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 映画館
© 早 
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 あらすじ:正人(まさと)と良(りょう)の初デート。一風変わった痴漢ネタ。
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 楠木正人、初デート。


 三流BL小説でデートの行き先が映画館となると、考えられるシナリオはひとつだ。
 新作の映画を見に行こうと街へ降りると必要以上にひとで溢れてて、なんとか席は取れたもののぎゅうぎゅう詰め。しかも映画は実は思った以上につまらない内容で、俺は座るなりすぐに眠ってしまう。……で、ふと映画の途中で目が覚めてみると、隣の良の様子がおかしい。なんかそわそわしてて、トイレでも行きたいのかな、と思って覗き込んでみると、良の足の間にゴツイ男の手。痴漢だ。涙を浮かべて耐えてる良はめちゃ可愛いんだけど、他の男にされてるってのは腹立たしい以外の何者でもねぇから、俺は映画の途中で良の腕を掴んで無理矢理立たせ、映画館を飛び出す。
 で、映画館を飛び出したはいいんだけど、良が痴漢の所為で中途半端な状態になっちゃってて、そのへんのトイレで最後までヤっちゃう。
 とまぁこんな展開を俺は、期待してるワケだ。だってこれ三流BL小説だし。
 そして俺は期待に胸膨らませながら、デート当日を迎えた……のだが。


「ねー正人何観る? 何か開いてるとこテキトーに観ようと思ってたけどさ、ガラガラだから何でも観放題だよねー」
「……そうだな」
 ……おいおい……ガラガラってどうゆうことだよ……いきなり設定間違ってんじゃねぇの?
「あっねぇコレは? 『ハウルの動く屍』」
「ホラーは嫌いだ」
「うーんと、じゃあ『千と千尋の紙がない』」
「なんか切実そうだからヤだ」
「じゃあこれは? 『ゲロ戦記』」
「そんな映画を観てみたいってやつを見てみたい」
「もー! 正人はワガママだな!」
 なんだかんだで結局『猫神家の一族』を観ることになった。よく知らないが、過去にあった『金田八耕助シリーズ』のリメイクらしい。
 内容はいい。もともと推理モノは好きだから面白いと思うし、透けキヨとかいう白い仮面の男が仮面を脱いで顔のすさまじい傷跡を晒した時なんかは、良もひっと息を呑んで俺の腕に抱きついてきて、ちょっとおいしかったくらいだ。いや、あの場面は俺もびびったけど。
 けど痴漢の方はチの字もない、両隣はガラ空きで前後ろの席にぽつぽつとひとの気配があるだけだ。……いや、痴漢なんてないにこしたことないんだけど……けどなんつうかシチュエーション的に憧れっつーか、怯える良を助ける、みたいなおいしいポジションが……ん?
 膝のあたりに異変を感じた。なんか撫でられてるみたいな……
 最初は良がまた映画に怯えて俺に擦り寄ってるのかと思ったが、内容的には全然恐い所じゃなかったし、その撫で方もおかしかった。しかも何よりおかしいのは、良は俺の左隣にいるはずなのにどうにも右の膝を……撫でられて……いる、よう、な……
「…………」
 ガラ空きのはずだったのに。
 俺の右隣にオッサンが座っていた。空調完備なのにやたら脂汗をかいていて息が荒いオッサン。激しくキモチワルイオッサン。右隣に、キモチワルイオッサン……!
「ヒ!」
 ゴツい手が俺の股間を撫で上げる。
 う、うっそ、まじ、まじで!? なんで俺なのぉおお!? てかまじに本当に真剣に気持ち悪ィ……!
「ん? 正人どうしたの?」
 ハッ良! 気付いてくれた!
「りょ……りょりょ良、お俺、ちょっと……」
 暗闇の中で声を落として、なんとか伝えようとするが言葉が出てこない。今現在形で痴漢にあってる、なんて情けなさすぎて、言えねぇだろコレ!!
「あ、トイレ? 行ってくる?」
「いやトイレじゃなくて……ッ、ぅ!」
 オッサンの太い指が俺の股間を握り締めた。
 目線だけ動かして右隣を窺う。汗が噴出す。身体が強張る。
 くそ、気持ち悪ィハゲめ! こうなったらとりあえずトイレに……いや待て。いや待て俺。俺が今ここでこの場を逃げ出したらどうなる? そんなことしたら次の餌食になるのは良だ! ここは映画は潔く諦めて、なんとか良と共にここを去るんだ。それしかねぇ!
「良、行こう」
「へ? 行くって何が?」
「ここを出るんだよ」
「え? え、何で……え!?」
 暗闇の中、他の客に迷惑そうに見られながら(暗いからよく見えないけどそうに違いない)良を引っ張ってシアターを飛び出した。

「もーどうしたの正人? いいとこだったのに」
「や……いや、痴漢が……」
「えっ視姦!?」
「や……じゃなくて……てかお前そんな言葉どこで……」
「ねー何にもないなら戻ろうよ、半券あるからまだ入れるし」
「え……あ、ああ……そっか、席変えればいいのか……」
「ついでだからトイレ行く?」
「ああ……そうだな」
 ……ということでトイレに行ったあと、結局カッコ悪くて良に痴漢にあったことを言えないままシアターに戻ることになった。さっきより後ろの席に座って観ることになったが、痴漢がここまで来ることはなく、後は最後まで映画に集中できた。
「けっこうおもしろかったねー! 俺金田八シリーズってなんか渋いイメージあったけど松嶋ハチ子もキレイだったし」
「そ、そうだな」
「じゃあ次どうする? ご飯でも食べていこっか」
「そ、そうだな」

 ……こうして俺たちの初デートIN映画館は、呆気なく終わってしまった……











2007/03/26
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