投稿する
[前ページ] [次ページ]



花摘み(別稿)
 稲村つぐ


花、
この季節は去年も肌寒く
熱病が四方から、私の脳をなぶった

星、それは花ではなく
強烈な眩暈がした一撃のこと
激しく抗い
暗闇を焼いた
痛みだけが、そこに残って
とても小さな時間の、
集まりが根を張る
私の野、
野の中の、野
私たちは野

色は生まれて
すぐに私を離れていく
あなたに辿り着くまでの、その間
飛べない私は、願い続ける
どうかあなたの野の、
その美しさのようにあれ

花、
驚くほど
痛みばかりを知った
星だったかもしれない
この肌寒さの中を、今年も
一意に咲いていた




[編集]

はじまりに耳をすます
 望月ゆき


ああ、またここから、始まる

無意識にながれる所作に
ときどき
生まれる、感覚
蛇口をいきおいよくひねり
じょうろへと水を注ぐ
そんな、とき

朝が、
おとといよりも
昨日よりも 
数ミリはやくやってきて
すこしだけ、とまどっていた

外はもう
わたしが知らない、春の体温だった

始まってゆくことは
終わってゆくことだと
季節がかわるたびに、知る
そうしてそれが
生きているもの、
生きてゆくもの、それらの向かうべき
朝なのだ、と

たったのひとことも告げないまま
消えてしまった、と
泣かないで
どんなときも合図は、あった
たしかに
春は、みじかく鳴いたのだから

また、始まるのだ
ここから
この、朝から

たちのぼる湯気のまえで
あたらしい味噌のふたを
ピリピリとあけながら、わたしは
つんと耳をすます





[編集]

zebra
 5or6


ゼブラ
白黒の境目で何してるの
曖昧に決めれなかったんだね
解らないふりをしてるんだね
仲間外れのまま
あなたは真ん中に立っている

コヨーテが四方から狙ってる
わざと気付かないふりをして
あなたは美味しそうに草を食べている
そのつぶらな瞳の先に
助けてくれるハンターが見えていたから
あなたは美味しそうに草を食べている

ゼブラ
そのつぶらな瞳
心配しなくていいの
心配をしなくていいの
そのハンターがあなたを守る
誰にも邪魔されない檻に閉じ込める
誰も気づかないあなたを檻の中で愛すよ
知らないふりをしてればそれでいい



ゼブラ
ここが境目だよ
そしてハンターに守られる
安全でとても退屈な小さな世界
あなたは太陽に照らされた草原を望む
走りたいと体を打ちつけ檻を揺らす
ハンターはどうしてじっとしていないんだと壁に向けて銃を発砲して威嚇する自由を束縛しようと血眼で睨んでいる回りは汚れた床しなびた布団散乱した餌おびえる体

ゼブラ
ここが境目だよ


あなたは囲まれているが青空の下にいる
足には鎖が着けられていない
決断する意思の自由がここにはあるんだ
決断する意思の自由がここにはあるんだ
決断する意思の自由がここにはあるんだ

ゼブラ
仲間外れのまま
あなたは真ん中に立っている

白黒の境目で
心のモノトーンが
物音が

あなたが気づかないまま

鳴っている






[編集]

霧雨のノート
 及川三貴


コンクリートの壁に
長く続いている雨が
滑らかに曲線の
渇き潤して垂れてゆく
寝息を立てて
ゆっくりと
沈下している灰色に
波動の存在を
信じた午後の
奇妙な光り反射している
アルミ灰皿に映り込む
庇の奥で
尾びれのが俊敏に
水を掻き分けて
影を好むという習性に
重なる言葉
書き出す紙
呼吸の膜
吐き出す音
鉛筆の芯が軋んで崩れ
握った手から抜ける
ちから そんな
些細な絢爛をあなたに
知って欲しいと願った



[編集]

火の粉
 有刺鉄線

縫い併された体ではございますが今宵の限りに踊らせて頂きます、と女は腰をあげいよいよ舞台によじ登っていく。男の背丈ほどもある高い舞台の縁に爪を立てたんだから仕方がないが、紅さした爪の一枚が割れ鮮やかに血が宙を舞った。誰かいって上げてやれと、男気の荒い声をはねつけて女ははしたなくも独り舞台へと足かけた。あらわになった股ぐらに注がれる好奇の視線に目もくれず、女は長い髪を解き、着物をはだけて肌まで晒し、それでもあがいて舞台の上へ身を引き揚げてばたりと立った。見るに、首から肩までざっくりと赤らんだ太い傷が走り、乳房の片方も削げ落とされて久しいようだ。

女は力の限りに舞台蹴っぱると、しとやかにはらりと頭を下げてますますに踊り始めだした。それはまるで炎舞と尽きゆく、めしいた蛾の翻るが如くであったと記憶する。四肢はさながら枯れ葉のようで、舞う傍からことごとく砕け散り、砕け散りながらも妖艶と舞った。観客は皆薄暗い座敷でがちりと押し黙り、盃さえも掲げたままに心奪われ恍惚とした。

女はそのままで、いや確かに踊りながら留まって、ずるりと皮をむくようにして着物を脱いだ。現れたその色白の裸体は高揚した数多の傷痕に繋がれ、どれもみな一様に死に、ただ爛々と燃ゆる女の、瞳のみ激しく息づいているように見えた。





[編集]

無題(放熱、)
 凪葉
 
 
手放されていくものから、順に
形になっていく
寂寥を孕む風から
か細い音がばら撒かれて
もしかしたら
その道を辿れば
やがては声も
言葉になるのだろうか
 
 
つけていく
区切りの隙間から
結局はあふれ出す
遠い、ものが
近くなり、
振り払う、
振り払えばまた
近くなる
そうしている間に過ぎていく時に
忘れたものがいくつかあった
 
 
生きてきた、道々の
すべてを
仮定していけるほどに今は
震えさえ
止まる 息の、
零れるくちもとに
手、
気づくころには
いくつかの
爪が欠けていて、
 
  
壊死していく
皮膚の
進行は止められない
剥いても、剥いても
新しいものにはなりえず
新しいものに、なりたかった
わけでもなく、
諦めることを覚えた日は、
だから、
今も消えない
 
 
雨の降る
一日は
夜のように
見えないものが
見えてくる気持ちになって
飛び出す
素足ではない、
わたしの
どこまでがわたしであるのか
留めて、
吐き出せず
もはや濡れていることさえ
わからない
 
 




[編集]
[*前] [次#]
投稿する
P[ 4/5 ]
[戻る]


[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]