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今日何本目か分からない煙草を口に銜えた。息を吸いながら火を付ける。のどをチリッと刺激する煙を肺いっぱいに満たして、一気に鼻から吐き出した。 そして、これも今日何度目か分からないが、メールも着信もない携帯のディスプレイを睨み付ける。 パカパカ、パカパカ。 右手で携帯を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す。左手の指に挟まった煙草が、唇と灰皿を往復する。 パカパカ、パカパカ。 苛立ちが募る。あいつからの連絡がない。もう何日経っただろう。普段からマメな男ではない。携帯が嫌いで持ち歩いていないことだって多い。それは分かっている。 分かってはいるけど… 「…チッ」 舌打ちをする。余計に苛立ちが増したような気がした。 短くなった煙草を最後の一息吸い込んで、フーっと吐き出す。苛立ちも不安も全部、煙と一緒に吐き出すことができればいいのに。 第一、何で社会人の俺が、大学生の恋人からの連絡を待たされるんだ。普通は逆だろう。 寂しいって思ってんのは、俺だけかよ…。 いつまでもうだうだと飲み続けるのは躊躇われて、行きつけの居酒屋を出た。 酔い醒ましがてら歩いてアパートを目指す。ポケットの中に入れた携帯を、右手でずっと握りながら歩く。 しかし、それが震えることはなくアパートに着いた。階段を上る。気分が重い。 自然と下がる視線が、俺の部屋のドアに凭れる腰と、そこから伸びた長い足を捉えた。 「おかえり。遅かったじゃん」 ずっと聞きたいと思っていた声が俺を迎えた。 「大吾…」 「酒臭いし…飲んでた?」 「関係ねーだろ。なんでうちの前にいんだよ」 思ってもない言葉が口から出る。本当は会いに来てくれて嬉しいくせに。 「鍵ないし」 「そういう意味じゃねーよ」 「何で怒ってんの?」 「…別に」 鍵を開けて部屋に入る。何も言わなかったが、大吾も部屋に入って来た。 スーツを脱いでハンガーに掛ける。ネクタイを緩めたその時… 「修二」 後ろから抱きしめられた。 項に触れる唇が冷たい。こいつはどれだけの間、外で俺を待っていたんだろうか。 「離せ」 「…なんで怒ってんのか言えよ」 「うるさい」 「なんなんだよ。訳分かんねえな」 大吾が俺から離れた。 「それはこっちの台詞だ」 「はぁ?」 心底分からないという表情をされる。俺は苛立ちとか不安とか、とにかくそういうぐちゃぐちゃしたもんが堰を切ったみたいに溢れた。 「何で連絡くんねーの?電話する時間が無くても、メール返す暇くらいあんだろ?」 「会いに来たじゃん」 「それだって2週間ぶりじゃねーかよ」 「…もしかして、寂しかったとか?」 「悪いかよ!」 大吾が不意に手を伸ばして、俺のネクタイを掴んだ。少しだけ緩めていた結び目と首元の間に指を掛けて引き寄せられる。 「修二って、意外と可愛いとこあんじゃん」 「あぁ!?」 「いつも飄々としてるくせに、本当は俺に構って欲しかったわけ?」 「だ…っ!だまれ!」 「キスしていい?」 「よくない!」 了承していないのに塞がれる唇。少し強引に侵入してくる舌が俺の細やかな抵抗を無にする。 しばらくして離れた大吾は、ニヤリといやらしく笑ってこう言った。 「煙草臭いな」 「…お前のせいだ」 「寂しくて、イライラしたって?」 「そうだよ」 「そんなこと言うと、修二の煙草の匂いで興奮するようになるかもしれないぜ?」 そう言って俺に押し付けられた大吾の下半身はもう熱くて、目に欲情の色が浮かんでいる。 こんなに情熱的に求められるなら、ずっと煙草を吸っていようかと思ったことは、秘密だ。
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