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「うっわー、降り出してきた」 天気予報で雨は降らないって言っていたのに。嘘つきめ。 高校の周りにほとんど畑しかないド田舎はこういう時に困る。 突然の土砂降りの雨の中、俺は雨宿りできる場所を必死に探す。 頭が濡れないように鞄を頭の上にかぶせながら走っていくと、少し先に屋根つきのバス停が見えた。 よし、あそこで少し休んでいこう。 バス停には人影もなく、一時間に一本程度のバスも今は来る気配が無かった。 「あー、かなり濡れたなぁ」 制服も鞄も靴もすでにビシャビシャで明日までに乾くか心配だ。 バス停の椅子に座って、止みそうにない雨を眺める。 しばらくそうしていると、人が走って水の跳ねている音が聞こえ、俺と同じように天気予報に騙された人がいたんだなと思った。音の方向を見ると、その人が俺のいるバス停に入ってくるところだった。 「あれ? 水島(みずしま)君?」 「おう、河原(かわはら)」 その人は成績が学年でトップクラスで有名な水島君だった。クラスも違うため、一度も話したことのなかった水島君が俺の名前を知っていることに驚いた。 「よく俺の名前知ってたね」 「ん? ああ……」 水島君は眼鏡を拭きながら中途半端な返事をした。 あ、眼鏡取ると雰囲気変わる。まさに水も滴るいい男って感じ。 「ふふっ」 「何?」 「水島君は勉強できるしスポーツも万能でかっこいいなあと」 「……それはどーも」 水島君は俺の隣にちょっと離れて座り、二人の間に鞄を置いた。頬が少し赤い。もしかして照れてるのかな。 「ふふふっ」 「……河原ってさ、変わってるよな」 「そーお?」 「うん……変わってる」 確かめるように繰り返して水島君は黙ってしまった。雨がザーザーと降る音が響く。 「止みそうにないねー……」 夕方からのドラマの再放送を見たかったのに、と思いながら一人呟く。 沈黙が続く。雨の音はうるさいのに、すごく静か。 「河原、あのさ……」 その沈黙を破るように水島君が口を開いた。 「何ー?」 「俺、ずっと河原のこと気になってたんだ」 ずっと俺の方を見なかった水島君が初めて俺を見る。 「好きなんだ……河原のこと」 突然すぎて何が起こっているかわからなくて、頭が真っ白になる。 「え、えーと……」 「ごめん。急に言われても困るよな」 悲しそうな顔で水島君は言うと、立ち上がって、俺に自分の制服の上着を掛けてくれた。 「やっぱり忘れて。風邪ひかないようにな」 そう言い残すと、水島君はまだ止まない雨の中を走っていってしまった。 翌日、水島君は学校を休んでいた。上着も着ずに雨の中を帰ったから風邪を引いたのだろうかと心配になった。その次の日から水島君は登校していたけど、制服の上着は帰しそびれたままだ。 水島君が意図的に俺を避けているからだ。 それから一週間ぐらいして、また同じように天気予報に反して外は土砂降りになった。あの日から折りたたみ傘を持ち歩いていた俺に怖いものなどない。そして、チャンスは今日しかないと思った。 あの日と同じバス停に俺は向かっていた。水島君が帰りにこの道を通ることを俺は知っていた。でも、決して自分とは遠い存在だと、近づくことは諦めていた。 あの日の水島君の悲しい表情が胸を抉る。早く伝えなきゃ。 バス停に着くと、すでに水島君がそこで雨宿りをしていた。その水島君に後ろから近づく。 「そんな格好じゃ風邪ひくよ」 「っ! 河原?」 返しそびれていた制服の上着を掛けると、水島君は驚いた表情で俺の方を向いた。 「避けるなんてひどいよ。早く返したかったのに」 「ごめん。でも、この前の返事はいらな……」 「俺、水島君のこと好きだよ」 俺から逃げるために帰ろうと立ち上がった水島君の背中に告げる。今度は身体ごと振り返った水島君と向き合う形になる。 「嘘だろ……?」 「嘘じゃないよ。ずっと見てた」 水島君は信じられないという顔をしたまま何も言わない。相変わらず雨の音だけがうるさい。 「ね、だから今日は二人で帰ろう?」 俺がにこっと笑うと、ようやく水島君の表情が和らいだ。 「好きだよ、河原」 「ふふっ、知ってる」 忘れろって言ったろ、なんて言いながら小突いてくる水島君と腕を組んで、俺の小さい折り畳み傘に入って二人で歩いた。 忘れるわけもない、あの日の偶然と告白。 雨の音がこの恋の成就を祝福してくれているみたいだった。 fin. 最後まで読んでいただきありがとうございました。 ※HPは18歳未満閲覧禁止です。
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