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これは夢だ、悪い冗談だ、と誰か言ってくれ。目の前で繰り広げられているのは何の茶番劇だ。停学から戻ってみれば学内の雰囲気が圧倒的に悪くなっている。全寮制だからもちろん寮内も悪くなっているのだろうけれど、停学は家でと言う決まりがあって、今戻ったばかりなのでどうなのか分からない。そもそもその原因がなんなのか俺にはいまいちよくわからない。停学になるくらいの不良だと思われているから、ご丁寧にこの期間の出来事を教えてくれる友達なんて言うのも、まあ、ない。 「だからっ! お前の名前なんて言うんだよ、教えろよ。 俺が聞いてるんだから早く答えろよ!!」 纏わりついてぎゃんぎゃんと叫ぶように話しかけてくる、このもじゃもじゃ鳥の巣頭のこいつはいったいなんだ。正直言って煩い。周りでおろおろと見ている取り巻きと思われる奴らも止めてくれれば良いものを、使えない。そもそも、こいつが誰かさっぱりわからないのに名前を教える必要があるのか、せめて自分の名前くらい言ったらどうだ? と思うが、あえて言わない。面倒臭そうだから。 「あっ、わかった。 お前友達いないんだろ。 だからどうすればいいのか分からないんだな。 心配ないぞ、俺が友達になってやるから、少しづつ慣れていこうな!!」 ほら、やっぱり。面倒臭い。 「あれえ、なんか見覚えのあるシルエットだと思ったら、リンリンじゃないのー、久しぶりぃ、早々に得体の知れないもんに捕まっちゃってるねえ」 不意に場の空気を読まないのんびりとした声が俺に話しかける。 「リンリンって呼ぶんじゃねえよ、花光」 「えー、いいじゃんいいじゃん、可愛いから」 「お前リンリンっていうのか」 「えー、リンリンって呼んでいいのは俺だけだよぉ。 あ、君今話題の編入生だね?」 「俺ってそんなに有名なのかっ!」 痛い奴。しかもカオスすぎる。俺、もう一回停学になってもいいけど。できればこの嵐が過ぎ去るまで…… 二人が言い合っているのか、噛みあっていないのかよくわからない会話をしている横で現実逃避をしていると、ついっと制服を控えめに引っ張られた。 「あ? 梨音こっち来てたのか?」 「うん、りゅうくん、今のうちにいこ?」 こてんと首を傾げていう梨音は、ふわっふわの天然栗色の髪に、くりっくりの目が印象的な、男がこれでいいのか? と不安になるくらい可愛らしい。小動物のような仕草もツボに入る。停学前に何を思ったのか告白してきた梨音に俺は一目惚れして付き合うことになったのだが、実はすぐ実家に帰る羽目になったのでこの話はなかったことになってるかなあと思っていたのだが、そうではなかったようだ。 「あー、お前まだ話終わってないぞっ」 梨音に引っ張られてその場を外れようとしたら目ざとく鳥の巣頭に呼び止められる。 「お前もひどい奴だなっ、俺が話してるのに連れていこうとするなんて!」 梨音に手を出そうとするのを、こいつ一発殴ってやると拳を握れば 「りゅうくん、もう停学になるようなことしないって言ったのに、うそつきになっちゃうよ」 と手を握られる。惚れた欲目で見ても、紛れもなくこいつは重度の天然だと思う…… 「おい、鳥の巣、 残念ながら一応そこのふざけた奴は友達だ、多分。で、こいつに手を出すな」 「リンリン、もう、ひどいよ」 ぎろりと人睨みすれば、鳥の巣頭は黙り、花光はぺろりと舌を出して 「ごめんねぇ、じゃあ、さっさと行こう」 と歩き始めた。鳥の巣が何かを言い出すまでわずか数秒、俺は梨音の手を取って花光を追いかけた。 終
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