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 木立 悟






海のにおいの雨
さかしまと笑み
風を赦す


告げるものなく
歴史を失う
黒く 短い道


雪に埋もれた野の向こう
雨がひとつ膝をつく
さかいめ ちぎり絵
きっと結んだ
汽笛のくちもとをほぐしゆく


記す度に霧は濃く
紙のはざまの夜を埋める
交わるままの火の絵筆
窓をつなぎ灯をつなぐ


いつわりの目
片方つむる子
風を噛み
風をゆく


さやさやとさやさやと
水のなかの鏡に
触れようとして手を切り
さやさやとさやさやと
鏡のなかの頬は暮れる


おぼろな冬のふちどりに
うたわない穂がうたうとき
子はもう片方の目をつむり
ほんとうを静かに泳がせる


























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ぼくはねむっていた
 丘 光平


ぼくはねむっていた
ゆれる夜の列車で
一杯の水のようにねむっていた

とちゅうの駅で
しらないだれかが降りていった
しらないだれかが乗りあわせた
つめたい風とともに

 夢の水底へ降りていった
ぼくのとなりへ乗りあわせた
あなたのいない冬の列車で

ぼくはねむっていた
星のようにねむっていた




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マザー
 宮下倉庫

まばらに
するとよくみえる
僕たちは引越しをした
線と線の重なりから
点描が溢れる
モザイクの町に

坂道を登ってばかりいた
比喩でなく
坂の多い町に生まれ
学校はいつも丘の上にあった
まばらだった記憶も今は
新しい住宅地のように
密集している

ひさしのある
ベビーカーとすれ違う
赤ん坊は寝入っているのだろう
名づけるという行為は
それなりに困難である と
僕は教えられなかった
あまつさえ
僕は人に
名を与えてしまった

出生の記憶を
僕にくださいませんか
でなければ
僕よりも早く
生まれなおしてみませんか
肝臓が ね
もうだめらしいの
でも落ちこんでないから
ひさしのあるベビーカーに
眠る子の名は
誰がつけましたか

モザイクの
町からのびる線路が
肝臓
を貫くなら
僕はくだりのそれに
飛び乗って
まばらに
したらよくみえて
ベビーカーは
からからと
日あたりのいいお腹を
通り抜けていく


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刹那い
 望月ゆき


かつて
わたくしは
花、だったのですよ
よろしければ
咲いてみせましょうか


言うと
水、のようなそのおかたは
しなしなとゆびを左右に
ゆらして
ていねいに
それをこばむ

   
  いいえ
  その必要はありません
  なぜなら
  そのことにつきまして
  じゅうぶんにぞんじております

  あなたが
  花、だったそのとき
  あなたはずっと
  わたしのなかにひたっておりました
  から
  ひたすら、
  に


それならばなぜ
あのとき
わたくしの花弁を
むげにしたのですか


問うと
水、のようなそのおかたは
ていねいに
かたむいて
わたくしへと
こぼれる


  わたしはそのとき
  じゅうぶんに
  あなたのなかにしみいっておりました
  ので
  あなたとともに
  ともに
  散りおちたのですよ


ならば 
どうしてずっと
ずうっといっしょに
いてくださらなかったの
です


  あなたのなかは 
  とてもここちよかったのです
  けれど
  どうしてもわたしは
  あなたの毛穴
  から  
  しゅうしゅう、と
  空にのぼらなければならなかった
  
  そうしてそれは
  すべて
  あなたを
  ふたたびうつくしく
  咲かせるため
  と
  したなら


水、のようなおかたは
舌の上で
ていねいに
そう語ると
すぐにまた
わたくしの
あしもとふかく
ふかく
へと
こぼれて
消えていかれた






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オレンジ
 いとうかなめ
 
 
落下 と言ったら
世界が落っこちた
明日から学校なのに

初めて見る模様の御椀が
雨のように降っている
私ん家と同じのもあって
ちょっとうれしい

学校のほうに泳いでいったら
友達のネームプレートをみつけた
落ちていくのがかわいそうだから
そっと裏返しにした

スカートを履いていたので
捲れ上がってわたし
恥ずかしかったけど
みんな落下に夢中だった

下はまだ真っ暗で
仰いだら空も無数のビー玉のように
散り散りになって落下している
夕方だからオレンジ色に反射している

一粒掴んで抱きしめた
溢れ出した水滴はわたしを濡らして
はためく裾からひとつのオレンジになった
煤で染まった手のひらを少しずつ舐め始める
靴下を脱ぎ
足の爪をひとつひとつ丁寧に撫でていく
長い髪は昔遊んだ小さな河流
解けた瞼の裏にはずっと使ってたタオルの絵柄
みんなみんな気づいたあとに
確かな色が覆われていく
騙されていく


明日は休校になりますと
回覧板が届き
靴棚が閉じられる
音を立てて優しく


私は思い出している
呟く前の
気づかされる前の
大切だったものの

けれど
それがなんだったのか
どうしても思い出せない
 
 
 


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 木立 悟








凪と鉛
曇が地へ落とす火
色より広いまぶしさの
まなざしのふちを洗う雨


水を踏み
坂をのぼり
鈍を振る
頭は 音になる


空に浮かぶ火が薄まり
他の火を映す鏡となり
火に戻ることなく沈むとき
朝はひたすら騒がしい過去


影のないもののための灯り
人のかたちを忘れゆく道
次の野まで野をまたぐ
巨大なけだものの一歩を嗅ぐ


内に傾いで鳴りながら
ひとつまみ 鈴ひとつまみ
夜を滴に閉じようとして
あふれあふれて街は流れる


水が水に刺さるかたちに
雨音は残り雨は去る
ぬぐってもぬぐっても鳴り止まぬ片目の
まなざしをまなざしを歩みつづける





















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誕生はまだか、誕生を知っているか、誕生を、誕生のことを
 ホロウ



地殻の下で芽を出した植物の憤りなんてものがお前たちに想像できるかい、ただひたすらな気持ちこそが薄暗い心を地上へいざなう、なんて、本気で信じているわけじゃないんだろ?キラキラが降って湧いた思考の楽園、胞子のように飛び散ったたくさんだけれどささやかな愛たちが何もできずに汚れた路面で灰になる、そんなもんさ、そんなもんさ、そんなもんさ、憧れに出来ることなんてよ…スローガンの前に本物の内臓をさらけだそうと考えたことはないのかい、例えば心臓、例えば肺…自分自身の鼓動、自分自身の腹腔、自分自身の…いいかね、志に出来ることは何もない、イラつく話だ…同じメロディを前に囀り始めたってそれぞれの歌があるべきなのに―ヘイヨー!お前たちは美しいよ!うんざりするほど美しくて吐気がする、インプットしたドリームでヨガってるだけじゃあ祈りを捧げたほうがマシってもんだぜ、そいつはプリミティブなものじゃない、そいつはプリミティブなものじゃない、そいつはプリミティブなものじゃない、そいつは…そいつは神格化したただのキャッチコピーさ
少し違う歌を歌う気はあるか、そこから出て…今まで気にしたこともないようなやり方で?少し違う風に吐き出してしまわないか、理にかなったものに破壊できるものなんて所詮は概念だけなんだ…少し違う歌を歌ってみないか、下世話で、卑劣で、あざとくて、直視を躊躇うような…ダーティーを知らないクリーンに何を語ることが出来る?お前らは、お前らは、たったひとつの細胞の増殖の挙句のかたちみたいだ―出来あがったものなんかほっとけ、そいつは少なくともどこへも逃げたりなんかしないから―ああそうだ、口上だけはひどく上手ときたもんだ!地殻の下で芽を出した植物の憤り、人間を激しく狂わせるものはまさしくそんな感情なんだぜ、狂えないものは正しくはなれない、判るか、言ってること…狂気がなければ正気だってありゃしないんだ、選択のループの中でひとは道を辿る、どちらか一方しかない道の上で何を悟ることが出来る?俺の言ってること判るか、俺の言ってること判るか?撃ち抜け、撃ち抜け、撃ち抜けよ、終点のプラットホームで全速力で足踏みするような真似をこの先も続けてゆくつもりか?お前が理解を求めるのなら脾臓の匂いまで差し出して見せるぜ…全的な俺の細部までどうか検分してくれ、俺は存分に愚かしいけれど何も見失ってなどいない…少なくともそのことだけは判ってもらえるはずだ
なにもかもが透き通って見えなくなってゆく、なにもかもが透き通って見えなくなってゆく、なにもかもが透き通って見えなくなってゆく、見えなくなった後で俺たちは何をする、言葉の枯れ果てた思考の砂漠の上で俺たちは何をすればいいんだ、パイオニアの名前なんかどうだっていい、何かを生み出そうとするなら…誰もが初めてのものを差し出せなければ無意味なんだ、フォロワーは何も深化させない、蒔かれた種を根絶やしにするだけさ、終点のプラットホームで全速力で足踏みするのか?乗ってきたハコにはもう少し燃料が残っているかもしれないぜ、そう、もうひと駅分…新しい駅に辿り着くぐらいの燃料が―足踏みするのか、折り返すのか、それ以外に手がないなんて決めたのは誰なんだ?そいつはただそこで終わってるだけのものさ、そいつはたまたまそこで終わっていただけのものなんだ…終点など無いんだ、線路の先を繋げるつもりがあるのなら…、歩くことだって出来るんだ、燃料タンクがカラになっていてもさ、オーオー!新しい靴を汚す覚悟があるなら先へ進めよ!膝がギクシャクするほど歩いても構わないって覚悟が出来ているんならさ…歩き出した先で迷っちまうのが怖いのか?そこからどこへ行けばいいのか判らなくなることが?歩き出しなよ、歩いたことのない道に標識は無いんだ…踏み入れたことのない道では何も決められてはいない―好きなようにして、誇らしく歩き続けるだけでいい
地殻の下で芽を出した植物の憤り、この世で最も光を求めているのはそういう存在さ、この世でもっとも新しい世界を知りたがるのは…お前はどこで生まれた、お前はどこで生まれた?誕生はまだか、誕生を知っているか、誕生を、誕生のことを…生き死にの中に描かれている系図が果たしてどれほどのものなのかを…!靴下を選ぶみたいに韻を踏みたがってる場合じゃない、すでに砂漠の上に立っているのかもしれないぜ、新しい道を引くんだ、新しい道を引くんだよ、己の心に従って…己の見たいものを見て、感じたいように感じて―感覚によって、つじつまを合わせていくんだ、昆虫がそうするように、蟻がそうして歩いてるみたいにさ…見つめるものは目だけじゃない、聞くものは耳だけじゃない、嗅ぐものは鼻だけじゃない…すべてのものを感じることを考えなければならない、血流のスピードと同じ速度で綴り続けることが出来るか―?俺がままならぬゴミのようにばらまいているものを見ろ、捨てられなかったものが倒壊してゆくみたいに溢れてくるそのさまを…それをポエジーと呼んで何の差障りがある…少なくとも俺が見知って選択してきたものの中じゃこいつは一番正しい感覚だ、見世物気分でさらけ出しているわけじゃない、いい加減あんたにだって判ってもらえてるだろう…革命を!革命を口にするやつらがいまひとつ胡散臭いのはさ、それがスマートに行われるものだと信じてるせいなんだ…殺す覚悟や殺される覚悟、そういったものが足りないせいなのさ、判るだろう、牙を剥くなら野性のようにやりなよ、牙というものの意味が分かるか?生かして、殺すもの、生かして殺すものだ、それは、生かして、殺すためのものなのさ…イデオロギーの戦いじゃない、革命とは、生肉を屠る覚悟でなければならないはずだ、ヘイヨー!ヘイヨー!ゲバラの面がそこらじゅうに溢れているぜ、まるで成功したみたいに!
違う歌を歌う覚悟はあるか?既存の、なんて意味じゃない、いままでお前の中に存在しなかったような新しい歌を?野性の脚をもって駆け抜けてゆくような、そんな言葉を歌いたいという覚悟があるか?息切れをすると首根っこに牙を立てられるぜ…生かして殺す革命という牙を―生死にかかわらぬ牙を剥くやつらなど英雄でも何でもない、そいつらはこぞってチンピラと呼ばれるたぐいのものさ―こいよ、イデオロギー闘争が好きならそうするがいいさ、ただし、こちらの脳みそをぶっ飛ばすようなイズムをそっちが差し出すことが出来るのならね…俺にはイズムがない、俺にはイデオロギーがない、俺には標識によって選んだ道がない、俺には食われてすり減った首筋しかない、食われ続けることもまた革命だと言ったらお前はきっと笑うだろう…お前はヒロイズムのフィルムにどっぷり浸かって居やがるからな…誰の為なんだ、ワードは、言葉は、変換は、比喩は、選択は、コピーは、ペーストは…?俺にはイズムなど無い、ただただ本能が命ずるままにキーを叩くのみだ…投身自殺の後で路面に散らばった脳漿のようなフレーズが知りたいんだ、それこそが鼓動に最も近い言葉のはずじゃないか―食い、あるいは食われて、殺し、殺されて、辿り着いた、結末、そいつが最も鼓動に近いもののはずじゃ…ぶちまけることは本当に不可能なのか?ダイイング・メッセージのような旋律、そいつを望むことは―?誰が確かめたんだ?誰が確かめた、誰がそのことの終点を見たんだ、俺はまだ見ていない、見えるとも思っていない、移動する湖のようにそいつは座標を変えていく、そのたびにすべてが変化していくんだ、移動する地形は命の数だけあるから…俺の見たがってる地上の景色、俺の見たがっている楽園、あるいは地獄、あるいはそのどちらでもあり、少なくとも容易くはない、風景…!オーオー、俺はぶっ飛んでるぜ、もっともっと速く、もっともっと速く…そうでないときっとそいつの尻尾にすら追いつけない…仮に、それがスピードの果てにあるものではないとしても…そいつを身をもって知るまでは求めなければならないんだ、身体が知ったものが本当でなければ俺たちの人生はまるで存在する意味など無いようなもんだ!躊躇うかもしれない、お前は躊躇うかもしれないだろう、俺だってそうさ、訳が判らなくなって頭がおかしくなっちまうかもしれない、だけど俺にはたぶんそれは出来ないぜ…強欲だからどこまでもこっちに留まろうとしてしまう…生き続けられるなら永遠であって欲しいのさ、受胎の際にも似たようなことを言った記憶があるけどな…なに、昔の話さ、なにもかもみんな、昔の話に過ぎないんだ、昔話が出来るってことはまだ生きてるってことだぜ、昔話が出来るってことは先に進む余地があるってことだ、なあおい、そうだろう、そうじゃないかい、お前には判らないのかい、俺が何を伝えようと目論んでるのか…違う歌なんだ、生まれるものはすべて…そこが終点でないことを理解している限りは
形を変え続ける湖だ、そこには時々毒の魚だって住む…ひどく手足が痺れてしまうけれど諦めなければ死ぬようなもんじゃない、追い込まれるぜ、だけどひどく追い込まれる、きっと…一秒先には真実がそこにはないんだから―来る気はあるかい、手を取ったりなんかしないぜ、先に行くも、後ろにつくもお前次第だ―仲間なんて言葉で呼ぶなよ、俺の本能は俺にしかないものだ、速さや、緻密さや、激しさや、悲しさに、新しい名前を付けていくんだ、過去を食らい、殺しながら…いくつもの死骸を踏みつけて、慣れた臭いを嗅ぎながら新しい景色を見る、その瞬間きっと光は差すはずさ、その瞬間…


新しい芽は必ず地殻を突き破って、誰も聞いたことのない産声を上げる、その時こそ俺は誕生と叫ぶのだ、見ろ、俺の命がある、俺の鼓動が…










新しい歌を歌う覚悟はあるか?








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