちなしを
まっすぐにびょうどうにぼやかしてゆきます

電線からしたたり
灰碧にしずむ街にゆきかう車は波の音でささやき
ビルの下とりどりに開かれる傘は水月にすがたをかえて
わたしはまた
ぱくぱくと息をとめてみるのです


 


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昏睡。
 ちよこ
 

ずん、と胸の奥の方、手を当てて泳いでみて下さい。白い息をゆっくり呑み込んでゆけば、ほら。

少しぼやける右目のあたり、走馬灯のように、海のおと。憧れの向こう、指先から唇の色、いつくしむ唄。唄った声の持ち主を知る僅かな星の砂は、波音にさらわれてちらちらと光るばかりです。とても愛しい、見知らぬ貴方。

左目は確かに聴こえるので、遠くに耳を澄ましてみます。すると悲しい顔した船舶が、瑠璃の手紙を運んできます。影法師を滑らせた空が曇りだし、沢山の雨音に私の海、は千切れてゆきました。溢れて、ゆくのです。

碧色の世界が転落して、私の瞼は思い出したようです。湿った睫毛のビロード。最後の海を拭う指。

貴方、やっと出逢えましたね。





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17
 漆子
 
空腹自体を如何にでも接がして
耄碌事態を如何にでもして

反社会的で居たい魚を水槽から救助して黙らせる
繋いで痛い指の先は滲む階級に湿らせて滑る

「ねえ、先生」

配膳は刺繍しゆく鏡像を映写
改善と尋常を抜けさらう後者
安全は心中しゆく面目の会社
感染と離脱を冴えさせる傾斜

日常を辞退したなら如何するか
愛情の死体を如何するか

定刻を気に為さる貴方に最早質感は無いかのよう
追い返された記憶の何処へ悪意を潰すだろう

「ねえ、先生」

明確な行方に神のような追求
享受の座標を掲げ憚らぬ投球
幸福な救いに鬼のような迷宮
相似の同情を求め肖らぬ永久

 


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カナリヤの唄
 嘉納紺


香ばしい回顧と既視感

るらびい
るらびい

籠に鳴くあれは金糸鳥

木漏れ日と揺り椅子
唄と交わりの倦怠を

緩慢な速度で空の繰る
まばたきに映るヴィジョン
またその幻燈風シロファン色
透かされる間に夜が飽きて笑う

雨音に目覚め深更ひとり
寝台に埋もれ髪掴み唸る

獣の躯

過去は嵐と渦巻いて
脳に胸に鼓動に吹き荒み
打ち付けらる性の一瞬よ我
凍った薄荷飴すかさず溶ける
その香ばしい受動的な回顧よ己

るらびい
るらびい
るらびい

籠に泣くあれは鸚鵡

上等な声なぞ無かろうに
空腹から徒に只管に
泣いて泣いて居りましょう

木漏れ日の夢に色は褐色
雨音に凍てついた寝台色

目覚めてひとり夜やと吠える

夜や我はひとりか
夜や己は何処か

るらびい

半透明の原色に惑う
獣の耳に欲す子守唄

るらびい


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メルヘン
 ルイーノ
 
 
 
鉛筆で
塗り潰したような空

気遅れに
水面は息を呑む

時計台しめやか
一斉に芽を吹いた
羅列の木々に覆われ

これは君の井戸
これは私の井戸
寒気の午睡してる穴

逆さまに映るものは何

音を集める青い苔
縄梯子が
息荒く求愛する日暮れ

重油と熔金の交わりが
野の草花をへし折る
魅せられた樹言の譜
痙攣を呼べ
網膜はその激しさに
指先は風の体積を

君はどこの子供ですか
そして
どこから来たのですか

これは
星光に貫かれたメルヘン
 
 



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フランクドリンクブリンク
 ピクルス
 
きたないってなんだ
どれだってドングリは綺麗だろう
さよなら、かいじゅうたちよ
もしも水が澄んだなら何を映しているか
きっとわかる
両の掌を合わせたらスキマが出来るよ
そこが、すき
耐えられない距離はない
それが計れるうちは

ルッキンスルー、いくらしくじっても
くちばしの色が幼ければ許される
用意された、あったかいミルクを飲めば
なにひとつなかったことになるさ
シェスタ、シェスタ、シェスタ
いつも眠っていたいんだ
あんたはオイラのようにはなるな

いつか浴室でバスタオルを広げて
眼を伏せた君を喚んだ
つぐみは鳴かなくなって久しいが
相変わらず銀流しのオイラは
すいっちょん
バナナチップス放り投げては
引力の不思議について考える

階段は昇るより降りる方が難しい
椅子に座ったらギィギィ鳴いた、うれしげに
壁に描かれた枯れ木の絵に
今夜は実が成ってるように見えたなら
そいつは全部、青い鳥だ
散るように一斉に、はばたく時こそ目覚めだと識る
じきに朝なんだ落胆するな
未だ知らない夜明けに生まれるその最初の声を聞きたくて
だから遅くまで起きている
 
 


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