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夜と歩み
 木立 悟





隙間のうたが家をなぞる
屋根を除き暗く浮かぶ
金と緑 水と水
互いを招く 打ち寄せる


棄てられた庭
蔓が壁に描く大木
雨の音 波の音
色の音 鎮む音


遠のく先に遠くは無く
双つの鏡の会話のみがあり
夜はほんとうの夜を歩み
建物を少しだけ低くする


雨の光が羽になり
窓を下から喰んでゆく
ところどころ欠けたうた
さまようものにまたたく冠


羽が羽に乗り左右を打つ
わかりやすいものばかりが列を為す
日々のしるし 押し花の陰
音とも文字ともつかぬはばたき


染が染に重なりゆく
均しても均しても溝はある
誰にも分からぬ言葉の色が
空へ空へ到きゆくさま


暗がりを馳せ
布が壁を擦り
声と声を発つ
粗い光の頬をゆく


手の甲が縦の炎に
まなじりを縫い まなじりを解く
ねずみ色の夜の背が
夜を運び 夜を鳴らす




















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まぶた
 稲村つぐ



遅刻した私の頬を
小さくつねってくる
ねむい
道路がうるさくて
「おはよう」をただの白い息へと逃した
まぶたは、まだ温かく湿っている

大きな都市で、
会議室で、通勤列車で、どこかの部屋で、吉野家でも
ねむい
不発の花火には
地に眠る運命を選択する余地はなく
いつも空で、
ねむい
目覚ましのアラーム音が
満足そうに、それを見張っている

ハキハキしている人を見ると
かなしい
不透明な死へ、という
せっかくの安心で誰とも平等な
私の命を、掻き乱される気がする

その人を殺せない
その人を、私の暗闇では決して殺せない
アラーム音の一振りならば、しかし
とても使いこなせたものではない

明かりを消した自宅で
ひとり
閉じたばかりの、まぶたの裏を
緩やかなカーブのスロウモーション
声が聞こえて
ねむれなかった
呼び止めるでもなく
ハキハキと、大勢しゃべっていて
光になり
いよいよ花火など上がって

いま手持ちの冬と、
まぶたにある冬とにも
地球の裏側ではあるまいし
そう違いはないから
これは冬の花火
あの夏に見た、冬の花火
ねむれない
会っているときは、ねむかったりするのに
小さな誕生石のピアスが
花火祭りの中でも、とてもきれいで
やはり、とても小さかった




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おもいでの果実
 腰越広茂

顔をあらうが
おとし切れない
このゆううつなまなざしはどこから来るのか
気象電波探知機はしんみりと
雲ゆきを映す
私を通りすぎて行ったはずの

宙は 青ざめ照りつける日にたちつくす。
恐らく
ひんやりと零れる 微笑にひかれているのだ
ろう
とてもかたい 孤独な影のように
あおぐろくねむるすべやかな小石の深淵に
限界があるとしたら
たどりつけない素足のそれは
あわいみなしごの涙の果て
熟れた石榴石を背にする
ともしび

歩むしかない
私は
解析されない 雲路の先の
光さえとどかない淵に深く根をおろし
うっすらとさしこむそよぐ朝の約束を

果たすべく遠いおもかげの種である
おとし切れないゆううつなまなざしを宙が
(歩み始め)ところどころにおとしてゆき
つくことなくゆきゆく
のびる影を抱く光景の
罪深い清流を秘めた素顔

きれいごとをいうつもりはないけれど
空中に咲く花はそれだけで奇跡だ
ただそれがそれのみでは成りたたない
しかし
私さえも ちかいうちに実る
ひとしれず
はだのふれあうひかりへ、そっと



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ささめ さざめき
 木立 悟








きんいろを通り
きんいろになる
ずっと ずっと
鳴っている



遠くのような
近くから来る
生は治る
生は響く


雨が雨をすぎるとき
滴に残る
影踏みの息


弱くつむれば緑
強くつむれば黒
いつか黒しか
見えなくなるのか


影より疾く
鈍く白く
背景もなく
駆けゆくもの


ひとつ泣き
ひとつ澄む
脱いだころも たたみ たたみ
次の季節へ敷いてゆく


雨およぐ光
飛び越える片目
さざめきは香る
香りに還る

























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冬のローズ
 丘 光平


思いだせないでいる
初めてあおいだ空のことを
いろんな空のもとで
うつむくことを覚えたから


夜ふけに
夢にうなされた花のつぼみが
ねむりつけぬまま
朝をまちわびるように


とどけられた
この名もなき叫びは
生まれてまもない星のものか
それとも
ながれてゆく星のものか


 しずかな発熱のように
みあげた冬の空
ひとつにむすぶあなたの灯し火を
ローズと名づけた




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偏在や躁暴
 クマクマ


手に届く場所にあること。化石は青かった。この皿に、ワタシハ上ト下ヲカキワケテ。
新しい宗教が生まれる度、医学書に項目を加える夢。それでも、裂傷は点を結んで、形をととのえる。ノゾク。沓と傘を。
狩りを終えた鳥の、語彙の豊かさは例えようもない。コンナニツイデ、ハネテ、誰を誘うつもりですか。めかし込んで、夜会に出かける。
潔癖症。歴史はいたみの碑文だから、くしゃくしゃな色紙に恋人たちがはさまっていても、おかしくない。花も、完成したたべもの。のっとって、同生同迷。
何の真似ですか。二重三重のあまりものがこぼれる。対流や喰い違いのあわいで、知れずにざわめいているしぶき。
クレッシェンド。あなたのぶどうをたくわえていくのだから、銹びも育つ。敗北主義と云うなかれ。財布をはたいて見せる癖は、治した方がいい。
容れものをしているから、扉がある悪。触れてはいけない。擬装も武装の一つ。
偏在や躁暴。風と語るように、口に含んだ分銅を雑巾で拭うように、節々でおののきながら、会心の一撃に待機して。莫迦なお歴々。解釈の仕方は、理に適っているだけでも。



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 calorie
 鈴木
 
 何
 語で神
 と話そう
 流行歌(あふれる愛を君に)のなか
 憎らしい甘みでなければならない
 なんて一口目と十三口目の違い
 肉じゃがは噛むほどに叫喚へ放り
 (捧げよう
  あたらしいセカイでふたり)
 陶然と眼差し
 を交し合う右斜め前方の五人組
 (かなでるのさ
  ぼくらの未来)
 最も高い
 鼻の女子の反吐をなめた
 (あのころと いっしょだよ)
 ぷにゅろれぁ
 とした臭み
 暖房の切り立った青み
 きりもみ状態にて地下を滑空するほどに
 (枯れない花に なるんだよ)
 アパートの入り口に咲いていた養分の養分と化し
 (ずっとずっと エイエンに)
 そこはかとなくTrocken女の襲来
 炎のイマゴロジ
 ねんごろなるやうなりけり
 (間奏)
 つまり流行歌ね
 妖精の残り香じみて

 no,yes
 tu ne sais pas purquoi elle a refuse ta proposition
 is more aptly described as daydreaming
 nous avons vide dix bouteilles de vin a cinq
 whether you treat it as a musical or as a semantical problem
 grand cru Riesling
 corora ida harfind ikinisimo ikinisam
 je ne comprends pas ce que tu veux dire
 the sun le soleil die Sonne geht unter
 le point final nainara 詩 geht しない

 希望を胸に
 (彼女は唇を土色に震わせて)
 生きているんだ
 (豚汁一色の大脳よ)
 さあ
 (誠実を禁じられた詩人ら共々)
 笑って駆け出そう

 あふれる愛を君に捧げよう
 あたらしいセカイでふたり
 かなでるのさ 僕らの未来
 あのころと いっしょだよ
 枯れない花に なるんだよ
 ずっとずっと エイエンに

 (鶴のような仕草だけで八百万を朗読するには百合をなんて呼べばいいかしら踏みにじった後のあのbroken whiteを僕は今も君の肌に移し変えることができない透き通った涙を括弧から奪い去るのに必要なareが幾億に達する)


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風葬
 凪葉
 
 
散らばる枯れ葉の、散る、
静寂と乾いた、風に締めつけられるからだごと
棄ててしまえば今、ひとつの、はじまりだと、
 
芽吹いていく記憶、瞳を失い目を閉じた日の、感触に侵されていく指の、痛みを忘れていく痛みの、記憶、花ひらき芽吹いていく記憶の、感覚、だけがいまだ絡みついたまま、纏わりつき、
 
舞う、風にえぐられる、音、砕けていく枯れ葉のか細い
聴覚、だけを置き去りに、
握りしめていた左手を放ち、風の、ひとしきりさざめく枯れ葉に確かめられる風の、音、と、
か細い、ささくれた指先を包み込む葉の、
 
声、を、見つけては棄て、去り
またひとつ風にきえていく、夢のようなゆめ
溢れかえるものの多さに潰されて、しまう、掬いきれないものの重さ、
に、覚えていく、生まれたての痛み、死んでいく痛み、くりかえされていく夢のようなゆめすべて、に括られるすべて
きえていく風にきえていく、風に、のこされたひとつの、舞う、枯れ葉に落ちる、
言葉、だけを抱きしめて今、ひとつの終わりなのだと、
握りしめていた右手を放ち、またひとつ、
はじまりを棄てていく
 
 


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