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ぽす、という音とともに俊介の肩に重みがかかった。鼻先にふわりと漂う松田の匂いに、俊介は読んでいた雑誌をソファの隅によけて手を空ける。と、すぐにその上から松田の手が重なって来て、遠慮がちに指が絡んだ。 「……眠い?」 いつも必要以上に俊介をべったり甘やかす松田がこうして逆に甘えてくる時は、何かあったか、もう寝ようというアピールか。 「ううん、まだ」 でなければ、誘っているか。 絡めた指をそっと撫でられて、俊介は気付かれないように息を呑んだ。いや、俊介の首筋に顔を埋めている松田には、微かにでも喉が上下するのは見て取れたかもしれない。ふふっと笑うのが聞こえたと思うと、繋いでいない方の手が俊介の頬にひたりと触れた。 「マッチー、」 出来るだけ呼吸を乱さないように注意しながら名前を呼ぶと、肩の重みが取れて松田がこちらを窺うように視線を投げてくる。何も言わないが、その視線はものの数秒で俊介の理性に小さな綻びを生じさせるのに十分なほどの色を含んでいた。 少し顔を傾ければ松田の唇は薄く開いて、俊介をさらに誘惑する。誘われるままに目を閉じてそっと重ねると、珍しく松田の方から舌を差し出してきて、俊介の唇をするりとなぞった。 「っ……、」 たったそれだけのことに俊介の鼓動は速まり、触れられた頬に熱が集まる。初めてではないというのに、いまだにキスひとつでこんな風に胸を高鳴らせていると知ったらこの人は笑うだろうかと思いながら、重ねた時と同じようにそっと離した。 松田の腰に腕を回すと、ゆっくりと移動して膝の上に乗ってくる。今度は指先で唇をなぞられ、そちらに注意を払ったほんの一瞬の間に、松田の顔が目の前まで来ていた。 「ん、っ」 故意にだろうか、やけにそれらしい音を立てて落とされたキスは、次の展開を期待させるには十分なもので。 「……ふ」 互いに熱を交換する間、離れては惜しむようにまた引き寄せ合うことを繰り返した。 誘われたその場で最後まで為してしまうのは随分久しぶりのことで、ソファに体を預けて呼吸を整える。膝の上で昇り詰めた松田もまた、そのまま俊介にしなだれかかってゆっくり背中を上下させた。汗でシャツが張り付いたその背中を撫でながら、俊介は一度大きく深呼吸をした。 酸素を求めて口を開いてもすぐに吸い取られてしまう行為のさなか、意識の飛びかけた脳に訪れるその瞬間の恍惚は相当なもので、長く残る余韻に目を閉じて天井を仰ぐ。それは松田も同じようで、俊介を受け入れたままの場所が時折思い出したように震えるものだから、なかなか離すことができなかった。 「動ける?」 それでも何とかそう問いかけると、松田は静かに頷いて腰を上げる。あ、という小さな声が消えた時、細く糸を引きながら結合が解かれた。視線を下げた松田が呟く。 「ごめん、汚しちゃった……」 自らの熱で濡れた俊介の服のことを指しているのだろう、どうせ洗濯するのだからと答えるとまたごめんと呟いて目尻を下げる。その瞼に口づければ、松田は甘えるように俊介に頬を擦り寄せた。 どちらからも離れようとせず、せめて冷えないようにと腕を回して体温を分け合う。そのうちに再び重なる唇を、俊介は媚薬のようだと感じながら受け止めた。
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