・
水を渡せ神々
ここは言霊<ことだま>の国
飛鳥を知恵で満たし
大陸を近づけろ
非時香果<ときじく>の実のなるところ
やまと美<うるわ>し
斑鳩の白き道のうえに
春の陽射し
豊聡耳<とよとみみ>の理想<ゆめ>
───────
───────
・ときじくのかくの木の実・・・・・・垂仁天皇が求めたという不老不死の果実。タチバナだと推定される。
・豊聡耳・・・・・・聖徳太子のこと。
斑鳩は法隆寺の建つ地で、飛鳥とは離れているが、太子は愛馬の黒駒で通勤していたというから、ひとくくりにしてください。
─────
─────
00117
・
目覚めるまえに思い出して
このわたしの面影を
起きてもいない寝てもいない
そんか時にきっと
目覚めるまえに思い出して
わたしは夜会いに行く
遠い姫路の空を越えて
あなたが呼ぶならば
古里はいま 古里はいま
丈を競う草木
暦を越えて 季節を越えて
伸びる若い芽
・
・
目覚めるまえに思い出して
幼なじみのわたしを
心のままに風をおこす
ことができるならば
目覚めるまえに思い出して
あの時かけた呪文を
昔のように涙みせて
悔やみきれぬほどに
古里はもう 古里はもう
悲しみのない光
言葉を越えて 心を越えて
あなたに会いたい
─────────
─────────
00116
・
懐かしむような
イナサの風が吹く
筑紫野に春の花を呼ぶ
アヅミの心に刻まれた
あえかなサナギの歌
歌わせる
旅人は故郷に立ち止まらない
風待ちは必ず終わる日が来る
ワタツミは潮路に舟霊(ふなだま)を招(よ)び
神々を小舟の舳先(みよし)に祀(まつ)る
海の果ての邪馬台(クニ)を目指せ
天ツ筑紫野は弥生の風の中
──────
イナサ・・・東南の風
アヅミ・・・海洋民族
サナギ・・・銅鐸みたいなもの、楽器
ワタツミ・・・海の民
──────
00115
・
大袈裟なほどハンドルを切る
水面に刺さる大粒の雨
いつか見た空 思い出せない
ひとりで探す私の希望
力を分けてくれるなら
たとえ悪でもかまわない
・
・
泣けばよかった 泣けた季節に
まぶしいほどに過去は輝く
切れ端ばかり集めたような
意味のない都会(まち)走り抜けたら
力でねじ伏せてしまえ
名前で呼べるもの すべて
力で滅ぼしてしまえ
言葉にできないものまで
──────
──────
00114
・
経済学部のあたりは
風が真夏を連れてくる
学生通りを渡って
私の窓に吹き寄せる
不安な心のまま
この町に来ないでね
ためらう言葉なんて
定義不能だから
わかってくれるなら
帰去来(帰りなん、いざ)片淵へ
わかってくれるなら
◆
◆
済生会の門からは
悩みのない空が見える
杖がわりの乳母車で
年寄りたちが闊歩する
彼女を想いながら
この町に来ないでね
未知数の愛なんて
二律背反だから
わかってくれたなら
歸去來(かえりなん、いざ)片渕へ
わかってくれたなら
────
────
経済学部・・・長崎大学経済学部
済生会(さいせいかい)・・・総合病院の名前
────
────
00113