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 腰越広茂


私は、
有形の門を通りすぎ透けた暗さ
届かぬところへしみる幽かな終止符
行方知れずの墓
墓標は名無しの波止場
船は無人で行き交う汽笛
宙をつかんだこぶしをひらいて
手をふりつづける 永さ
私の時は、その光にみつめられている

限り無く終わりつらなる
ささやきに耳をかたむければ
丸い水平に直立する石造りの
時計台はしろがねの鐘を鳴らす
ひんやりとかたい産声の響く晴空へ
黒く大きい蝶がしのびやかに消えていった

ふりかえり帰りつくことの出来ない夜空
時は、待ってはくれない。
林の陰の道にある
水たまりに映っている影に
しずくは落ちて 落ちて
波紋はゆれて ゆれて
予測不能な運命を
進む 影無き影
私は誰か、と問えば
うしなわれてしまう
鏡を割る、時間

入り組んだ小道を
冷たい月影は照らす
冷えた小道に落ちる
   空の闇に銀糸の道化
   はようねむれむかえにくるぞ
白目むきいそぎなさるな、とそよぐすすき
みわけみつけられず(己の影とも夜の闇とも
あきらめよう、としたとたん
ひらきはじめた扉重く 重くきしむ
影独り くぐり





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全知全能
 鈴木澪



(あなたのなまえ、
 学名より、和名のほうが、好きよ)



ぜんちぜんのう、の かみさまと
ともだちになったのだけれど、
かみさまはあそんでくれない

生まれたときにはみんな、深海を持っている

真っ白い壁と床と
真っ青な空に囲まれた
明るく無響の部屋に
ただひとりでいて、
そしてちいさな三輪車が一台
不機嫌な角度に配置されていた

真っ白い床がぱかりと割れて、
ざぶん、
と音を立てて落下したのは水槽みたいなプール
(実際に水槽だったのかもしれない、)
(水族館の、)
(わたし、みせもの、だったのかもしれない、)
生きることと泳ぐことが直結していた
――何百年か後に、もうひとり落下してきた

肌と肌が触れあえば、
そこから融合がはじまります
ただじっと、
ただじっとしていればよいのです
とくとく、と波打つ
わたしたちを繋ぐ配線と
白い肌の連なりが
見えますか

プールから這い出る用意ができたとき
逃げだす用意ができたとき
街は広がり、

あなたの回線をこちらに回して
世界はせかいであることに疲弊して
午前三時はまだ停滞している
わたしはあなたであることに停滞している
あなたはあなたでありつづけることに停滞している
わたしたち以外にひとひとりいない街

だれもいない図書館の隅の陽だまりで
わたしたちはお互いの名前を呼びあった


(あなたのなまえ、
 学名より、和名のほうが、好きよ)



信号だけが明滅している
あなたの回線から見る風景はまっさらで
ノイズひとつない
わたしたちは
お互いの配線の接続を確かめあって
お互いの耳を塞ぎあって
息を吸う/息を吐く をくりかえした
祈るように

白い街
(乾いた、ひかり、
白い服
(風に、なびく、
白い手
(血管、透けてる、
白いくちびる
(さいごのひとことが聞こえなかった、
白い、かみさま
(爆風はやさしく頬をなでる、

ねえ、かみさま
あなたの存在しないその躰を
わたしがあなたにあげたって、いい
この躰を差し出したって、いい
あの頃の深海を、
携えてなくったって、いいでしょう?
わたし、もう、失くして、しまった


(あなたのなまえ、
 学名より、和名のほうが、好きよ)




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茜色
 及川三貴



日差し
西側に深く傾いて
水平線の手前
あの焦燥の中で
握る掌は粘って
開くことを引き止めた
私はその時反対側の手で
スカートの裾 
飛沫が掛かるほどに
石を投げ込んで
あかねを表す言葉も知らず
ただ焼けた背中を気にしていた
沈み込む音耳から離れず
訊ねた帰り道を
覚えようともしなかった
音をたてて進む針が
柱に掛かっている
あの家で消えたあなたの手を
今でも繋ぎたい
汗を擦り付けるように
握った石は
こんなにも海へ沈んでゆく
そうして底にも辿り着けず
石の呼吸をずっと想い描いて
塗りつぶして
あなたくらい大きくなって
錆が這い始めた
手を眺める
今は誰もいない水場
管を流れる
唾液の音で
ようやく
石が 石から
産む孤独を
知ったのよ




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冬の甲羅
 紙野


詩なんて
好きじゃない君が
裸になると
本当に痛そうで
テレフォンショッピングの「これ、ひとつ、あれば、大丈夫です」って言葉を
思い出した
僕に嘘を教えて
大丈夫な事があるなら
こんなに冬が寒くても
君が痛そうには
見えないはずなのに


「これ、ひとつ、あれば」僕には
わからない言葉で

寒くて
動きたくないと
毎日、僕に
言われても
厚着をしない君を
どういう言葉で
騙したり、包んだり
すれば、いいのか
これも
わからないのです


手元にあった
言葉を探して
家中を漁って
みたのですが
冷蔵庫の中が
からっぽだと
知っただけで
諦めました。


渋々、買い出しに行く
君はやはり、痛そうです
脱ぎ捨てられた
甲羅の上で
みかんが転がっていった

「これ、ひとつ、あれば」
わからない言葉のままで
僕も転がっていく
君の裸を、おもい
冬の甲羅の
なかで
そとで





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うそでも見る
 クマクマ


たばこを吹かして、アイスクリームをなめて、
男の子の女の子の、女の子の男の子の、
死んでいるハムレットの記録を見る。


目に見る結果で死なないから、
空腹に困らない。
淑女や紳士が、大きな哲学を連れてきても、
彼らの手は二つしかなく、
頁を開いてくれるまで、
その中のどこからどこまでが臆病なのか、
どうして狂っていないのか、
教えてくれるまで、待っていられない。


目を動かして、ここを巡っているものを見る。
あれは人のかたちをしていないから、
虹が見えない。
ここへ、市場へ、
国へふりかかってのたうつ魔法に慄けない。
色の美しさをわからない。
あの暗がりで、死ねない犬や豚は、
食べても食べられても残らない。


人でなしをなぐったり、キスをしたり、
そんな情緒が、生活に風味をそえて、
見るに堪える芸術を作る。
青い怪獣の、白紙を踏みにじって、
いっぱいのやわらかな突起に変えていく中へ。


次に、子を食べる親よりも勇ましい、
わたしの闘争を見る。
それから、にきびができないように、
顔を洗って今日を終える。



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