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キーワード:高校生 甘甘 バカップル
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「好きだ」
それはもう、酸素を吸い込んで二酸化炭素を吐き出すという地上に生息する生物として生きるための必然行為の如く奴の口から発せられる。
「はいはい」
軽く受け流す俺の首に絡みついた俺よりも長くて逞しい腕。
俺がもう、諦めたモノ。
それを全て兼ね備えている奴が傍にいるから、普通なら妬むところをずっとずっと欲しくてたまらなかったのに諦められた。
その代わり、俺は奴が持っていないモノを沢山持っていることに気づけて、俺は自分がそれなりに恵まれていることを知ったんだ。
「ちょっと、甲斐、苦しい」
腕を叩いて緩めるように頼むが、緩むどころか締まった。
「好きなんだって」
「知ってるって」
最初に言われた時、息が止まるかと思った。
素直に嬉しいと伝えてしまえば、奴は出し惜しみすることなく会う度に言うようになって、急に『好き』という言葉の価値が減ってしまった気がして悔しい思いに摩り替わった。
冷たく当たる俺にめげず、というか俺の気持ちも知らずに奴は言い続けた。
そのうち、そう言われることに慣れてしまった。
というか、悟った。
最初言ってくれた『好き』と何度も繰り返される『好き』の言葉の重みが、まったく変わりがないことを。
むしろ増えていると言っていい。
単に俺が、『好き』の量は一定量決まっていてそれを回数で割られてる、みたいな認識があった所為だ。
奴にとっては違ったというだけのこと。
『好き』に際限はなく、溢れてしょうがなくて言わずにはいられないもの、らしい。
理解しがたいが、できないわけじゃない。
『好き』といわれることは、嬉しい。
ただ、それだけでいいんだと思う。
でも、いう場所とかはしっかり考えて欲しい。
人前でいちゃつくなんて持っての他だ。
「何考えてんだよ?」
開いた本を見つめながらそんなことを考えていれば、疑心に満ちた声が呼びかけてくる。
背後から抱きしめてきていた奴が、じっと俺の横顔を窺っていたらしい。
「本読んでるんだけど?」
さらっと答えるが、それで納得するような奴じゃないことは俺がよく知っている。
俺のことを、俺以上によく分かっているんだから。
「まったく文字追ってなかったっていうのに?
俺がそれ嘘だって見抜くってわかってて言うわけ?」
よく分かってるなら、俺が考えてることも察してくれればいいのに最後の最後で鈍い。
お前のことだ、なんて恥ずかしくて言えるかって。
「…考え事してただけだよ」
「何の?」
目に満ちている疑心が強まっていく。
奴の独占欲の強さはよく分かっているし、俺はそれが嫌いではない。
俺にはない感情だし、面白いとさえ思う。
少し意地悪をしてみたくなってしまうのも面白がっている故だ。
「何だっていいだろ?」
「…他の男のことだったりしてみろ。
俺、どうなるかわかんねえぞ」
首に絡まる腕が本気だと伝えてくる。
仕方なく溜息をつく俺に、奴は怒らせた、とでも勘違いをしたのだろう、急に慌て出した。
さっきまでの息苦しくなる程の殺気はどうした、と俺が問いたくなるほどの変貌振りだ。
そうなるならば言わなければいいのに。
どうも俺は信用にかけるらしいが、それはふらふらしているように見えたり、何事にも淡白だったりするからなのだろうか。
それに、どうも俺に捨てられるかもしれないという強迫観念を常に持ち合わせているようでもあるのだ。
俺は口に出しては言えないけれど奴と同じくらい好きだという気持ちを持っている。
それに、俺は一つ事に対して誠実でありたいと願っているし、ちゃんと実行しているのに。
捨てる気なんて更々ない。
むしろ、それに関しては俺の方が愛想つかされないか冷や冷やしたりもしているのだが…いや、そんな心配は奴を見ていれば皆無か。
奴も俺のことが分かるならば、少しは自信を持てばいいのに。
やっぱり最後の最後で弱い。
「怒った…?」
「違うって。
…甲斐のこと、考えてた」
恥ずかしくて言えるかと思ってたわりに、口にしてみれば随分素っ気無く響いた。
意を決した感じがまったく出ていなくて、内心の頑張りようは何だったんだ、と思えるほど呆気ない。
「苦しい………」
けれど、しかと内心の葛藤さえも汲んでくれたらしい奴を図に乗らせてしまったらしい。
首に回る腕の力が、もうありえない。
こいつは俺を絞め殺す気だ。
「好きだ」
もうキレてやると思った矢先、絆されてしまった。
耳元で掠れる声で囁かれて、身体が熱っぽくなってしまう。
絶対、それを狙ってやってるわけじゃないんだろう?
「ばか」
そう返すと、奴は蕩けそうに破顔した。
やっぱり、伝わってしまうのか。
素直に好きだと言えない俺の、愛情の裏返し。
照れ臭さに染まってしまっているだろう頬を、奴の唇が翳める。
「うん、知ってる」
何だ、この甘ったるい空気は。
10回に1度くらいなら流されてやってもいいけれど、今回は耐え切れない。
もう無理だ。
容赦のない肘鉄を奴の腹に埋めて、そそくさと立ち上がる。
背後で呻いている奴になんて一瞥もくれてやらない。
「好きだ」
痛みに耐えながらそれでも俺に伝えようと搾り出す声が妙に色っぽくて、あの熱から力づくで離れてしまった自分が酷く悔やまれた。
ああ、俺、かなり重症だ。
やられきっている。
俺は、あの腕の中に戻る方法を奴が持っていない頭脳を駆使して必死に考え出した。
[ 終 ]
2007/03/20
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