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ロックンロールミュージック
 クマクマ



白い旗をふっている人間がいて、
黒い旗をふっている人間がいない。
白いかごをゆすっている人間がいて、
黒いかごをゆすっている人間がいない。


大きなものに、小さなものを入れて、
明るくなるように運んでいく。
本は箱につめて、箱は荷台にのせて、
どこまでも続く道を走っていく。
その中に、しみやかびを育てながら、
森や海にまで、墓地にまで。


手にする豆はあの豆ではなく、
手にする魚はあの魚ではない。
あそこにあるものに名前を与えて、
わたしをみとめてもらわなければならない。
血を重ねて、しずめて、
この後ろにかげの悪さを、みにくさを描く。


楽劇が始まる。
乞食もうすのろもさんざめいて、
目に見る、指にふれる、完全の方向へ、
自らの丈を伸ばしていく。
新しい文字になって、新しい言葉になって、
かさぶたの下にくがねの皮を作る。


引力を克服することが、
人間の負う命である。
日の落ちて、
変わる状況がそれを特定しても。
そう云えば、豆の名前は。
そう云えば、魚の名前は。




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靴音
 安斎修羅
 


オールスターハイを履くということはとてもシンプルな僕の生き方のひとつだった。僕の足は日本人にしてはそこそこに大きい方だったし、僕の服装と思想は概ねロックンロールに傾倒していた。だからナイキを履くためにいちいちビームスで洋服を揃えたり、グラビスを履くためにだぼだぼのジーンズを買いためるようなことをするのは些か手間がかかった。それになんとなく、僕はいつだってトレインスポッティングで居たかった。部屋に散らかった襟の黄ばんだシャツやろくでもないリーバイス(勿論リーバイス自体がろくでもないということではなくて)を適当に見繕って身に纏い、頭の中にイギーポップやらアンダーワールドを爆音で装備する。近所のスーパーに買い物に行く束の間だってロックンロールし続けたかった。多分それは僕が男の子だからなんだろうし、女の子がオールスターハイを履くこととはきっと多分かなりの確率で違っていると思う。第一に僕はロックンロールすることを楽しんではいなかったし、「なぜロックンロールしているのか?」と訊ねられたら「生きるためにはそうするしかないから」だとしか答えられない。それは例えば魚に向かって
、「どうしてお前らは毎日泳いでいるのか?」と訊ねることと同義だと思う。僕はロックンロールというフィルターを介さなければこの現実に存在しきれないし、魚たちはあの真っ赤なエラを介さなければ呼吸することもままならないのだ。もちろんそこに喜びはない。ある種の先天的な哀しみはあったとしても、胸を焦がすようなパトスは満ちてはこないのだ。

再びオールスターハイについて。

僕の下駄箱には12足のオールスターハイが並んでいる。そのほとんどが黒か黒に近い配色のもので、生地はキャンパス、レザー、エナメルと揃っている。その中でも一番古く、一番履く頻度が高い一足をあげるならば、それは2003年の冬に買った、オーソドックスなキャンパス地の黒いオールスターハイだろう。そいつは既にほとんどゴミ箱に片足を突っ込んだ靴下みたいになってはいるけれど、その薄っぺらい靴底で踏みしめるコンクリートの硬度は、僕に現実的な存在の接地感覚を与えてくれる。冬の路面の冷たさや、夏場に緩みきったアスファルトの弾力を感じるとき、僕はルー・リードみたいに、気持ちのいい明後日の方向へ精神を尖らせて笑うことができる。そうなったらもう犬の糞を踏みつけようが落雷に見舞われようが全然平気になってしまう。僕は僕自身の人生を放り出して現在の意識だけでいられる。しみったれて年金を受け取りながら入れ歯の具合を心配するような未来を想像しなくて済む。寧ろこのまま居眠り運転のベンツにでも轢き殺されて、オールスターハイを履いたまま死んでいければどれだけ幸福なんだろうかということで心臓が駆け出していく。僕に
とってロックンロールは最速のレクイエムだったし、加えてオールスターハイは明確な死のアイコンであり、単純な僕の墓標でもあった。そのお陰で僕はほとんどがくたばりかけていて、だからこそまともに生きることができるのだ。そいつを狂ってるかどうか、誰かに見極めてもらう必要もないくらいに、ね。




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創生フラクタル
 榊一威
 
空白で埋めた空間、空気の振動さえ、
波、さえ届かない、キミへ

片隅で考える、繰り返し繰り返し訪れる記号に、困惑しながら呑み込まれてゆく、
具象はカタチがありすぎるのだ、この先はみえないけれど、
加速のつく思考が、光を追いこす日が来るのを、夢みて、とまらなくなる、

先に行くキミへ、温度が下がっていく空間の、なかでひらめく思考の、声を聞いた、
足痕がきえてゆく、のを黙認して、此処は夢のどの地点なんだろうと、おもう、

振りをしないで、過ごせればいいけど、立ち止まらないから、時は止まらない、
出口―――がみえない、
未来は何処からくるのか、教えてくれませんか、哲学者さん、
薄暗い空を見上げながら、針は進む、揺らぐ姿、陽炎のような、シルエット、
手を伸ばすよ、だから、掴まえて下さい、

数式の向こうで、定まらない現象、儚く散らばる、記号たちの傍に、生きたいのです、
傷つけたのは、キミじゃなくて、ここに佇む、どこにも行けない動物、
この方程式を求めて、抱きしめて、偽る、
信じたいのに、消えてしまうよ、

何をみても、なにも感じないココロを持って、枠を飛び越えた闇の住人、
このごろ、うまれてきたことを忘れる時が、増えている、それが、何故なのか、
呼吸したって、答えにも、コトバにも、ならない、
そうやって、流れる泪は、しっているのですか、はじまりの音を、
戦慄の旋律、
震え、響き合う個体を数えて、繰り返し繰り返し与えられる、性を、
それさえ、気づかないんだよ、

タブレットに書き込むコトバだって、それは、キミの望みだったですか、

回帰していく、重力に沈んで、光と並列に飛ぶ、キミは、
単純に、カオスに向かう、
永遠というのは、それは、カオスだとおもう、其処に回帰するのだ、
世界は、簡単に抜けられる、虚像のホログラムなのだから、

まぎれては、シグナルを放つ、数えきれないプログラム、
透明な宇宙の中を、思考だけが流れてゆくよ、そして、計算された角度から発射されては、
記号となり、意味とカタチを持ち、降りてくるのだ、

キミは、叶えててくれますか、
この空間上で、出逢うだろう、コトバを巧くキャッチして、

創世の一部始終を、教えてくれますか、


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無題
 漆子





頭の後に左手が繋がっている

制服の皺と君が繋がっている

生白い腕が生んだ変な鳥が壁を行進しているのと
今夜のカウンタ-は繋がっている


水っぽい目で傾けられた顔では
ここでは
藤色のグラスから金色が
白い車が
売れない家の広告が
無免許の40歳が
土手南瓜が

遠いのが淡いのが
終ったのがしまったのが

ダラダラに滲む
お母さんの一面です






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雨舞踏
 及川三貴




器の底に僅かに残る水を
飲む頃に 雨の平原
遮るもののない近さに
後ろを振り返る
遠い山々から
無秩序な強風が
長い旅を続け
軽いものを巻き上げた
道の跡に午後の
どこか沈んだ退色
濡れた口元を拭いもせずに
浅ましくねだっている
いつか解けた指が
雨を静止させて
地を離れる踊り
円の中に足をつけないよう
大気も同時に動き始める



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