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カレシ
 鈴木妙
出身:愛知
 
 男児、赤い服で悍馬の前に立って
 殺されると喚き
 同伴の女子に失笑を買う快楽
 その前日よりの意図
 を
 夕暮れに恋人との逢瀬を控えて思い出す
 青年の首筋の汗の光沢は
 十年を超えて栗毛にて男児を映えだけで繰り返し繰り返し破壊
 彼はノストラダムスの大予言を信じる

 獣臭に代え
 石鹸を手に入れ
 イノセンスをイノセンスで滅し
 右頬のにきびに淫し玉露のへそ毛に至りこびり付く様に淫し
 それはおいしくなる
 口に含みたくなる
 それは原爆記念を伝える映像のなか黙祷せず広場を渡る者へ惜しみなく怒る祖母
 の
 チャーハンを食べる口元に淫す
 その口元は今日も整形外科にてシミを抜いて
 彼女はかつらに四十万円を
 その娘は差し歯に同額を使ったのだが
 男児は赤い目で地蔵型お守りキーホルダーを
 金運向上、またひそやかに恋愛成就を買い、後年、
 二つだけ異様に白い歯で夕飯を作る母から戸を一枚隔てて
 精を塗る 唾液で洗う
 それはおいしくなる、口に含みたくなる
(金運の方はにこやかな商売用笑顔でもって「金輪際おまえにチャンスなどないようにするから」みたいな。恋愛ちゃんは、はにかんだ赤い頬を曇らせたまま無言でしたから何度も何度も、して、その後トイレに流した趣向が実体験に持ちこまれているのですか)

 通い慣れた情に通じきもと謡い
 謡い慣れた詩を謡いださと蔑し
 新世紀に生きる不可思議を噛みしめろとか白けて青年
 ビルに飛行機が突っ込んで
 聖地を争う
 虐殺
 を見るまでもなく餓死する子供
 授乳をサリーに隠し苦笑いする口元は母か未詳
 いや虐殺
 についてなんか中年女性が声を荒げている
 フリーチベット! カルバン・クライン! フリーウイグル! クリスチャン・ディオール! フェラガモ! ブルガリ! ラコステ! イヴ・サンローラン!
 まだ虐殺
 青年の横でグルジアの良い男が
 実家の方は誰も死んでなくてよかったっす
 こっちの彼女めんどくさくて別れようと思ったんす
 てか酒なんて本当は一滴も飲みたくない
 グルジアのワインはうまい
 と言っていたまた横で木村カエラに似た女子が青年の恋人を
 電波、電波だわそれは電波だよありえない電波
 と言っていたそして青年は笑う
 へらへら笑って煙草をたかる
 みんなで仲良くテキーラをショットする

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観念的な略歴(と、とりあえず名前をつけておく)
 ホロウ
出身:高知

俺が自分で何かを成し遂げたと思った時は
天にも昇るほど気持ちがいい
俺が自分の中にどんなものも見つけられないとき
濁った湖の底に沈んでいくような気持ち

だけどそんなことを延々と語ってみたところで何になるというのだろう
俺の気分なんて俺の書いてるものとはほとんど何の関係もないのだ

朝昼晩とすっきりしない空の下で、俺はいろんな場所へとゆっくりと移動して
面白い奴に会ったり生真面目なやつに会ったり
腹具合が悪くなるほど嫌いなやつらに会ったりしている
だけどそんな良し悪しについて語ってみたところで何になるだろう
そんな良し悪しはどんな人間の上にもそこそこ訪れるものだ
むしろ恵まれれば恵まれるほど
うんざりするような人間がまとわりついてくるものかもしれない

高架の下を自転車で流しているときにはポスターカラーみたいな青と白が急行列車を追いかけるように流れていたのに
ウチに帰る頃にゃ妙に色合いにこだわったグレーが広がって
スタンダード・ナンバーみたいな速度で雨がパラついていた
そういう時の雨は一番重たく感じるものさ
独り言を言いながら何かをする時間が増えてきたのは、腹の中だけじゃ消化出来ない物事がだんだん増えてきたせいなのか?

俺が自分で何かを成し遂げたと思った時は天にも昇るほど気持ちがいい、だけどそれは果たして本当に、結果として何かを成し遂げているのだろうか?
俺が自分の中にどんなものも見つけられないとき濁った湖の底に沈んでいくような気持ち、だけどそれは果たして本当に、俺はなにも見つけてはいないのだろうか?

70年代を背負って一緒に死んでいったバンドが歌っているとき
俺はぼんやりとしたイメージの中で結果について考える
今この時俺が考えていることは
きっと今すぐに答えが出るような事柄ではないのだ
疑問の始まりから幾つもの昼と夜が過ぎたときに、初めて結果というものが生まれてくるのかもしれない
何も手にすることがなかった、そんな気分が
幾つもの昼と夜が過ぎたときに大きな結果になることだってあるかもしれない
結果のために時は流れるのだ

俺が自分で何かを成し遂げたと思った時は
天にも昇るほど気持ちがいい
俺が自分の中にどんなものも見つけられないとき
濁った湖の底に沈んでいくような気持ち

だけどそんなことを延々と語ってみたところで何になるというのだろう
俺の気分なんて俺の書いてるものとはほとんど何の関係もないのだ
こうしてこれを書いている俺は
どれぐらい前の俺の結果なのか
なにを手にした時の俺なのか
あるいはなにをなくした時の俺なのか?
いつかそんなものについて語ることが出来るだろうか
遺跡発掘チームの調査結果の発表のときのように
俺は嬉々としていつかそんなものについて語ることが出来るだろうか
ああ、俺は心や時間の流れてゆく様を言葉にしようとしているのだ
他のどんなものにも興味を惹かれたことなどなかった
他のどんな価値観にもこれについて語ることは出来ない、俺がこうしたプロセスの中に
ひそかに見出している価値観以外には

いつかそれを見ることが出来るなんて保証はどこにもないけれど
見られるかもと感じているうちはどこまでも試してみるさ
もしかしたらそのうちのいくつかは手にしているのかもしれないが



そんなものあと何百回も寝てみないと到底気づけないからな



画像
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ようすいの丘
 mei
出身:和歌山



 世界はいつも濡れていて 陽射しが人々を焼こうともすぐ隣では雨滴が垂れていました


 四月 世界の中心 学校の工事は水の神様に赦される為
 海へと続く道を狭めていた街路樹をまずはじめに刈り取り
 三百年眠っていた忘れられた石は起こされてから一年を待たず再び眠りにつきます
 あなたの愛が終わる頃にわたしたちはまた醜くなってもう一度 記号に戻ろうとしている
 澱んだ水軒の川を下りてゆけばようすいの丘に僧侶の屍が飾られていて
 明るい雨に照り映えているのは静かな終末
 僧侶の屍が見る四月の海は光を滑らかに波へと移していって
 波が高くなればなるほど白い翼を持っているようでした
 太陽は 繭に隠れてはまた融け合う事を待ち望んでいます
 雨はやはり降り続け ……


    (あなたの 中 たえず疼いていた愛以外の衝動は世界に 安らぎをあたえていました
     夜の繁み 葉から垂れる水滴に舌を這わせて
     蠢かせる色情の結末を私は知っています
     月のない空の下で話しなさい 罪はわたしが負いましょう
     わたしが あなたを 赦します)


 ――あなたは 光と風に繋いだ糸を歓楽の鎖から断ち切って永遠へと引き摺って行くのです
 ――けれどわたしはあなたが世界になったとは思いません


 もう何度過ちを犯したか 月の出る時間になっても空は曇っていて星は一つもみえない
 あなたの声で夜が明けると
 ようすいの丘の上には新しい世界がひろがり
 かなたでは霞んだ水平線から薄い煙を立てながら近付いてくる船をみせる
 繭から不規則に放たれる白光
 海さえも白く 陽か月か私にはすでに判断のつかなくなった円光は鷲のように天へと上り
 たちまち消えてしまいました
 硝子に生命の火が宿る わたしは柔らかな乳房に憧れる
 神聖なものが処女の血のなかで生き続けるなら 私は神聖でなくてもかまわない
 生まれる前から知っていた空の飛び方
 世界は美しい
 残り火の薄ら明かりではなく 荒れ果てた街が遂げた
 閑寂と頽廃の先
 あなたは 星や雲ばかりに 目を奪われていました
 靄に隠れていようと 死骸が落ちてこようと あなたはその先にあるものから目を離さない
 降り続ける雨が世界を歪めてもあなたには別のものへと移る予兆がありませんでした
 朧気な山々を裂いて聳える朱の塔 深々とおおいかぶさる雷鳴の背中を撫で 儚さは蘇る
 黒雲であろうと繭であろうと 或いは残りなく晴れ渡った晴天であっても
 光がとめどなく洩れているのは祝福と同時に怒りなのです それは空間の歪み
 清らかな日に人々は身を委ねます 忘却を齎す言葉の代わり
 指に絡ませた枝を比類ない奇蹟と
 呼んでもいい

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アカシア
 いとうかなめ
出身:秋田
 
 
ひとしきり泣いたあと
電線をサーカスのように渡り歩く
町工場で働く父が指差してその影を
誰よりも
案じていました


広い広いひからびた地に
コントラバスへ寄りかかる初老と
それを見守る私によって
わずかながらの形を保たれた
あなたがいます


宵の下で会い
舞う手が離れる
芽はアカシアの花

みずうみを
緑に塗る少女
まぼろし

ねえ思いどおりになればいいな
思い出だけうたう
まだ見ぬ涯てしたう

朝もやの中を
掻き分けて泳いだあなたのからだは
すべて雫
耳元に誓う
こぼれ落ちて叶う

宵の下で会い
髪にそっと添える
芽はアカシアの花


黒い飲み物を流し込んで
大切な人をなくす
二度目はありません

寒くても冬、


冬寒くても




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無言
 木立 悟
出身:その他








傷が降り
窓にとまる
話し声
水の声


青と白
多くを知る不幸
管楽器
追いやられて


父も母も妻も子も
友も自己も他も無機もない
夜のまぶしさ
見えない明るさ


じっとじっと
庭は漲る
欲めるものどうしが
欲めあう


何をくぐってきたのか
皆まだらに日焼けしている
岩もある
塩の曇もある


明日は呪いではなく
明日は繰るものでなく
明日は不確かな
休戦の日


裾に入り込む言葉
音のお手玉
無言のくちびるを
見つめる


剥がれては青を見ない青になり
水に鏡に打ち寄せる
昼の星の軸
無数の腔


雨は雨の
裂けめは裂けめの地図を読む
色に触れ
色を聴く


にじみにじみ にじみきり
青に譲り 青に譲る
ひとりがひとりに響くはざま
替え難い しじま


紙は斜めに斜めに重なり
新たな空と目の痛み
鳥と共に上下する火
浪へ消える階段に立つ


降る傷を 腔を
無言にあふれ出るものを
ひとつひとつ
くちびるでふさぐ


光は少なく
海は虹に満ち
底だけが明け
島を照らす


行き交うものなく
ひとつの舟がすぎては戻る
冬はむらさき
手のひらを発ち 手のひらに着く



























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 宮下倉庫
出身:神奈川



それは妻がメレンゲを作るために、ボールに落とした卵5個分の卵白をホイッパーでかき混ぜている時のことだった。5重苦よ、結婚してから、わたし、これでもう5つめなのよ。そう言うと妻はホイッパーを卵白の表面に対し鈍角に投げ込む。僕はどこかからの大事な電話に出ていたのだが、彼女が卵の数の話をしているのではないことを悟り、受話器を置いていそいそと5歳の娘を幼稚園まで迎えにいく準備を始める。あなた、お母さん方の眼があるのだから、赤い口紅くらいさしていってね。それはもっともだと僕は、洗面所で赤い口紅を再現不能な気分で一直線に2本塗りたくって×を作り、キャップも閉めずにぽいと投げ出し、黒くて真四角の家を出る。そういえば娘を迎えに行くのは今日が初めてだった。そんなことを考えていたせいだろう。最初の角を折れたところで、猛スピードで突っ込んできた車に僕は吹っ飛ばされ


しょーもない しょーもない と娘はがらんどうの室内で唱えている。いつも、あんな感じですか、娘は。ええ、いつも、あんな感じですよ、娘さんは。僕と保母の会話を尻目に、娘は室内の中心で砂遊びを始める。娘よなにがしょーもないんだいと聞くよりも早く、娘は砂を襟元まで積み上げては崩す、そんなことを5回繰り返した。最近は、これが流行ってるの、そう言うと娘は再び襟元まで砂を積み上げ、再現不能な気分で崩す。5回繰り返す。そうこうしていると、園長だというおっさんに話があるからと奥の部屋に呼ばれ、保母に娘のことを託し、僕は奥の部屋に移動する。園長の話はこうだ。うちではもう娘さんをお預かりできませんな。どういう意味ですと問うと、園長は眉ひとつ動かさずに、まあ煙草でもいかがですと、長いやつを箱ごと眼前に突き出す。それじゃと手を伸ばすと、実は当幼稚園は全面禁煙でしてな、そういって長いやつを短くして懐にしまってしまう。それでまたどういう意味ですと問うと、園長は眉ひとつ動かさずに、まあ煙草でもいかがですと、長いやつを箱ごと眼前に突き出す。それじゃと手を伸ばすと、実は当幼稚園は全面禁煙でしてな、そういって長いやつを短くして懐にしまってしまう。それでまたどういう意味ですと


今や保母の姿は見当たらず、娘はたくさんの園児と、砂を床一面に敷きつめている。全面に敷き終えると園児達は、今はこういうのが流行っているからと、砂の上を裸足で歩き始める。その程度のもののために僕たちは生きたり死んだりしているらしく、まだ起きていないもののことを、僕は知らない。水のように自由に歩き回る園児達が一歩踏み出す度、きゅうと砂が鳴く。5歩踏み出せばきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうと鳴く。僕も歩いてみようとするが、おじさんみたいな人は、まずは襟元まで積み上げてからと園児達に窘められてしまう。彼らよりもずっと背の高い僕は、何度試みても砂を襟元まで積み上げられない。すると唐突にお母さん方の眼を感じて僕は、口紅を塗り直さなければならないことに思い当たる。しかし家の灰皿に溜まった吸殻には、すべて赤い口紅の跡が残されていることさえ僕は知らない!


妻の苦しみのふたつかみっつは、僕や娘のせいなのだろう。しょーもない、とはそういえば妻の口癖だ。僕については、いえ、しょーもない主人ですが。僕の仕事については、いえ、しょーもない仕事をしてまして。僕らの黒くて真四角の家については、いえ、まったくしょーもない家でして。それはもはや僕たちの生活に不可欠の冠詞のようですらある。娘の手を引き幼稚園の門を抜けて振り返ると、室内では園長だというおっさんが僕みたいなやつと、再現不能な気分でやりとりを繰り返しているのが見える。ああ、僕は永遠に痕跡として刻みつけられてしまったのだなあ。そうひとりごつと、私たちの生きる理由なんてその程度のものなのよと娘に窘められる。この子はよく知っている。手をつないだ家路の途中、曲がり角にさしかかる度、赤い口紅をさした人が車に吹っ飛ばされる光景を目の当たりにする。そういえば僕も車に吹っ飛ばされたのだけど、それもやはり、再現不能な痕跡なのだ。ひとつ前の角では、妻みたいな人が吹っ飛んでいた。となると次の角では


既にして妻は家にいなくなり、メレンゲは恐ろしく泡で、机の上の灰皿には口紅の跡がついた吸殻が山積みになっていて、洗面所では口紅が床に転がり、しかも再現不能な気分で一直線が2本塗りたくられていて、それらは落下する黒い立方体の中で、落下する黒い立方体よりも少し速い速度で速やかに落下を始めようとしている。それは私たちのせいなの、と娘は本当によく知っている。僕は電話の前で待っている。どこからか分からないが、どこかから大事な電話が掛かってくるはずだ。恐ろしく泡や、吸殻や、一直線の口紅や、娘に、順番に×がつけられていく。いよいよ僕たちは真っ四角に落下を始めたらしい。すると電話が鳴り、受話器の向こうの僕の痕跡は、僕や妻が車に吹っ飛ばされたことをゆっくりと告げる。そんなことを5回繰り返す。そして静かに受話器を置くといよいよ僕にも×が



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