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北条が暮らしているアパートメントの一室は寂々としていて生活感が感じられない。武田は、かつてそれについて訊ねた時に睡眠以外には使用していないのだと答えられた事を思い出していた。 何せ暖房器具の一つも無いのだ。真冬の只中である上に、屋外に降りしきる雨の所為で空気は凍る程だと言うのに。 部屋の主はこの室温を気にした様子も無く冷蔵庫を漁っている。この分ではろくな物は入っていなさそうだな、と武田は思った。 キッチンから戻ってきた北条が放ってきたそれはビールかと思えば只の炭酸飲料で、これから運転するんだろ、と一蹴された。 次いで間を置いてから切り出されようとする言葉に、武田は一つしか思い当たらないその内容を推測して密やかに落胆する。 「出るのか、若頭の結婚式」 「そりゃ、ね。元彼ですから」 クス、と自嘲気味に笑うと北条が椅子に座りながら僅かに顔を歪めるのが分かった。 きっと詮索したいんだろうな、と内心冷やかに笑いながら、武田はダークスーツの懐から小綺麗な封筒を取り出した。 中身の内容は至ってシンプルだ。今回組を継ぐのを機会に共に若頭が婚礼を済ませるとかで、その招待状それである。 つまり俺のかつての恋人はどうやら女と結婚するらしく、それを俺にも祝福させたいのだそうだ。 皮肉だな、と武田は思った。 「何でそんな事聞くの。落ち込んでるようにでも見えるって?」 「自分で言っちまってりゃ世話もねえな」 「じゃあ、慰めてくれよ」 然有らぬふりをして掛けた言葉にそれでも北条は、その狼のような鋭い双眸を見開いたようだった。 ジンジャーエールのペットボトルは蓋をしてから放って、北条の腕を引く。びくりと肩を強張らせた男をそのまま抱き込んでやれば、息を詰まらせたその鼓動が聞こえた気がした。 「あいつの代わりになって」 武田は耳元で甘えるように囁きながら、この男がこの願いを拒まないだろう事を予感していた。 この醜い感情を消化するのはいつもこの男だった。苛立って殴り付けた時にも、拳を頬に返されはしたが北条は武田とのこの曖昧な関係を断ち切りはしなかった。 だが今回はあまりにもひど過ぎやしないかと武田は自問した。 拡がっていく被害者の波紋はすべてお前を軸にしているのだと、今や触れる事も出来なくなったあいつに当て付けてやれればどんなに楽だろう。 さあ、救われないのは自分か、それともこの男か。
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