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犯人へ告ぐ
 嘉納紺

月を裂いたのは誰だ

新月と望の間から
右手の方へ
三分の一

哀れで可笑しひ
灰猫の巣は
月に砕け

ああ
と啼いたら
持ち上げてくれ

裂けた月を
どけてくれ

誰が夜を浚っていった

重たくつて
かなはない

夜が逃げては
かなはない


お前の胸へわたしは夜明けを振り翳す


わたしから

夜を奪うのは誰だ
月を裂くのは誰だ

わたしは告げる
お前へと審判を

裂けた月の断片で
その鼓動を断とう


あの猫にはもう夜しかなかった
嗚呼と鳴いたら月を引き抜け
寸断された月をどけてくれ

犯人へ接ぐ

月が満ちたら総てを絶とう




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サフラン
 ルイーノ
 
 
 
インスタントコーヒーの土

発芽した官能
硝子越しの陽に泳ぐ
産毛の眩しさ

沁みいるような
日々だった

橙の色素がつなぐ
指のあそびが
奏で始めていた
投げ遣りな希望

なんだかこれは
いい匂いだ

きみは庭の花では
なかった

白ワインと炒めた玉葱
瓶のトマトに
サフランを加え

口をきく間も
ないうちに

きみの植物は
この部屋を覆い尽くした
 
 



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気の近くなる人(テイク3)
 ピクルス

 

夜のうちに散らかった灰を片付ける
紙に繰り返し書かれた名前は
囁くように謝りながら消えました
頭痛の速度で焼けてゆく朝の近くに
余白、ひかりのはな
未だ、瞬きが沈んでいる

枯れた葉脈がいとおしい
冬の朝に諦める睫毛
硬い水の魚達のまどろみ
水面に花が落ちる
あれからどのくらい
これからどのくらい

佇む人は、みな無口です
その垂れた首は涼しい色をしています
知らない間に銀の匙は折れて
欠けた耳、澄ませば水音の向こうに
勝ち誇った誰かの笑い声が通り過ぎる

鉄塔に刺さった夕陽の色は
淋しい窓という窓に煙突を映す
暮れてゆく古い街並み、その翳は
ふくろうの翼に似ています
助かりたいと思うなら黙ったりしないだろう彼女も彼も
あれからどのくらい
これからどのくらい

まずしくても安い酒を抱く
天井の木目から咲く花は
端から端まで水で縁取られている
魚達が眼を瞑るから
漸く夜を迎えることができる
タオルの端を握っていないと眠れない掌たち
すぐに覚めてしまう夢だけが起きている夜です
あれからどのくらい
これからどのくらい

骨なんかなかったように
骨なんかなかった




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pic/北城椿貴
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