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「篠、またオンナ変わったのかよ。前の子はどうしたんだ?」 「え?あー、付き合ってるよ?」 「二股かよ…。」 「ん?ちがうよ。」 部活のアト。 夕暮れの帰り道。 「じゃーなんなんだよ。こないだ聞いたぜ、おばさんから。篠がまた別の子連れてきたって。二股じゃなきゃなんなんだ?」 「だって、他にもいるから。美穂とか、塚原とか…。ね、二股じゃないでしょ?」 「…。」 篠原との話はいつのこうだ。平然と悪気なくそんなことを答えてくる篠の言葉に なんともいえない空気がオレらの周りを取り巻いている。 オレはなんとなくムカついて、オレより背のでかいヤツの頭に手を伸ばして叩いた。 「イテッ!準ちゃんは乱暴だなぁ、もう!オレの頭、コレ以上バカになったらどうすんの?」 「このバカ!ソレ以上悪くなることなんてねぇだろ!…ッたく、オマエそのうちさされるぞ!」 「え、痛そー。ソレはちょっとなぁ…。でも、刺されて死ぬなんて、ちょっとカッコよくない??オレ痛くないなら刺されてもいいなぁ。」 「〜〜〜〜!!」 でた。 篠原のなんも考えてない発言。 こういわれてしまうともう呆れてものが言えなくなる。 どうしたって口では篠原にかなわないのはわかってるから。 下手に言い合うと自分の腹が立つだけなんだ。 横をちらりと見ると、日に染まって黄色く輝く髪がサラサラと風になびいていて。 横顔だけ見てもまぁ、コイツがオンナにもてるのはなんとなくわかる。 いつもそう。 昔からそうだった。 「なぁ。篠。オマエ、本気で好きなヤツとかいねぇの?」 「ナニ、準ちゃん。ギャグにもなんないよそんな話。いきなりまじめになちゃって、どうしたの?」 「これでも心配してんだよ。オマエの兄ちゃん代わりとしてだな…」 「ああ…兄ちゃんね。 …別にみんな好きだよ?みんな本気だから。これなら安心?」 「…オマエっていつもそう。肝心なトコは濁すよな。」 「…。」 篠の言葉に気分が悪くなって。 オレは少しイラだったように篠の前を歩きだす。 なんとなく篠もおこっているようだったけど。篠は何も言わずに、オレのアトをついてきた。 ー俺たちは幼馴染。 その腐れ縁で幼稚園から高校まで一緒だった。 学年は違うけど、そんなに一緒にいれば、趣味や特技が似てくるのも当然なわけで。 オレが入っていたサッカー部に、今年入学した篠原も入部した。 それからはいつも部活帰りは篠原と一緒。 だって家が隣なんだ。断る理由なんてない。 でも一緒に帰るたびに思う。だって篠原にはたくさんの彼女がいるのに。 『準ちゃん、一緒に帰ろう。』 オマエを待ってるヤツだっているのに。 …なんでなんだ?? 「なぁ。」 「ん?」 カバンを片手にぶらぶらさせながら篠が振り向く。 今日も、聞いた。 『篠くん、部活待ってるって言ったのに、イイって言うの。一緒に帰りたいのにな。』 篠がいう、本気の相手の一人。 他にも小耳に挟んだりする。直接聞かれたこともあった。 『先輩、篠原くんと仲いいですよね。いつも一緒に帰るじゃないですか。なにか用でもあるんですか?」 …なんでオマエはオレと一緒に帰るんだ? まぁ、どうでもいいことだけど。 でもたくさんいるオマエの彼女たちに悪いじゃん? オレ、そんなんでうらまれるのやだし。 「なんでもない。」 「なんだよ準ちゃん、気になんじゃん。」 そのまま軽く言い合いながら、テクテク家までの道を歩く。 砂利道の小石がコツコツと足元にあたって。 ソレをボールにみたてて、軽くシュートをしながら、篠にパスをまわす。 篠からするどいパスが返ってくる。 オレはまた軽く蹴る。今度は少し浮いたパス。 ソレを受け止めた篠は振り返って誰もいない田んぼにシュート。 「ナイスゴール!!」 「だって小石だし。」 「ばっか、なんだって最初はそーゆートコからうまくなんだよ。」 「なんの話よ。それより準ちゃん、さっきの話…」 …まだ忘れていなかったか。 こう見えて篠はけっこうシツコイ。 一度聞いたら納得するまであきらめないトコとか。 「なんでもないってば!…あ?…ッおい!篠!…上見ろよ、上!」 「え。」 ごまかすように上を指差す。 話している間に、いつのまにかついていた家の前。 何の気なしに行った言葉なのに、目の前の光景に驚きがひろがる。 ザワッと風がふくたびに大きく風にゆれる笹の葉。 そこにちらほらと飾られた色とりどりの短冊。 コレは…どうみても… 「あはは!!おばさん!すっげーな!!いまどきこんな派手に七夕なんてやるうち、なかなかいねーぜ?」 「準ちゃん。うちは毎年コレなの。アンタだって毎年うちに書きにきてたでしょ?」 「そっか、そっか!そういえば、オマエんちって、去年もその前も毎年七夕やってたよな?」 「…うちの母さんあーゆーの好きだから。オレだって昨日無理やり書かされたよ。」 「へぇ!」 篠が手にとって見せてくれた短冊には『成績があがりますように』なんて、本気で願ってないことがバレバレの内容。 それをみてさらに笑い転げるオレに篠原はいつものことだと呆れ顔。 よく考えてみたら今日は七夕だった。 毎年七夕はご馳走だっていうコイツんちの風習を思い出して、 今年もこのままお邪魔しようかななんて考えてふとみた先に、ヒラリと目に入った一枚の短冊。 一枚だけぐしゃぐしゃに丸められてたあとがある。 「…『早く気づけ!』?…なんだコレ?」 「あッ!!!」 手にとって口にした瞬間、バッとすごい勢いで取り上げられた。 なんのことやらわからず顔を上げると、ものすごく真っ赤な顔をした篠の顔があって。 ………… …… 「篠…………もしやコレも…オマエの?」 「…。」 なんにも答えない篠の顔が耳まで赤くなってる。 「…っぷ」 ーもう、駄目。 耐えらんねぇ。 「あははは!!」 「準ちゃん!!」 …オレより大人びたような容貌。 顔がよくて、オンナたらしで、口がうまくて、そんでいつもちゃかすようにごまかしてオレを丸め込む篠が。 あの篠が…。 「か、カワイイとこあんのな!オマエ!」 「うっさい!!」 七夕に願い事なんて。 …マジありえねぇし。 「早く気づけって…オマエ、片思いでもしてんのかよ?」 「あーもー!!いいから!!母さん!!準ちゃん、今日飯食ってくって!!」 「なぁ、篠〜!」 「うるさいって!!」 強引に背中を押されて玄関に押し込まれる。 明るいおばさんの声と動揺している篠原の声。 いまだ顔を赤くする姿をみてめちゃくちゃ楽しい気分になった。 ーよし、わかったぜ篠。 オマエの恋が実るように、オレが願いをこめてやる。 夕飯後に気合を入れて短冊を書いた。 得意の書道で筆を滑らす。 「『篠の恋が実りますように』…よし!できた!」 「………通じてねぇし。」 ぼそりと篠が呟いたことばの意味はわからなかったけど。 けれど。 ーオレのなかで『幼馴染の篠原』の存在は少しだけ大きくなっていた。 END
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