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「何だ、これ……」 ぺたぺたと自分の頬を触り、横に引っ張ったりして見るが、某怪盗のようにマスクがベリッと剥がれるわけでも無い。 「おはよ、克己。目覚めはどう?」 鏡の中に向けていた視線を先程まで伏せていた場所の方向に向ける。見知らぬベッドに肘を付け、こちらを静かに見る男は、俺の知る人物では無い。多分。根拠が無いのは、相手が俺の名を知っているからだ。 「……結構、快調な目覚め」 「そうか。顔色が今日は良いな」 「どちら、さん? 初めましてじゃない感じ?」 問えば、男は淡く微笑んだ。 「未来の克己がよく知っている奴だよ」 奇妙なことを言う。 「未来の……俺、って今突拍子も無いファンタジーなことを考えちゃったじゃないか」 「時空を超えて未来に来ちゃいました〜とか、そう言う感じの?」 そうだったら面白いけど。そう言って座っていた椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄る。 「残念ながら違うよ。でも当たらずとも遠からず、かな。克己は時空を超えたわけじゃないからさ」 「……まさか、本当に未来とか言わないよな?」 男はにこりと目を細め、頷いた。 「俺にとっては今。キミにとっては未来。だが、"克己"にとっての今でもある」 「はあ?」 綺麗な指先が自分で抓ったり叩いたりで赤くなった頬を滑り、唇に触れた。一瞬体がひくりと震える。 「この言葉の意味を知ろうとしなくても良いよ」 ビビりながら見た、自分の目線の先にある瞳の色は、優しさと悲しみが混じった色をしていた。 「今日のキミが、今の状況全てを知り、理解することは永遠に、不可能だ」 「え」 触れていた熱が去り、肩から力が抜ける。 「話は変わるが、克己は何歳だったか?」 「……どう言うわけだか老けた体の年齢は知らないが、俺は17歳だよ」 「……そうか」 そう呟き、彼は俺から離れ、部屋の入口に行ってしまう。 「え、帰るの?」 「様子見に来ただけだから……他に聞きたいことがあった?」 「え……無いけど」 「? じゃあ、またね。ほら、病人はベッドで休んでなさい」 「さようなら……」 閉まる扉を病人だったのか、俺、と、ベッドに潜り込みながら呆然と呟く。 そう言えば彼の名前を聞いていない。 誰だったのか。 昨日の記憶の姿と合わぬ自分の姿と、見知らぬ部屋と、見知らぬ彼に、不安と何故だか少しの淋しさを覚えた。 記憶退行症候群
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