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スプリング・エフェメラル
 リーフィア


はなかんむり
たくさんの瞳が手折られ
編みこまれている
抗うことのできない指を
湿った土のなかに埋め
幾つかのタームで
まじないをかけた

ぼくは小さく丸く
なってここは
どこだろう暗くて
サーカリズム
ほんとうの照度は
円を描く腕に
根こそぎ奪われてしまった
流れていく心音に
耳を澄ませながら
充たされる頃には
深く眠りこんでいる

(つめたい)
あかぎれだらけの
指さきと
摘みとられた花弁
複眼は温度を越えて
水をくぐる
暗闇で手足を伸ばす
弱い羽が
開く速さで
過ぎ去っていく
蜂の巣状の季節

不揃いなかたちを湛え
摘みほろぼされた花弁が
敷きつめられた土のなか
あわい日差しを浴び
目覚めさせられていくぼくを
殺めていくひとの群れ
織り込まれた瞳
ひかりの熱で孕んだ
つちを口に含んで
真水をください
ウスバカゲロウの花、
咲いて
(気が付くと消えた)

(ひかり)
ひとの隙間から掠め
乾いた喉を
暗がりに押しつけた
これがひかりだ
薄羽がふるえ
か細い熱の喘ぎから
ぼくが
負わされた、
はなかんむり
投げ込まれた
音階に
垂直に影が落ち
足下から崩れていく

指さきが水脈を押さえ
羽ばたきが弦を弾く
サーカリズム
ひかりある朝と
ひらかれた季節に
追い立てられるようにして
羽をひろげた
ウスバカゲロウの花、
真水をください
殺められた人の群れ
たくさんの瞳を列べる
眠ることをしらないひかりと
眠るべく奏でられた
子守歌
たくさんの墓標が
ひかりのなかに群生し
過ぎていく朝の底で
ぼくだけが束の間に
眠る





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ちがうみち
 ポエコ・ポコ


 小ゆびを切るくさで編んだ輪を
 かみにのせて
 する約束はいつかの
 わたしたちの絶交のため

 はなうたよりもかるい
 つもりで走って
 いってしまうひとのはずむからだ
 は追わなかった

 ひしゃげた
 花を避けよろめく自転車
 耳もとすぐそばで風が吠える鼓膜がさけてもただ前へ

 おどるハンドルを
 つよくにぎって国境をこえると
 わたしたちまち
 どんな気持ちもおもいだせなくなる








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廿度の黎明
 ただならぬおと

 よろこびを酸く迎えいれたい、沁みるように痛むこの全身にも。わたしを模った羽のない金糸雀が、すりきれそうな風を首に巻き耳まで牽いてきてくれる。絞りだされた子守唄のようなかなしみが、醒めた眠りのなかに薔薇色の水音を起てて、ふるえる金糸雀の頭上へと微熱の千羽鶴を披く。
「その夢を左右する病的なまたたきよ、決してわたしにうつむくな、決してわたしにふりむくな、おまえが何処へでも進めるのなら、わたしの居ない前方だけをめざしてゆけ、孰れそこへわたしが追いつく」
 傲然とそう告げて、煙っていた天使型の背にかくれると、わたしの影は怯えながらわたしの動向を窺っていた。ふっと息を吹きかけて黒煙を砕いたら、すべりおちたわたしの影は不用意なサーチライトを浴びて溶けてしまった。
 わたしはそこで目を伏せ、自分の針金のような形相《かお》を痛みつけて束ねる。情を表すために遣うのは、曲がらない強さと、曲がるまでもなく曲がっていたことで見せられる弱み。その両方ともじっと伏せたままでいると、相対性を失くせる夜道に影も体もなくわたしは突っ立っていた。肥えてもか細い愛しさを、それでもわたしは、まだ感情のように抱いている。他に唯一喪えなかった金の指環を握ってはいるが、変質した愛しさは今やその輪に通せるかどうかも判らない。ただ、愛しさを指に喩えてみようとしたことで、わたしは、わたしだけの痛みにぐっと触れることができていた。痛みはこの指を嵌め込むため、初めから窪んでいたようだ。そしてついに、あらゆる譬喩《ことば》ごと指環を捨て去ったとき、わたしの焦点は月に穴を穿ち、そこから湧く嘘のような光でなにもかもが満ちあふれた。

  眩暈

して
脳に
ささやかな衝撃
 拡散する軽々しい感応

 記憶の細胞をめくっていくうちに、漸くその光景が或る前兆だったのだと気付いた。
 わたしの重体で只でさえ身動きのとれなかった救急車が、これからはわたしの命まで運ぼうとして、喘いでいる。よるべないわたしの闇路、添ってくれるのはマンホールや道路標識ばかりで、ときどき割れたところから新たな光を産もうとして地面は破水し続けていた。そんな光の母子間を渡せなくなった愛の架け橋は、氾濫した天の川に意味もなく幾つも散らばり、感触のない放物線をアルタイルが泣いて振りまわしている。
 ああ、生きる人間の中で安らかに眠っている死体には心臓などなく、その心臓のことを、いままで流暢に誰もが心と呼んでいただけかもしれない。胸の内をじくじくと圧し拡げてゆく冷たい雪原に、いつの間にか遅速の救急車が追いついていて、横を走っていく白い毛の野獣たちで透明な道が時折り空色に翳った。とうとう光の冥利を尽くし霆になった益荒男が、地平に翳された氷の鋩を次々と叩き壊して途絶えていく。みだらなまでに捩じれた樹氷に儀式のファイヤーはことごとく縛られ、氷の葉から漏れだす祈りめいた呼吸を夜が白濁させた。なおも残像と分裂しながら、炎の腺からしぶいている火、その根もとは爛熟しているが青い。全貌としては、定まらない無数の視線の尖へ冷たい鉄ねを索め、汗まみれの触手を何度も伸ばしている。

つなげる手がどこにも無いと嘆けば
あなたの手が土砂降りになる夜だけど
手だけであなたを選び採るのは難しくて
わたしにつなげる手が無かったのだと嘆いたら
翌朝
わたしの美しい手がここら一体で密生していた
 さびれた迷路だか鉄パイプだか
 なんだってさびたものさえあれば武器にしてしまうだろう
 ぶっ倒そうとしても絶壁はカーテンだから可哀相に
 靡くものの方が美しい
 たまに撫でてみても罠など仕掛けられてなくて
 だんだんずり下がるわたしの影の肩
  憑かれても計るほどの量にはならないし
  計れなければ自分でも見えないから今に
  追いつくし追いつかれていくよ人なんて
  みんな他人とわたしで上手くできている

スポットライトがあてられるときには
星になってないと恥ずかしいし絶対星になってないと
と思って銀色をまばらに塗っていた胸をどつかれた
寺の鐘みたいに荘厳に鳴ってくれて
なんだかやっと報われた気もしたけど
一つきだけで砕けたわたしが
わたしには意外だったのだ

 墓石で埋められた街に着くと、救急車は到頭わたしを置き去っていった。しばらくは途方に暮れて、巨大な十字架の裏に放置されたまま顔のない基督教徒の密会を監ていた。不気味にも人影の絶えない駐車場。鈍く機動した私につられて、徐々にずれる原付の光沢は異様なほど眩しかった。
 葬列のようにどこまでも延びた街灯は一様に項垂れている。ときおりその足下に老人が崩れかかっているが、わたしの熱っぽくよろめく体はとても彼らに支えてもらえそうもない。わたしはついに、地面に寄りかかるようにして倒れこんだ。
 目を閉じて四肢をこすりつけたら、辺り一面が人肌のように湿っている。次第に足から体中にかけて耳が生えるような違和感が上ってきて、
抱いている問いが足りなくなるほどの無数の答えが、
耳孔から溢れ出していく
錯覚がする。つまりわたしにはもう自分を塞ぐ手が一つもなかった。かるく髪をゆすって熱風を振り落としたら、不意に夜空から蝋が垂れてきて両目の間で月光を灯した。

 このまま、殺意の底から湧きあがったような大地へ飛び立ってしまえるなら、着くまでに力尽きて私は神様のような窮地に堕ちたい。わたしの苦しみよそこに埋まれ、そして安楽な罠となれ。撤去しにくる優しい人らを一人残らず捕らえては、むくんだ両足を均すゴスペルとなれ。
    うつろいやすい
      色彩たちの、猛攻に、
     討ちやぶれたわたしの左目
    眠りが
     眼窩の奥で醒めながら、
   深いまま、土圭の底をよぎる
     母なる微笑とは、
    わたしを形作るための
   血色の砂でできた、父の見幕の皺、
    降り積もる赤い砂がとても、とてもあかるくて、居場所に迷うほど正しく導かれてゆく旅路で同じ人間だったはずの天使と悪魔がばらばらに逸れていった。
    出会いとは、
     わたしをしたたった
      この薄紅のしずくと波紋、
    別れのあとに白く乾いても、
   ふたたび寄り集まって
   いつの日か
   熱を帯びながら血のにじむような清流を成せる。そうして思い出してしまえば、もう二度と忘れることなど許されなくなる。別れてゆくならどうか近いまま、やって来るものは臨界まで遠い方がいい。触れ合いは融け合うよりも重ね合い、創跡で彩られた今日はこの足取りを濁さずにすんだ。はたから看れば取るに足らない発熱にも透かさず上気してそのうちどんな紛い物にも劣らぬ
わたしは沸騰する。

 街角に無人のテーブルが用意されて、皿の上には瑞々しい餞別の花がびっしり盛られていた。そこで猶予っていると、背後から顔のない女が数人やって来て、自分用の花束を楽しく作って持っていった。わたしもそれに倣い三本の薔薇を貰うと輝く角を曲がった。朝が焼けつくほどの目映い空が拓けて、細めた目には女子高生の駈けだす朝のシルエットが真白く映えていた。





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雪 少女と
 長押 新


ほほの 内側に ためて
移り変わりと 流れるような
冬を 吐く
たった一人で 冬を吐く
少女はまたまた うなだれる
口はまだまだ 開いたまんまだ
あんまり雪が 降るもんで
喉の奥から 凍ってく
そのうち 冬が死んでいき
少女はまたまた 生きていく
うでの 内側に 置いた
無言のままで 忘れるような
冬を 抱く





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the 1st
 榊 一威
分解して、分解して、わたしは何処にも行き着かない、

わたしをつくる物質は、主に有機物と気の遠くなる無機物。辿れば、カンブリア紀の脊椎セイブツまで遡るけれど。その昔、わたしは海のミネラルの中にいたらしくて。細胞分裂によって成長し、アポトーシス(細胞自壊)で終わり続ける、永劫のセイブツ。わたしは機械を分解するように、世界の物質をばらして躰の栄養素とする。食べること。それはカニバリズム(人食い)さえ、神聖なものになるくらいに、殆ど生き続けることだけを目的とした一番単純な。行為。わたしは、物質を分解し、分解してわたしの躰とし、またわたしは、自ら分解され、無意識のうちにバクテリアにまで細かく捨て去られる。残骸は。すなわちわたしは、無害で無駄なセイブツだ、生物学的に云えば、わたしは何処にも行き着かず、何処にも辿り着かず、代謝だけして終わる。しんぷるいずべすと。な、不可解なセイブツだ。何故生きているのか、愚問だがそんなことも解らないわたしは、きょうも静かに分解している。わたしの愛犬に尋ねたら、生きることが生きている理由だと、哲学者ぶった答えを返してよ
こした。彼はわたしより高等だと、おもう。


 * 取扱説明書が必要です4

電子や中性子になるともはや、
ab=baは成り立たない、ので、す、
質量も位置も解らず、
正体不明のセイブツの塊、
のくせに、何故か秩序立っていたりもする、
この世界は、そう遠くなく、
滅びるでしょう、
それでも、分解を続ける、全ての生命たちは、
歪んだ空間の途中で、
違う次元で、出逢うでしょう、
そのとき、混沌に回帰するのだ、
もはや、すべての式は、
成り立たなくなる、のです、


わたしの細胞が、語る、

どうしてこんなふうに進化したのか、わたしは食べる為に生きている、躰は分解されたがっている、それがセイブツなら、わたしは終わる為に生まれてきた、ただ子を残すことだけを命令されて。わたしは眠り。腹が減ると食べ。分解し排泄する。行為をそれだけは何の進化も遂げずに。今まで凍結されてきた本能。捕食してまで生きなければいけない業の深いセイブツ。我が哲学犬は云う、本能だけなら、殺しあうことも、悩むこともなかったよね。我々は死ぬ為に生まれてきたのだよ、たぶんヒトにはわからないとおもうけれど。細胞は自ら壊れていく、骨が新しい細胞を送り出す、物質は分解され続ける、それがエナジーにもなる。セイブツの限界というか進化の限界値が迫ってきているとおもう、もうこれ以上進めないのなら、無茶もしてみたらいいのに。犬はそう云うとそっぽをむいた、何にも残らないのにね、この宇宙の中にも、そのなかの一つの星の歴史にも殆ど何にも残らないのにね、ヒトはどうして生まれてくるんだろうね、芥川くんの河童のように、うまれる前に選択ができれ
ば良かったのにね、でもそんな、いふ、は要らない、わたしはきょうも摂取し分解し排泄を繰り返
して、この塵にも満たない文章を誰の為にでもなく書いている、もうどこにも行けない、わたしは、ヒトというものは生まれながらに殺人者なのだから。

気づかなければ、良かった?
無意味という意味
を、悟って、わたしは、




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