投稿する
[前ページ] [次ページ]



絹の国
 ミゼット


眠ると見える
灰色の道に
林檎がひとつ
落ちています

私はそれを拾いたい

食いしばる歯の間から
ほろほろ
シリカゲルがこぼれる

胃の中に花があるんです
長持ちさせたいから
乾かしてるんです

林檎は道に落ちていて
灰色の道は
そこだけが明るい

私はそれで暖まりたい

うつむくと
シリカゲルがこぼれてしまう

そうっとしゃがんではどうかしら
目の見えない人が言う

右手は紐に縛られて
空に向かって吊られているの
反対の手はなぜかしら
ずっと後ろでなくしてしまった

シリカゲルが減ってしまったら
赤いお花が腐ってしまう

林檎が欲しい
林檎が欲しい
私はそれで暖まりたい


[編集]

親指
 5or6
 
何故か射殺宣言
銃口を向けたきみがいる
目隠しをされて
俺の両手は縛られている
何故に全てが解るのだ
感覚が
其処には其処には其処には
そうだ

両膝が震え始める
後ろには椅子がある
そこにゆっくりと座る
座り始め始めるけれども

静かだ

窓が閉まっている

何故に全てが解るのだ

心臓の音が鼓膜を叩く
アバラ骨が軋んでいく
全身を駆け巡る血液がニコチンを呼ぶ
脳内物質はもういい
誰かタバコをくれ
縛られた手に汗が滲む
そして喉が鳴る
乾いた唇にタバコのフィルターが差し込まれ
ジッポの音がする
肺に伝わる煙の重さが
両膝の震えを抑える
そしてゆっくりと

吐く

そして暗闇に一枚の絵が浮かぶ
それは冬の海の絵だった

誰も居ない誰も誰も居ないと感じている俺と
何故か俺の親指を握っているきみ

その二人が描かれた
冬の海の絵だった

不意に両手の親指が強ばり
最初の場面に戻される

そうだ射殺の場面だ
そこにきみは銃口を向けている
いや
そんな事はどうでもいい

もうなにも恐くは無かった
最後の深呼吸をする
射ち終わった煙を吸い込まない為に
ゆっくりと引き金が落ちて銃声が轟く
無機質な唇
加速するように倒れこむ音
きみの姿
その時
チャイムが鳴る
休憩終了のチャイムが
崩れていく
二人のイメージ
再構築する
作業場の駐車場

直ぐ様、俺はタバコを消して、携帯に映っていた冬の海の絵を閉じた。車から出て乾燥した冷たい空気を肌で感じた。

そして

冷たくなった親指を

握った。

 



[編集]

「未明」に
 田崎智基


「未明」に、誰もいない路上で、まだ雪になることのない冷たい雨を浴びて、不十分な「存在感」を薄く薄く展ばし、かつ儚いその「光」を凪いだ海面のように留めながら、生き死になどついぞ関係なく、ただ体表に当たる雨を虹色に反射させて、私に「音律」を連想させ続けている「何か」があった。
雨の降り始めは記憶になく、初速の小さなレコードの回転を、彼女と笑い合ったのが覚えている記憶で「最も古い」のだとする。「最も古い」話を路上の「何か」は好んでおり、「最も古い」話を知るために「未明」という時間にそれはいる。
相槌を打つのを忘れないよう、ピアノを弾く間にたびたび手を止め、テレビの花火みたいな音の一音一音が舷灯に染まり、街が「未明」の海底を、思い出しては忘れ、忘れてはまた思い出すように通過していく。
   私たちは、その上で、あるいは海のずっと深くで、「移動」から逃げながら、絶えず様々な光や、鋭角の音に廻り込まれ、いつも私たちの方から出迎えたかのような気がする。どうも、そんな気がする。
「何か」に、語り掛けるかのように、意識を向ける。何もかも忘れるのは、まだずっと後で。「最も古い」記憶は、最も古い意識の影踏みをするため、陽を待っては、あえず消えていく。





[編集]

あなた
 腰越広茂




あなた
小首をかしげて
地面の底の
深く流れる息遣いを
その深い色した瞳に感じて
あら、生きていたのね
なんて
おちょこでしっとり日本酒を
なめては池の月影を
ため息ついては細くなり
肌は、うす紅さしていう

今日はわたしの命日で
あなたはそうして酔っている
遺影へ
ぽつり
ぽつりと話しかけて
うふふ
なんて
美しく
微笑む
あなた
左手の
小指が
じんじんと
高鳴りを打つ
悲しさの悲しさの無い
幸せの幸せの幸せの涙
この
かすんだ意識に光を灯す

また
生者は、輝いて見えるのだ。
当の本人は、そのことに気づかない。
しかし、
生者の中でも、そのことに気づく者がいて、
それが死んだ
わたしには、ついに解明できずにいるのだけれど、
そんな人と会えた者は、
幸せ者なんだと
つくづく感じる。

あなたは
しおれそうに悲しみ
あなたは
はちきれんばかりに怒(いか)り
あなたは
ころころと笑い
それでいて
わたしの誕生日をおぼえていてくれて
ささやかだけれど
すてきなプレゼントをくれる
そんな
あなたがすき。

いつのまにか
畳の上に
つっぷして寝てしまった
あなた
疲れているんだね
と見えないけれど
羽毛布団をかける





[編集]

波動砲
 イシダユーリ




皮膚が泡立っている
暑さに 寒さに
毛が逆立っている
ああ これらが
表現していることは
 生きることはつらいです
 環境が破壊されています
 なぜ泣いているのですか
 現代社会は瀕死の虫です
 回送電車が脱線しています
 生きているだけで死にたくなります
 死ぬことはおそらく苦しいです
ああ それらを
表現したいのですね 


だまれ

だまれ

からだ を 棚に あげないで ください

生きているだけで 死にたくなります

死ぬ ってことが わからないから です

だまれ  

だまれ

なにも わからない くせに

なきながら ねむっている だけの くせに


信号が ピカ ピカ している
あれを 奇跡 と 呼びましょう
ピアノ も 弾けず
歌 も へたくそなので
そして わたしの ダンスは
みんなを 不快に させるだろうから
信号が ピカ ピカ している
と わたしは 声に出して 言うことに
それを 奇跡 と 
ガイスト が とおった と
声に出して 言うことに する
わたしは ピカ ピカ している
無抵抗の 骨の街を ムチ打って
灰色の公園に 響かせる
わたしは ピカ ピカ している のよ

いつかは 死ぬから 大丈夫です
傷の あとが どんなに 汚くっても
いつかは 死ぬから 安心です
涙 と 汗 と 唾 と 
おしっこ と うんち と で
わたしは カピ カピ しています
公園の 水道を 上に 向けて
虹を つくる カピ カピ を
水で 洗い流す 
嘘を つきました
洗い流したら なにも なくなりました
傷なんか ありません でした
きたない だけでした 
吹き出物 や 毛穴 が
ある だけでした 

ピカ ピカ している
窓の 向こうが ピカ ピカ
している 遠くに 森 が
みえる 遠くに 植物 が
死体から 生えている
あれは わたしの 大事な人
虫が たかっている
虫を 手で 払う
どいてよ どいてよ 
叫びながら どいてよ どいて
 生きることはたたかいです
 生きることはおもらしです
 生きることは環境破壊です
 生きることは現代社会です
 生きることは北極南極です
 生きることは回送電車です
 生きることはピクピクです
 なぜ泣いているのですか
 なぜ泣かないのですか
 泣けよ
 足で顔を
 蹴りつづけて 
 やるから
 なぜ泣いているのですか
 生きているだけで死にたくなります
 死ぬことはおそらくさびしいです
 生きていることはさびしいです
きみに 会いたいのは
ただ さびしいからでしょうか
きみが 憎らしいのに
抱きしめたいのは
死ぬのが こわいからでしょうか
気持ちを 言葉に することなんて
できるわけが なかったのに
なにも できないから
言葉 以外 なにも
遠くに 投げるものを
持ち合わせていないから
ピカ ピカ しているよ
あの ピカ ピカを
きみにも 見せてあげたい





[編集]

結晶
 えあ


あしたはお葬式だから
わたしたち夜中ていねいに
からだの準備をする
やさしく膨らんで
剥がれていく熱を洗面器にためて列に並び
つまさきを揃えて
ぐずぐずと、甘くなる夢をみる


空気は冷たくてつんとしているから
裸足になるのに臆病だった
ひやりとしてからわたしたち
唇を撫でながらお祈りをする
ふやけて甘いかたまりは
空にかえしていった


白いひとの横たわる
足の裏がわでいくつもの色が交差している
睫毛のかげが遮られ
そのかわりに
たくさんの腕がうごめきあっている
なぞる手のひらが宙を泳ぐ


ぱさぱさに
乾いてしまっている
空気の淀みを
くちびるをきちんと結び
吸い込まないでいる
息をしていないのに
吐き出したいものがある



わたしたちの簡単な正装は
いつでも雨に濡れてよかった
からだの中身がきゅっとなる
もう準備はできている


音はどうしても静かで
沈んでいったわたしたちの
正確な微笑みを
もうだれも取り返そうとはしない
西の空には密やかに夕暮れが静止している




[編集]

マネー(別稿)
 稲村つぐ


ジョン
が忠誠を誓う
ボス
の肩の向こうで

ママ

のレッスンに挫けそうな
ジュニア
の背中越しには

わたし

のまえで微笑んでいる
ジョン
の瞳へ映った

わたし

の昨夜を買った
ボス
の命令は

ママ

になることでした




[編集]
[*前] [次#]
投稿する
P[ 3/5 ]
[戻る]


[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]