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 真実
© 隠紫 
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 R指定:無し
 キーワード:白虎・朱雀・旅立ち
 あらすじ:傷を負った莱慧が朱雀と対峙して。。
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バタン。
莱慧の部屋から二つのことを聞き出した鴾は、挨拶もなしに出ていった。

「話してしまったが、よかったのであろうか…」

質問の二つというのは鳴杏と竜貴のこと。
一つは鳴杏が無事なのかということではなく、鳴杏が朱雀ではないのかという疑い。
それをどうして莱慧にしたのかはわからない。
だが莱慧も理解している事実を零さず鴾へ伝えた。
この先知ることになるのなら、予備知識があっても構わないのではないかと思えたからだ。

「莱慧、いい眺めだな。死にそうになったこと、あの獣は知っているのか?」

何もない空間から、鴾とは入れ違いのように鳴杏が現われた。
否、朱雀が現われた。

いつも着ている着物ではなく、薄桃色の長襦袢に薄絹の羽衣をかけている。
格好だけなら天女のようだ。
鳴杏は神でありながら幻ではなく存在していた。
姿形もはっきりとし、当初よりも垢抜けたような美麗さだ。

「知らないと…追い返されただけにしか思っていないはず。余計なことは言うな」
「竜貴には敬うくせに、神には喧嘩を売るのだな」

おもしろい男だと鳴杏は笑い、莱慧から遠く離れた椅子へ腰かけた。
足を組み、さも自分が一番位が高いかのように鳴杏は上から見下す。

莱慧は大人しい鳴杏のほうが扱いやすかったと、包帯で巻かれた腹部を押さえながら床に足を降ろした。
立ち上がろうとするだけで力の入る腹筋が悲鳴を上げる。
莱慧の口元が歪んだのを鳴杏は見逃さなかった。
そこまでして何をしようとしているのか、鳴杏は興味なさげに見守る。

「鴾様にも素の状態で内側から引っ掻くのか」

立ち上がった莱慧は引き出しに手をかけた。
何年前のことか。
白虎から持ってきた唯一のものを取り出す。
そこら辺の道端にでも落ちていそうな石。
目の大きさほどしかないそれはすっぽりと手に収まり、鳴杏へ向き直る。

「引っ掻く?いつ我がそんなことをした?安心せい、鴾は気に入っているのだ。そう簡単には潰さないさ」

莱慧が何を案じているのか、鳴杏は十分承知していた。
朱雀は気高くそれでいて自由奔放だ。
付く相手は四神が選べる異例の場合もあるが、それ以外は必ず神が目星をつける。
選ばれた者は、四神と従神にのみ見ることができる光を発する。
そして四神は捜すのだ。

永年あり続ける者。
時には気に入らない主人だっている。
それをよしとするか拒絶するかは四神の自由だ。

朱雀は若気の至りで何人かの者を壊したこともあった。
今もそうだとは思わないが、変わっていないとも言い切れない。

「今朱雀がここにいるということは鴾様は従神が?」
「あぁ、お前の白虎よりよほど優秀なヤツがな」

嫌味な程一言多く、長生きすると性格まで歪んでくるものなのかとため息をつきそうになる。
握った石を机に起き、莱慧はかけてあったローブを取り出した。
包帯の上には風通しはいいがなるべく頑強な布を選び、股の割れた白に少し汚れたものを履く。
旅支度だ。

「鴾の中へ入り、あれを感じろとは酷ではないか?」
「ならば青龍は?」
「あやつは鴾を好いているからよいのだ。二人の男から愛され罪な男よ」

莱慧は楽しそうな朱雀に話さえ合わせると、初めて明かされる真実に何でも知っているのだなと感心しながら、最後にローブを羽織った。
金糸の髪も見えなくなるほど深くフードを被る。
取り出した石は懐へ大事にしまい、壁にかけてあった杖を手にした。
どこからどう見ても怪しい人物だ。

「竜貴様には養生のため休暇をとらせていただきますと、伝えておいてくれ。……聞かれてからでもいい」

立っているだけでも汗がじんわり滲んでくる。
暑いからというだけではない。
冷や汗ともとれるものだ。
それでも竜を使うわけにはいかない。
莱慧の身勝手であり無許可な旅なのだから、青龍の大切な竜を私用で扱うことはできるわけがなかった。
どれほど歩くことができるのか。
莱慧にとっては一つの試練でもあった。

「戻ってこなくてもいいのだぞ。お前は故郷へ帰るのだ。また出発する必要などないだろう」

朱雀は籠の中に入っている果物の中から、葡萄を一摘みして口へ運んだ。
おいしいはずの葡萄も、話の内容によってはうまさも意味をなさないらしい。
鳴杏はくだらないものでも見るかのようにただただ口に放る。

莱慧は見える口元だけを上げて、答えも出さず自らの部屋を出ていった。
結果がどうなるかなど見当もつかない。
あの子が生きていることはわかった。
それは無事にとはほど遠い状態かもしれない。
獣の姿で弱っているのではないだろうか。
それを確かめる旅。

莱慧は申し訳ない心を引きずって青龍門を出ていった。







2007/08/09
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