エターナルゾーン日記板


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[68] By TUINDAYO
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 マーサルは家の前に立っていた。

 見慣れているはずの扉。

 何度も開けたことがあるはずの扉。

 それなのに、今はまるで見知らぬ家のように感じた。

(覚悟を決めろマーサル)

 拳を握る。

(家に帰るだけだ、そうだ)

 息を吸う。

 吐く。

 それだけのことが、妙に難しかった。

(..いくぞ!)

 コンコン。

 乾いた音が夜の静けさに響く。

「はぁ〜い、こんな夜に一体誰かねえ」

 中から聞こえてきた懐かしい声に、マーサルの胸が小さく跳ねた。

 足音が近づく。

 そして。

 ガチャ。

 扉が開いた。

「お..おっす」

 それしか言えなかった。

 マーサは目を見開いたまま、しばらく何も言わなかった。

「..........」

 時間が止まる。

 次の瞬間。

 バタン!

 扉が閉まった。

「...」

 マーサルは固まった。

 数秒後。

 ガチャ。

 もう一度、扉が開く。

「..入りな」

「...おう」

 マーサルは小さく頷き、家の中へ入った。

 バタン。

 扉が閉まる。

 懐かしい匂いがした。

 火の匂い。

 木の匂い。

 家の匂い。

 それだけで、胸の奥が締めつけられる。

「座りな」

「....うん」

 マーサルはぎこちなく椅子へ腰を下ろした。

 マーサは目の前に立つ。

「今まで....」

 その手がすっと動いた。

「うわっ!?」

 次の瞬間。

「なにしてたんだい!!このドラ息子!!」

 バシン!

 鋭い音が響く。

「わっ!?や、やめろって母ちゃん!悪かったって!!」

「このっ!このっ!!」

 ベシベシ!

「ギャーーー!!ケツはやめろって!!」

 マーサルの悲鳴が家中に響いた。

「お母さん!なに!?」

 奥の部屋からジービィが慌てて飛び出してくる。

「ごのっ..!!」

 マーサの声は震えていた。

「連絡もよこさないで..!!」

「キャアアア!ちょっとなに!?////」

 ジービィは目の前の光景に顔を真っ赤にする。

 シービィも遅れて現れ、無言でその場を見つめていた。

「....」

「ほんと悪かったって!」

 マーサルは必死に逃げようとする。

「ちょ..恥ずかしいからやめてくれよ!」

「あたしがどれだけ心配したと..!!」

 その言葉に、マーサルの動きが止まった。

「母ちゃん..」

「あー!」

 ジービィが指を差す。

「さっきの不審者!」

「誰が不審者だっ!」

 思わずツッコむ。

 シービィはマーサルをじっと見ていた。

「....」

 マーサは涙を拭いながら、二人へ向き直った。

「うっうっ...シービィ、ジービィ」

 声が震える。

「あんたたちのお兄ちゃんだよ」

「えっ...!」

 ジービィの目が丸くなる。

「ウソ..!」

 シービィは小さく頷いた。

「うん」

「し、シービィ」

 ジービィが慌てて振り返る。

「あんたもしかして気づいてたの..?」

「ん」

 こくり。

 シービィは静かに頷いた。

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 少しだけ落ち着いた頃。

 マーサルは二人の妹を見つめていた。

「そうか……」

「お前たちが、シービィとジービィなんだな」

 言葉にすると、ようやく実感が湧いてきた。

「俺の..妹」

 マーサは鼻をすすりながら台所へ向かう。

「マーサル、お腹空いてるだろ?」

 いつものような口調だった。

「なにか作ったげるよ」

「ああ」

 マーサルが頷いた瞬間。

「うわああああん!」

 ジービィが飛びついてきた。

「おにい”ち”ゃ〜ん!」

「おっと」

 マーサルは慌てて受け止める。

 ジービィは泣きながらしがみついた。

 その横から、シービィがそっと近づいてくる。

「...///」

 ぴと。

 小さな身体が静かに寄り添った。

 マーサルの手が二人の頭に触れる。

「おっきくなったなぁ、二人とも」

 喉の奥が詰まる。

「俺のこと、覚えてるか?」

ジービィは少し困ったように眉を下げた。

「……ごめん。覚えてない」

「そりゃそうだよな。赤ん坊だったもんな」

「でもね!」

ジービィは顔を上げる。

「お兄ちゃんの話はずっと聞いてたよ!」

シービィも小さく頷いた。

「ん」

 マーサルは笑った。

 それだけで十分だった。

「お兄ちゃん、足ケガしてる..大丈夫なの?」

 ジービィが心配そうに見上げる。

「なに、たいしたことねえよ」

 マーサルは軽く足を動かして見せた。

「心配してくれてありがとな」

「ううん..///」

 ジービィは照れくさそうに俯いた。

「ジービィ!」

 台所からマーサの声が飛ぶ。

「そこのお皿5枚並べちゃって!」

「はぁーい!」

 ジービィは慌てて駆けていく。

 家の中に、食事の支度をする音が広がっていった。

 懐かしい音。

 懐かしい匂い。

 マーサルは思わず笑みを浮かべる。

「久しぶりの母ちゃんのメシだ!」

 その時、ジービィが首を傾げた。

「あれ?お母さん一つお皿多いよ?」

 何気ない一言。

 それだけで、マーサルの胸が凍りついた。

 マーサは当たり前のように答える。

「なに言ってんだい、エマラの分さね

あんたが帰ってきたんだ、あの子も一緒なんだろ?」

「...」

 シービィが黙り込む。

「...!」

 マーサルは息を呑んだ。

 食卓には、五枚の皿が並んでいた。

 マーサ。

 マーサル。

 シービィ。

 ジービィ。

 そして。

 エマラ。

 この家には、まだ彼女の席が残っていた。

「マーサル」

 マーサが振り返る。

「エマラはどこだい?」

 その声はいつも通りだった。

 何も知らない声だった。

「あの子とは話したいことがたっくさんあるんだよ」

「母ちゃん...」

 マーサルの声がかすれる。

「お姉ちゃんもいるの!?」

 ジービィの顔がぱっと明るくなる。

「ねー、どこどこ!?」

「ジービィ..」

 マーサルは二人を見る。

 マーサを見る。

 そして、食卓の皿を見る。

 言わなければならない。

 逃げるわけにはいかない。

 でも。

 口を開けば、この家の時間が進んでしまう。

 マーサルは拳を握った。

「姉ちゃんは.....」

 声が震える。

 それでも。

 言わなければならなかった。

「もう、居ない」

 家の中から、音が消えた。


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[返信] [編集]2019 03-29 12:29 [pc]

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