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記号の森についての、
 mei


(Everything is just a sign
 in that world


 a sign, which was crawling on my skin,
 suddenly,
 without notice,
 turned to innumerable signs,
 and began to fall softly,
 as if they had been snowflakes,
 in the empty room


 ――it is melting and flowing down while a sealed afternoon sleep,


 although i cannot see
 anything,
 'cause my destination is veiled with darkness,
 i'm just staring at the decay,


 with anything un-melted.)


link:pkcr.jp

 das Ende
画像
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質量を持って存在する
 ミゼット

部屋に安置された種子は両手に持って余る大きさを持ち表皮はとうに爆ぜ破れてはいるがクレパスに似た裂け目の両端は回復しようとしている

抽象を形取ろうとするも響かない土塊たちの墓場の中で種は裂け目から黒い霧を噴いているそこだけが明るく意味を成している

裂け目に足を差し入れてみたい
真夜中ならきっとできる
小指は落とせ踵は削れ
片足でいい
差し入れてみたい

黒い種が爆ぜている
シベリアの王女はそれを見ている


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午後とまなざし
 木立 悟




かろうじてつながる
陽のなかの骨
白い壁が
歩き出しては消える
花の匂い
花の礫を残す


空より長い
影の上をゆく
ときおり丸い
鳥の火の音


ゆるやかな分かれ道
緑おおう黄
行方の灰に
まなざしは鳴る


見果てぬものの
かけら かけら
器ふたつ すぎる向こう
黒髪 黒髪
風をよぶもの


氷の下に敷かれた紙に
いつのまにか爪はあつまる
ゆらめきを見ないゆらめき
霜を吸う蝶の口


丘の上 逃げ水
火照りは去らない
曇を通り 人へ帰る
待つもののない道をゆく






























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遠い夢
 前田ふむふむ


居間のテーブルに、汗をおびた白い皮膜がひろがり、ひとり

のピンクのビニール手袋は、両手で艶めかしい声をあげた。

一面、ピンとはった空気が、わたしの熱を帯びた息で震える

と、眼をひからせた二匹の青い犬が、暗い踊り場から、わた

しの耳のなかをかけていった。

わたしは、電灯のスィッチをあげて、左足の踵から階段を降

りた。足裏は、硬く、冷たい、(こんなにも、段差があった

のか。)手すりをもつ手先が、ひとりでに震えた。

下は、暗く、真冬にマンホールを覗いている猫のように心細

い。冷たさの先は、空気を捲いていて、ゴーゴーと鳴り響い

ている。心臓の温もりが、口から零れ出すと、眼のまえの青

い装飾ライトが、脈を打ちだし、少しずつ、あがっていく。

やがて、右足が慣れる頃、眩暈が全身をしばると、狭い、一

人しか通れない階段を、暗い大勢の影が、少しずつ、昇って

いる。なぜか懐かしい顔ばかりだ。その最後に、灰色のスー

ツの影が、わたしの横を、すれ違った。鋭い矢のようだが、

息が聞えなかった。あれは、父さんだろうか。

もう、どのくらい階段を降りたのだろう。

段々と、氷の冷たさが、全身を覆っていて、足は感触がなく

なってくる。用心深く、足を、降ろしていくが、いつになっ

ても降りつづけている。わたしは、いったい、どこに行きた

いのだ。度々、何処かで見たことがある、祖父の葬儀のとき

に、祖母が喪服につけた、生涯取らなかった嘔吐のシミ、妹

が、二十歳の夕暮れを、血で刻んだ透明な落書が、荒れた呼

吸に合わせて、これも、昇っていった。でも、一つだけ残る

父母が、いっしょに、暗闇で爪を割りながら削った傷のなか

には、階段の途中にひろがる、居間があり、切れかけた蛍光

灯が、不規則に点灯している。

テーブルの篭には、産声をあげたばかりの一匹の青い子犬が、

壊れそうな声をあげている。

一回、まばたきをすると、わたしは、眼を覚まして、ひとり、

テーブルに座っていた。目の前には、安物の木皿のうえに首

を吊るした林檎が化石になって、積まれている。

階段の踊り場では、わたしの後姿を、少年のわたしが

見ている。

少年は、ひかりに満ちた階下に降りていった。






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輪廻する、夏
 望月ゆき



水溶性の喧騒に混じり入る
マーブル状の
夜の鳴き声

脈が終わって、それでもなお
時は余る




疎林のまばらを
記憶で埋める
蔓はどこまでも
遠く伸び

驟雨のあとの
光合成

放出、また
放出




極暑の下の午睡

夢で
細胞が無意識に
誰かを愛し
するとそれは人間の姿になり
それから
悲しみがうまれる





爆撃機が
見知らぬ高い空を行き

その下で蝶は
無邪気に白く跳ねる


本当のことを話すたびに
言葉の
腐敗がすすむ




永住したいのに、夏は
今も座ることを許してはくれない

水母によって喚起されるイメージと
浮遊をくりかえす
そのあいだもずっと聴こえ続ける
無言歌

硝子のコップに残る指紋が
日向に浮かぶ

存在の痕

日焼けの重さ





一ミリ、ずれてなお
つじつまが合っていく

覗きこむ
カレイドスコープ、
夏の星座、
そのように




釣鐘草が不変を身ごもり
産み落とすことなく散っていく
消えていく虹だけが
それを知っている
消えながら虹は もう
誰の明日にも残らない




浄化された夜が
西へ、流される


朝焼けのコラージュ

ヘリオトロープの残り香

水盗人

いつまでも手をふる、送り火



  






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どうして、また
 ホロウ



ビルの隙間に潜り込んだ切ないアイデンティティの死にざまは破裂気味、増えすぎた膿が皮膚を破いて躍り出るみたいな予感、曇り空からはいつか覆い隠した感情が疲れた雪のように降り注ぐ、もう飽きた、もう飽きた、痛みとともに何度も色を変えて産まれるのには飽きたと…薄暗がりには理由がたくさん落ちているよ、だけどそれは絶対に拾い上げてはいけないものばかりだろ?方法を変えるんだ、と、毒団子を食ってくたばったどぶ鼠の死骸が囁いた、「ねえあんた、方法を変えることだよ、変化を愛すべき方向へ導くにはそれしかない」だけど俺は知らない、だけど俺は知らない、方法など―選択出来る場面など俺は見たことなかった、見逃しただけかもしれないが―見たことなかった、見たことなかった、見たことなんかなかったんだよ

もしも魂が抜けだしたら、ねえ、どこへ行くっていうんだろう?身体の中じゃもどかしい魂、だけど抜けだしたら伝える声なんかない、綴る指先もないただの永遠…もしも終わらずにいる気ならそのまま、中空に、中空に、中空に浮かんでそのまま、漂い続けるしか能のない魂、それは究極の世界か、それとも堕落か…誰にもそんなことを決めることは出来ない、けれど、何かを歌うにはもどかしいぐらいがちょうどいい、そんな風には思わないかい、そんな風には…ビルの隙間を抜けだしたら長い息を吐け、誰にもお前のマイナスを気取られないように―どぶ鼠が何か叫んでいたけれど、それ以上気にしても仕方がない、きっとあいつらはテープレコーダーみたいにたったひとつのフレーズを繰り返しているだけだから―充填された燃料が途切れるまで、哀れに…初めから誰かにそのことを伝えようと考えていたみたいに、哀れに

人気のない巨大な交差点を街の終りの方角に向けて渡ったら、巨大なデパートの抜け殻があった、二〇年前に閉鎖されて、そのままの廃墟…一〇代のころに一度、そこに忍び込んだことがあった、その頃は機械警備なんてなかった、あのころよりもはるかに黒ずんだコンクリートの壁面を見つめながら、どこかの雑誌で読んだ、この建物の中に住み着いた死霊のことに思いを巡らす、深夜、施設警備の連中が定時の見回りをしているときに、後ろから首を絞めてくるらしい、若い女、服装が異常なまでに古い…そのビルの中で警備をしていた年寄りがひとり、真夜中に心筋梗塞で死んでいる、見つけられるまで朝までかかった、それは有名な話だった、そのことが噂に拍車をかけた、「あいつは見たんだ」「見たんだ」「見たんだ」、誰もがそう信じた、本当は―そいつはただそこで死ぬ運命にあっただけのことかもしれないのに…仕事中に死んだ警備員なんて俺だって二人ばかり知っているのに

あの時、誰かが外れるように細工をしてた窓から忍び込んだ、酒を飲んでいた、何かひどくうんざりしていて…そのことについてはあまり思い出せない、記憶自体が差し込まれた誰かの記憶みたいにぼんやりと霞んでいる―外れた窓から潜り込んだら革靴の修繕をやっていた店の中だった、もちろん商品はひとつもなく、子供のころの記憶と、僅かに残った棚の配置からそう思った、その店の店長のことは覚えていた、およそ靴の修繕とは縁のなさそうなキツい目をした初老の男だった、いらっしゃいませ、と微笑むと、まるでこれから生けるものにはかなわぬ場所に行くぞとそう宣告されたような気分になった、覚えていた、ぞっとするような男だった…首を振って、そこから離れた、あの男なら、閉鎖されたデパートでひとり、直してほしい靴を持ってくる客を待っていても少しも不思議なことなんかない、一階の、多分化粧品ばかりを売っていたフロアーを真中まで進むと、エスカレーターの残骸が現れる、そうだ…地震で壊れて、そのまま閉店まで動くことはなかった―耐震構造だのなんだのが問題になって、客足が遠のき、閉店したのではなかったか?まあ、あらゆることの原因はひとつではない、きっと俺達には判らない部分でのことがたくさんあったのだろう―ダリの絵のようなパースの狂ったエスカレーターを昇った、俺達は―俺達は何人でそこに入ったのか?いつ思い出そうとしても思い出せない、俺は、本当はひとりでそこに入ったのだろうか?なぜ、そこの記憶だけがはっきりしないのだ…パースの狂ったエスカレーターを馬鹿騒ぎしながら昇り、二階で―店員に出会った、制服を着た、若い、細身の女―「当店は営業を停止いたしております」美しい、透き通るような声でそう言った、俺達は―あるいは俺は―口をポカンと開けて、それから慌てて詫びた、「開いていたから…」女はにっこりと笑ってずっとこちらを見ていた、俺達は帰ろうとして―疑問を口にした、口にして当然の疑問だった…「ここが閉店したのって、何年前でしたっけ…?」女は笑みを絶やさなかった、「閉店したのはもう随分前になりますが、いくつかのテナント跡が事務所として使用されています」「ですからご安心ください、私は幽霊などではありません」俺達はそこではそれで納得して帰った

だけど、と回想からゆっくりと覚めながら俺は思った、あのときこのビルの内側には、非常灯ひとつ灯されてはいなかったのだ…俺は建物に近づいた、噂話だが、もうこのビルは取り壊しが決まっていて、機械警備も外されていると聞いた…持主が手放した、らしい、俺は通用口に回ってみた、ノブを回さずとも、鍵がかかっていないことは判った、それはほんの僅か、暗闇を覗かせながら開いていた、俺はゆっくりと滑りこみ―ドアを閉じた、少しの間息を殺した、非常ベルや、センサー、そんなものの気配を探してみた、でも判らなかった、窓の側により、こちらに向かってやってくる車の気配があるかどうか探した、しばらくの間そうしていた、気配はなかった、誰も、なにも、そこで動き出そうとは考えていないみたいだった、かすかな明かりの中を俺は歩きだした、あの時と同じ道を…靴の修繕の店の位置を探した、何も変わっていないみたいに見えた、そこからエスカレーターを探した、振り返ると、あのぞっとするような男が立っているような気がした、エスカレーターは多少形を変えたように見えた、河のほとりで寝返りを打ちながら死んだワニのようにうねりが生じていた、俺は手すりにしがみつくようにそこを昇った、あの時と同じなら、あの時と同じなら―

二階に女の姿はなかった、俺はなぜか引き返そうという気にならなかった、そのまま非常階段を探して、三階に昇った…

三階に女は居た、だけどそれはあの時の女なのかどうか判らなかった、真っ白で…なんと言えばいいのか―人型の繭を宿っていた、例えば木の幹から引き剥がしたような、具象化された軌跡のような細い筋が身体から幾つも伸びていた、それはこちらを見ているように見えた、それは笑っているように見えた、だけど本当は向こうを向いていて、もしかしたら怒りに顔を歪ませているのかもしれなかった、そしてそれがどちらであろうとなかろうと、どうでもいいことのような気がした、女はやる気のないフィギィア・スケートの選手みたいに同じ速度で同じ距離をずっと左右に移動していた、当然足は動いていなかった、平行移動する振り子みたいだった…俺はなんということもなく、女の動くさまをずっと眺めていた、まるで現実感を欠いていて、恐怖など感じられなかった



突然、背後で誰かの気配がした

「どうして、また来たの?」





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