投稿する
[前ページ] [次ページ]
melt
5or6
汚れた心も許してくれる気持ちが包めば溶けていく
忘れられない後から
忘れたい跡へと変わっても
その色が変わっても
肌は温かいままだから
僕は全てを許容する
気にしなくてもいいよ
あなたがたとえ人魚でも
その肌は温かいまま
額にあてがう手のひら
あの時の体を思い出して
溶けなかった流氷の過ちが
次第に水晶体の海に混じり
渦を巻いた許しを懇願する頬に
鱗のような涙が流れる
肩に預けた頬から
涙が流れていく
あなたが優しかったから
ほんの少し寄り添っただけだよ
あなたが笑ったから
ほんの少し笑い返したんだ
左目からしか流れない涙が
あなたの体に落ちていく
そのまま落ちて
いってもいいから
そのままでいいから
時計の針が止まるのを願った
あと十分
だけ
あなたが溶けていく
やわらかく
溶けていく
すこやかな海原に泡となって
あなたの着ていた服が
浮かぶ
そして僕の心に
あなたに伝えたかった気持ちだけが
残った
[編集]
くまさん。
凪葉
夕食の前息子が、居間で困ったような顔をしながら床に寝転がっていた。
僕は、何を始めるのやらと思いながら、しばらくの間じっと動かずにしている息子を眺めていた、
が、
息子はなかなか動かない。
なにかあったのかと思い、どうしたのか息子に尋ねてみると、
息子は寝転がったままの状態でこちらを向き、明日の遠足の予行練習をしているのだと言った。
僕はますますわからなくなり、一体遠足では何をするのか、変わらず床に寝転がったままの息子にまた尋ねてみた。
すると息子は、ほんの僅かこちらのほうに首を上げて
「くまさんが出てきた時のたいさくなの」と誇らしげに答える。
なるほど。
またずいぶんと古い情報を、一体どこで聞いてきたのやら。
顔の表情について尋ねると、息子は先ほどやっていた困ったような顔をさらに強めて、
「これはごめんなさいの顔なの」と、言いずらそうに言い、続けて、
「くまさん、これでどっか行くんだよね。」と、嬉しそうに言ってきた。
僕は、そんな嬉しそうな息子に、なんと言えばいいのかわからず、
実にくまった!
と、一瞬言葉を失ってしまい、迷ったあげく、
結局正反対の目をつむるという、意味のないことに拍車をかける提案をしてしまった。
息子はその通り目をつむり、これで大丈夫だよね、これで大丈夫だよね、と、先程よりもやや嬉しそうにしている。
これはくまったことになったな、
と、
そこへ、
台所で一部始終を見ていたであろう妻が料理をテーブルの上に起き、目をつむり寝転がっている息子の両脇を掴み持ち上げた。
そして、おてて洗ってご飯にしようね、と、妻に言われた息子は、小走りで手を洗いにいった。
それを見送った後妻がこちらをむいて、
「じゃあ今度山でくまと出会ったら、あなたは寝転がっていてね。わたしたちはその間に逃げますから」
と、本気のようなトーンでさらりと言ってきたので、
僕は、これまたくまった!
と、
目の前に居ながら聞こえないふりをして、夕食の匂いを確かめてから、手を洗いに息子の後を追いかけた。
[編集]
時計の無い街
及川三貴
これはあなたの息
匂う糊 舌で封した
透ける封筒に夕暮れ
誰もいない堤防沿いの
机の下で凍える紙
打ち捨てられた 仄暗い
空白が罫線を飲み込む
宙を踊る文字は
部屋を横切る記憶たちが
引く車 色褪せた膝掛けに
飛沫を彩って 見えない
窓の外で崩れ落ちる
細い腕の想像を唄う
熱に浮かされた軸
震える唇 力のこもった
溝の跡 描き始める鉛筆の
細く削られた先
透明な手紙
なゆた と記す 有限
指を暖めて硬い角を探る
午後の時報から
零れ落ちる
これはあなたの息
遠い場所 時計の無い
あなたの街
[編集]
1, 2, 3, 4, 5
嘉納紺
ママへの憧れがミルクの匂いで
涙溢れて膣の温もりに頬擦り
そのまま夢みたいな即興を歌っててよ
ふわふわ飛んでってしまうよな
儀式めいた夕暮れの歌を聞かせて
鼻歌がアップテンポになったら捕まえる
昔ベッドで読んでくれた絵本は枕の下
繰り返した昨日に左の空が見える
慰め方も知らない少年になって
囁かれた橙のストイックを貫いてみたいね
何処か遠い国の街角マジシャンだ
お前を箱に詰めてそっと逃がしてみよう
鳩になって帰ってくるゆらゆら
約束を交わした選んだカードは帽子の中
一人っきりの拍手を聞かせて
冷たい火に焦がされて失速しても
まだママの匂いがする
最後は五拍子で
悪い事なら沢山したから
もう飛んでいってもいいか
[編集]
貴方。
ちよこ
君が僕を見て、僕が君を見て、震えた繊維のような空気を。そっと、僕だけの。空間の鮮やかさ。3グラム先の君が、3秒を数える私が、小枝の距離で揺らすように一歩、一歩。頬は染まっているでしょうか?
ぽつんと、降ってきた、君の口元から。もう一度確かめて、それから微笑んで、伝ってゆく。君の胸のあたり、少し痛くて、始まりのように真白い、冷気を撫でる、ウェーブの。隔てる霧を、近づくほどに暖かい蜃気楼を、水滴を纏う硝子窓から見つめること。君の軌跡に沿う、仕草を。
描かれた声を、ゆっくりと映し出す瞼を飲み込んで、力を込めた人指し指の先。
[編集]
ビィビィ
ピクルス
ビィビィは恵まれない
派手な化粧して
男の腕にぶらさがる
似合わないって云ったら
さみしそうに笑った
図書館の階段に腰掛けて
踊り場が好きなの
と俯く溜息
木枯しとコートと小説
鹿のような眼差しで
スカートの裾をはたいた
プリーツ、フレア
廻る事で真ん中を探す
雲雀、雲雀よ
ビィビィは歌う
少し数えて指を折る
たくさん数えて手を振る
顔をしかめたのは
おろしたてのブーツが少し痛いからでしょう
白い首には
タートルネックがよく似合う
うれしそうに紙幣をひらひらさせながら
あっ
というまに鈴鳴らす
あんまり真剣に話すから
うっかり手を繋いでしまって
今度はその手を離すと
やるやらない
と呻く君の心臓は
とくんとくん動いてるよ
不死の怪物は
もう居ない
きみがコドモみたいに
すやすや眠れるなら
ずっとずっと物語をきかせてあげよう
白い貝殻の流線型
角砂糖とブランデー
幼い頬はチェリーレッド
ビィビィは微熱の夜に
脇腹をくすぐったくさせる
柔らかく結晶してゆく
ずっとほしかった林檎の薫り
私、いいこ?
そう
とても
くれないは新しくつのる
光るハモニカはぬれている
[編集]
透明人間を愛した女のブルース
ルイーノ
西暦3000年には
あたしたちを知る者は
誰もなく
すべての夢は色褪せる
それなら
一秒も惜しんで抱いて
愛しのレプリカント
光線の中で肉体
瞬きにも似た儚さ
馬鹿げた
退屈と倦怠で縛られ
馬鹿げた
砂時計のよう無為に
私の欲しい物は
新しいファック
身を貫く
素晴らしい心の触れ合い
より心乱れる
素晴らしい性器の接触
それだってあたしは
賛成しない
なんだってあたしは
賛成しないだろう
こんなに寒くしてるのに
ねえ
愛しのレプリカント
振られるってのも嫌いじゃないの
振られるってのも嫌いじゃないの
[編集]
[*前] [次#]
投稿する
P[ 5/5 ]
[戻る]
[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]