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初めて彼の姿を見たのは高校の入学式。壇上の上に立つ彼はひどく大人びていて、誰も近付けない空気を持っている気がした。 艶やかな黒塗りの髪を持つ彼は、上田一郎という名前なのだと入学式後のHRで知った。同じクラス同じ学年、加えて俺は後ろの席で。なんだかんだで仲良くなって今では一番大好きな親友に一郎はなっていた。 ―神島 花の場合― 俺は女の子みたいな名前がすごく大嫌いだった。中性的とか女顔ならまだしも俺の顔は普通に男だと分かる顔だ。 身長だって170をこえてるし。 名前を呼ばれるのは好きじゃない。 でも、一郎に名前を呼ばれるのは嫌いじゃなかった。 むしろ――― 「花。放課後用事があるから一緒に帰れない」 見上げた先には一郎。 一郎がこういうことを言うとき、女の子から呼び出しがあったんだなと花は分かるようになっていた。 いつだったか偶然見てしまったからだ。 「んー。俺も用事あるし構わねぇよ」 一郎の目を見ずにさして重くもない鞄を手に教室を出る。すれ違いざまに顔をほんのり赤らめた女の子がいた。 この子は一郎になんて告白すんのかなぁ、と虚ろな心で考える自分は本当どうしようもない。 痛いと叫ぶ心の声を無視して花は図書室に向かった。 用なんて何もない。一郎にそう言われた日、花はいつも図書室に来て時間をつぶしていた。 静かな図書室には紙の繰る音しか聞こえなくて花も本を選んで席に座った。 本を読んで数十ページ。聞き慣れた声が花の頭の上から降ってきた。 「嘘ついた罰に帰りは花に自転車こがせようと思う」 「うるさい。本読みにきたんだ」 「…嘘ばっかり」 言って一郎は花の本をとり「逆になってる本を読む奴なんかいないよ?」とクスクス笑った。 指摘されて花は一郎を睨んで足早に図書室を出た。 後ろなんて振りかえるものか!と思っていたのに、名前を呼ばれれば振りかえってしまう。 「花。受け取れ!」 「は?」 反射的に受け取ったそれは自転車の鍵。 「罰って言ったろ」 「…用事あったんじゃねぇの?」 「とっくに終わってる。それに俺の隣は花の指定席だから」 「どういう意味、だよ」 「花が好きって言ってるんだ。返事は?」 END
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