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何度も何度も肌を合わせて、もうお互いに溶けてしまうなんて思うほどに、いっそ貴方となら私は溺れてもいいのよと微笑むように。 だからどうかお願い。 私が泡になる時は、貴方のその息を最後にくださいな。貴方の水の中で、どうか溺れさせてほしいのです。 * 「なんだかあっけなかったねぇ」 真っ白いカーテンの引かれたベットの上で、ふと思い出したように先輩は呟いた。シワの寄ったシーツは、先程までの行為を思い出させるようで、思わず俺は目を反らしてしまう。 数十分前までは二人とも何も身につけていなかったのが嘘のように、綺麗にブレザーの制服を着ている先輩の姿を横から盗み見る。名札の上に付けられた花の飾りが、自分にとって嫌だと叫びたくなる未来を想像させる。 「先輩卒業できたんですね」 「なにその言い方。俺こう見えてもけっこう出来る子なのよ」 わざとらしくウインクを付けて茶目っけのある笑顔を返してきた先輩に、思わず吹き出す。あぁ、この人は最後までやっぱり変わらないな。それが嬉しい筈なのに、この胸の奥がじくじくと熱されて溶けていくような痛みはなんなのだろうが。 「あんたはきっと、大学行っても変わらないんだろうね」 男だろうが女だろうが、好みの奴がいたら適当にヤりまくって。その内その適当な女産ませて、適当に生きて死ぬんだろうね。皮肉を込めて吐き出した自分の声は、小さく、けれど二人しかいないこの静かな部屋ではしっかりと響いた。 「そうだねぇ、そうかもねぇ」 少し困ったように苦笑いをしてから、先輩はやっぱり笑った。 「俺は中途半端な奴だから、きっとそんな人生なんだろねぇ」 自傷的な台詞な筈なのに、先輩の声は明るい。そうだ、昔からこの人はそうなんだ。楽天的でふらふらとしていて、だから自分みたいな男の後輩と2年もセフレなんてやってしまうんだ。 「本当につくづく駄目人間ですよね」 それでも、きっと貴方は幸せに笑える筈なんだ。 だってそうだろ。男なのだから。避妊なんてする必要がないのにわざわざゴムなんてして。下らない冗談の延長でぼそりとめんどくさい悩みを溢せば、茶化しながら、貴方は真剣に話を聞いてくれるんだ。 そんなあんたの良いところを、本当のあんたを見つめて好きになってくれる女が、きっといる筈なんだよ。 だから、だからどうか。 「変わらないでくださいね、先輩」 貴方が何処へ行こうと、自分が恋した貴方でいてください。 痛みが増していく。体の中を埋め尽くして、こののままでは溺れそうな気分だ。貴方が笑う。俺は最後に、先輩の唇に軽く触れて何も言わずに保健室を出た。駆け出せば足がもつれてしまいそうで、込み上げてくる嗚咽が止まらなくて、濡れていく顔を拭う事もせずにうつ向き歩みを進める。 どうか、今だけはこの痛みを感じていようと。 貴方に出会えて初めて色づいた世界を思い出して、貴方を好きになれた自分をどうか褒めてやってくれと。 “溺れるくらいに溢した涙の数が、貴方の幸せを願う私のささやかな好意なのです。”
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