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グッバイ・マスター、マス・ゲーム・グッバイ
 ホロウ

きみが欲しいものはいつでも
都合よくかたちを変えてくれる夢さ
きみがちからを失くしたときに
そっときみに寄り添ってくれる夢なのさ


はげしい雨のあとのはげしい木枯らし
コートの襟をたてて歩くことは
もう時代遅れのやせ我慢になってしまった
いまじゃ薄くてもあたためてくれる
安価なシャツがそこいらで売っている
きみたちは冬の寒さを知らない
かじかんだくちびるで語ろうとするこころを知らない


きみが欲しいものはいつでも
ちょっとしたエンジンがついてる自転車みたいなものさ
つらいときにはスイッチをポンと押せば
坂道なんてなかったみたいにすいすいと進むことが出来るやつさ


真剣さについて語る時はいつでも
異常なほどの知識や攻撃性をアピールする
運動力学を学びまくったから
とてもはやく走ることが出来るんだぜ、なんて
そんな調子の自信でなんぞやとか語られても困るんだぁ


悪いけど乗れないな
悪いけど乗れないよ
毒を混ぜたぶんだけ
いろどりがきれいな料理なんか口に運びたくないよ
レシピはきっとウンザリするくらいよく出来たものだろうけど
意図はきっとすべてを不味いものに変えてしまうんだ


はーい、素敵だねそのシャツ、どこの量販店で買ったんだい、こちらの目をクラクラとくらませてくれるシャツだね、おまけに冬でもすごくあたたかいんだろう?夏のシャツみたいに薄くてサラサラなのにね、いくらだった?ブラウンのヤツあるかな?給料が出たら買いに行こうかな、でもな…それ、いまごろじゃみんなが着てるんだよね、きっと


きみが欲しいのはそれさ
共有出来る便利なヤツさ
マス・ゲームみたいに
共同の幻想で素敵なヤツを築き上げるつもりなんだ
みんなでこっちを向いて!
向いてないヤツを笑って!
こっちだよ!こっち!


全員が同じ方を向いたときの目つきが
気持ちが悪くて仕方がないよ
変幻自在、千差万別、八方美人の可能性
赤い旗と白い旗は持った?それじゃあみんなでグラウンドに駆けだそう


あ、おれ
トイレット、なんて言って
マス・ゲームからは完璧におさらばさ
きちんと洗った手を拭いて
ハンケチはたたんでポケットにおさめるのさ


きみが欲しいものはいつでも
都合よくかたちを変えてくれる夢さ
おれはグラウンドを裏門から抜け出した
グッバイ・マスター、マス・ゲーム・グッバイ
クロスロードで周囲を見渡した
本当に必要なのは
どちらに向かって進むのかということなのではなく
どこかに向かって進んでる自分に
どんなものを求めるのかということさ
グッバイ・マスター、マス・ゲーム・グッバイ
十字路の得意なロバートに叱られないうちに
東西南北のどれかひとつと
ぐっすり眠れそうな寝床のチョイス


それだけ
決めておくこととしよう



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だるまさんがころんだ
 時渡友音

 
重たいランドセルを背負って
明けたばかりの
不安定な朝の冷たい空気を吸い込んで
並んだ街路樹の隣を歩く
柔らかく濁った暖色の葉が落ちる
一枚、一枚
後ろに渡されていくプリントの中に紛れた白紙を
どうしても捨てられず
机の中に溜め込んでいた
食べきれなかった給食を運んで
日の当たらない北階段を
一歩、一歩
後ろを向いたままのあの子に近づいて
振り向くより先に
烏が鳴く前に

 筆箱の中に押し込んだ
 回ってきた手紙
 指をさすのが辛いなら
 手をとってやればよかったのに

陽の落ちた帰り道
震えながら
街灯の青白い灯りを伝って
電線の上に整列した烏がじっとこっちを見ているような暗がりは
正面から背後から頭上から足下から侵食してくるから
明るい方へ逃げているのに
いつまでたっても家が見えてこない
あの子の後ろ姿ばかりがちらついて
暗がりからは無数の鳴き声が絶え間無く耳を突き刺してくる
煽り立てる木枯し、遠吠え、白い月、走った、
(空から滑り落ちた星々をなんとか避けながら、
赤信号に立ち竦みながら、
十数えて振り返ってしまう前に、)

ただいま

居間の明かり
寄せ鍋の匂い
振り向く家族
窓ガラスに映る
泣き出しそうな顔
取れなかった手
離れていく

独りぼっちの公園で
木の幹に顔を伏せて
落ち葉を踏みながら


 


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stand by a friend
 ただならぬおと
 


触れ合いたかったあなたの手が
僕の貸したシャーペンを厚く丸めこみ
か細い芯を吐かせ、潰し
吐かせて
潰す
文字にもならない筆跡
あなたはすべて聴き逃しても
何かを見過ごす積りはなく
この教室には窓だけを
視つめるために居る

生まれる何に期待をし
僕に希求したのだろう
あおむけた手のひらから力尽きていく
あらゆる消滅の茎に華をひそめ
人は数ある人のうち
一人の人間としか
歌も
思想も分け合えず
ときには体ばかり
分け合おうとする

白い視界の中に映り込む
黒を悉皆、瞳というならば
そのようにして色めき立つ白黒の人々に
掲げた日もいつかの日々のまま、いつか
まばたきの間に消えてゆく
それでも、

 見えた
それでも、何も、見えていなかった
ただ空に流されていく何かが
 見えそうになった
それだけの理由で
あなたの丸まった背中には
どうか僕だけを
僕だけを乗せて
飛び立ってほしい

その時に
あなたを含むすべての
味方でありたい
僕は
生まれ持った 銃口を
あなたに突き宛てたまま

すれ違ってしまえば
所詮、それは目的ではない
フードに眼を収めた
ウィンドブレーカーの男だけが
兇器を隠しているのだと
まだ
飛び立った僕らには
信じていられるだけでよかった

そんな僕の後頭部には
あなたが
教室の窓から
見えないライフルの照準を
変わらず合わせ続けていることと思う
そうしなければ守ることができない僕も
あなたを僕を、あなたも


 


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息を吐く
 黒木みーあ



 
窓の外
ふるえていた風が
いつの間にか足元を這い回り
行き場をなくしてうろうろとしているので
夕刻、わたしは
ゆるやかな地平の傾斜に沿って
飛び込んでくるひかりの粒の中
内側へ少しずつ
丸く なっていく
  
そんな ふうにして 
またひとり
人がいなくなったと
音のないニュースの字幕は
寂しいことばかりを隠そうとするから
六畳の
畳の上では燃えはじめた陽の色が
どんどんと
濃くなっていく

目の、奥の奥の深くの方では
なにやら得体の知れない生き物が
騒ぎはじめているというのに
わたしはいつまで経っても
覚束ないまま


 
産声を上げない朝には
季節が
芽吹くことはなく
寄りかかる砂壁に
忘れてしまわないようにと貼り付けにした
思い出の四隅ばかりが
色褪せていってしまった

ぽろ と、畳の隙間には
どうしようもない程の砂粒
が散乱していて
わたしはほんとうに
ほんとうに
どうしようもなくなってしまう
から、

夕刻
にいつもわたしはひとり彷徨って
辿り着いたところで今よりも
少しだけちいさく丸くまるまりながら
息を 吐いている

 ふー 
と、陽が
地球の裏側に
落ちていくまで
息を 吐いている






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帰り道
 如月
 

夕方
もうすぐ保育所が終わる時間なので
僕は支度を始める

テレビでは
低周波シグナルで腹筋が鍛えられるという
いかがわしいダイエットマシーンのCMが
いかがわしく流され続けて
どこかのアスリートが
素晴らしい腹をさらし続けていて

どこの家の犬かは知らないが
いつも鳴いている犬がいて
保育所の駐車場は
お迎えの車と家族でいっぱいだ
誰のお母さんかは知らないが
いつもすれ違う
黒髪がしなやかになびく
綺麗なお母さんの事だけは覚えている

さようなら
さようなら

息子のいる小さな部屋
(いや、子供らにとっては
広いのかもしれない)
に迎えにいくと
いつも息子は
おもちゃに夢中で遊んでいるのだけど
僕を見つけるにつけ
泣き叫びながら走ってきて
抱き付かれると
やはり嬉しいのだけれど

いつも手を繋いで帰る
帰り道には
サビついた鉄塔と
給水塔があってそれらが
夕焼けに照らされて
いっそう
美しくサビついて見えるのは
どこか僕らに似ていて
息子が何故いつも泣き叫ぶのか
という事について考えている
僕のとなりで息子は
覚えたてのアンパンマンマーチを
懸命に唄い続けている

もうすぐ
不妊症、のはずだった妻が
素晴らしい腹を抱えて
産婦人科から帰ってくるというので
僕らは
一斉にあらゆる支度を始めて
息子はいつも新しい
覚えたての唄を
懸命に唄い続けて
廃品回収の声が鳴る道を
僕ら
手を繋いで歩いている
 
 
 


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