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ワールドワイドアンダーグラウンド
 及川三貴


食卓にたくさんの料理が並べられ
椅子に寄り掛かる西日 影が
使われないスプーンを
飲み込んでゆく 徐々に

喉に掠れた謀略で
口の乾き 四本の
足が震える真下では
飢に追い立てられた
子供達が笑う
見開いた目で歌い始める
私たちの饒舌な会話の奥で
燻り続ける青い炎 
遠い 近付く事なんて
出来ない程に
遠い 土のことを話す
君の皮膚が
萎れては波を発している
そこは太陽がなくて
何かを燃やさなければ
光が広がらない
世界を覆い尽くすのは
いつも 暗闇と歌声で
頬を歪ませながら
テーブルの下で
子供達の手を探り
ついに 触れる

凍えてゆく無邪気な
私たちの青い炎

口を拭う仕草の後で
手を引かれた
子供たちが
指を指す

みて
あれが
無垢を乗り越え
やってくる
力と熱の津波だ






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village
 5or6


無垢な森があるとしたら
それは無償の心欲を覆う
霧の中にあるのかもしれない

ただ前を進み
蒸発を誘った心が
後日を促すように
空ろに重なる
そっと老木に手を添えて
木漏れ日だけを頼るようなまなざしで
部屋に残された
あなたの羅針盤を眺めた

方角に身を任すように
目を閉じる
秘密を隠す穴が映る
小さく息をかけて
あなたがよく口にした声を呟く

直接的に繋がりたいのなら
どうしたらいい
揺れているのか

湿った空気と裏腹に
乾いた唇を舐めて
深い緑の言葉を止めた

軽く虹鱒が跳ねた音
胸に落ちて滲んで一人
肉体の影が途切れて結び
鏡を覗く私が映る
清涼の森に
耳を澄ましているような
私が映る

ざわめきが胸から溢れ出し
手を伸ばす
私は目を開き
忘れられないような悲しい角度で
羅針盤の裏を見て
笑った

記憶が蘇る
あなたと別れた時の記憶が
そのことを
知っていたように
羅針盤の裏に書かれてあった
あなたの文字

向う ヴィレッジ

あなたは知っていた

知っていた





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花見
 島野律子

暗い空になって道の上の枝が厚く花をつける。夜の上のほうをうっすらと見つめながら道を横切って、白いライトの下にはまるかわいていく空まで肩をこすって近寄っていく。電線が途切れないように支えている夜を囲む高い壁はざらざらの色にまぶされておいしそうだ。前の冬の切り跡からこぼれている音もありそうな溝に、はまりかけている靴からまだ足は遠くない。暖かい場所をさがして服の影に手のひらを押し入れ血は戻る血は戻ると声を出している。





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ココア
 凪葉
 
 
香る温もりにやわらかく
解けていくような
感覚を抱いたまま
口に運ぶ度に生まれる
コップの中の
小さな断層の数だけ
伝えたい言葉があるとしたなら
わたしはいくつあなたに
伝えることができるのだろうか、
そんなことばかりを
溜息とともに小さな部屋の中に
ゆっくりとこぼしながら
またひとつ生まれた断層を
見つめてしまう
ゆるやかな時間の中に
いっそ、
埋もれてしまえたならと
甘すぎる幻想をくゆらせている、夜
冷たい窓を少しだけ開けて
まばらな星粒を仰いだまま
勢いよく吐き出した息が
熱を失い、
真っ暗な闇の中へと
ぼやけて消えてしまうのを
見つめている
意味のない遊びを
もうずっと、
子供の頃からやっていることに気づいて
わたしは、
わたしが思う程には変わっていないのかと
一時の追憶に胸が震えては
カタカタと震えはじめたやかんを
そっと手に取り
またひとつ生まれた断層を
消すように作った新しいココアの
先の見えない深みに
ゆられている 
 

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心音
 嘉納紺


揺るがせた微酔 の軋み
指を泳がせ 廻る

反重力の空の軌道
落ちてゆく頬に

円かになる青の嘆息
夢を見るなら窓辺で

満ち寄せた気配 の温み
身を捩じらせ 孵化

浮遊感の鼓動鳴らす
澄んだ血を見上げ

青の息吹
青の逆流

目覚めるなら回帰して




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小さな町から
 道

また明日


明後日には
私、どこかでしょうから


消えかかる虹を掬いに行ったの
どうか覚えていてください


湖面は、きらめいてゆれます
こと、今夕にかけては


雨が風をつくり髪を打つ
滴は
滴は街の隙を満たして
とぷとぷ
川になりました


人たちの踊る声
深くにぶつかり
あざやかな震えが手に浮かぶ

水はね、いくつも落下して花を咲かせました
重さをなくして、かさなる輪になりました


小さな理由で体がどこかへ行ったときから
不意に見つけた住み処です
何方がいらして顧みずとも
私には
消えようのない香りが
今でもそこへあるようで
ただ懐かしく


泡がぱちぱち鳴って
唇へのぼろうとしてる

既に深くのみこんだ喉で
溺れようもありません
どんなに澄んだ水底も
君のよう、と


まっすぐ歩いて行ったって
理解しない理解しないから
涙吐く両目は拭ってくれなくていい

悲しい悲しいから
結びつけてしまう紐を
好きな形に括れなくてもいい


私が君の夢なら
遠くへだって行かせられる

いつでも
今すぐにでも



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カナブン
 如月


「あ、カナブンが死んでるね」

夏に冷たく落とされた、
ひだまりのとなりで
もう、動かなくなったカナブンを見つけて、
君があまりにも淋しそうに言うものだから
命には限りがあるもんさ、と
ありきたりな事を言うと
君は背中を丸くして、
動かなくなったカナブンを見つめていた

例えば、
この手を繋いだ先で
小さく笑う君がいて
その後ろには、
大きく突き抜ける空が広がって
木々がささやかに揺れていて
木の葉がくたびれて紅く燃やされ
季節にそっと背中をおされ、
僕らは長袖を着て
君と小さな手を繋ぐ

そうしているうちに、
いつのまにか
僕の背中は
小さく丸くなって
くたびれた僕も燃やされて、
長袖を着た君の、
手を繋いでいるその先で、
きっと、
新しく産まれた君が
大きく、
笑っているだろう

夕日はいつも傾いて
足音も立てずに去っていく、
無数の影の先端で
しがみついている僕は君に
やっぱり、
ありきたりな事しか言えないものだから

君はまた
小さく背中を丸めて
もう、
動かなくなったカナブンを寂しそうに
見つめるのだろうね



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 ちよこ


ゆらめいている。私はひとひら、名は知らぬ。貴方の寝息が私を与える。幾千の月。たとえば薔薇の鋭角をなぞるように、消えてゆきたいのです。正午の星。貴方がページをめくる重なりはどうでしょう。散るばかり、音色。鳴るは刻むこと。うたたねの中に取り残されたのはだれ。まるで蛍のしるし。貴方が目覚めるころ。ひとつだけ音を残してゆくこと。何色でもいいけれど、形はいらないわ。針先の和音。和紙のメロディーが、一番あなたに似ています。飽和状態の切断。ながれゆく25時間。貴方の羽が孵るころ。

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