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 嘘は少なめに
© 眼部アキラ 
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 R指定:---
 キーワード:バンド 高校生 甘
 あらすじ:当HPメインCPの高校生バンド内カップル・ギター×ドラム。甘目仕立てになります。
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「秋人ー」
猫なで声の春久に。
「どしたの春久」
以外、いったいおれは何を言えばよかったのか。

『嘘は少なめに』

春久が発売日より一日早く、ユーラシアの新譜を手に入れた。
一緒に聴こうぜ、そう誘われてやってきた春久の家。
シングルカットされた5曲目の途中で、おばさんは出かけてくるからとおれらに声をかけた。
で、14曲目全部聴き終わった途端に春久がおれの右肩にしなだれかかってきた。
学ランの襟に手を掛けて春久は耳元で「やりたい」なんてとびきり上等な低い声で言った。首筋がぞわぞわするような感覚は脊椎を通っているのか腰にまで伝わっていく。頭がクラクラした。
「……いま、ここで?」
生唾一つ飲み込んで、おれは横目で春久を見た。
本物の猫みたいな目で、春久がおれを見ていた。
薄茶色のガラス玉みたいな瞳のはまったきれいな顔。
あの、いつもギターをかき鳴らす細くて長い指。……あぁ、なんでおれ、男相手にドキドキしてんだろ。
人差し指で、春久はおれの前髪をかきあげた。
「じゃあホテル行く?」
春久の顔が近付いてきた。おれの心拍数上がりっぱなし。
「男同士でも入れるの、ラブホ」
熱計るみたいに額と額をくっつけて春久は笑う。
「余裕、余裕」
……ちょっと待て? その自信の笑顔はどこから出てきた?
「行ったこと、あるんだ?」
キス寸前でおれが尋ねる。
「……」
「ねぇ、春久?」
「あき」
「男同士で行ったこと、あるの? ねぇ?」
やだ。そんなの。
つか、相手誰?
「春久?」
「いま、おまえが一番好き、じゃだめか?」
「別にいたって怒らないよ。おれだって彼女いたし。春久に彼氏とかいてもさ」
視線を逸らして言った台詞。
自分で言いながら『春久に彼氏』の部分に猛烈な違和感を感じてしまった。
「ただ、嘘とか吐かれるのはやだ。付き合うのおれが初めてっつったじゃん」
「付き合うのは、本当に秋人が初めてだよ」
「で、行ったことあるの?」
見つめた春久は何度か唇を舐めて、一言。
「……ある」
「セフレ?」
「みたいなもん」
やだやだやだ。
おれの知らない春久の時間の存在にただ不満が沸いてくる。
「秋人ぉ……そんな顔、しないでくれよ」
いったいおれはどんな顔をしているのか。
かっこいい春久が情けない声出しておれを抱きかかえてきた。
「おまえが一番、これは絶対嘘じゃねぇって」
「……じゃ他は嘘なの?」
「俺なんて言ったら良いんだよぉ」
春久は困ったような、あきれたような声で言う。
「なぁ、秋人くん? 機嫌なおして?」
両手で頬をつかんでおれの顔をのぞき込む。
目なんか合わせたくなくて、おれは下を向いた。
「秋人」
そしたら下からのぞき込まれて、おれは目線を左へ向けた。
春久の自慢のギブソンの入ったギターケースが目に写る。
ライブの春久、あんなにかっこいいのに。おれはほとんど背中しか見えないけど、見つめる余裕もないけれど。
フレッド押さえてるときのシルエットが、突き抜けていく声が、入りを合わせる時におれの手元を見つめるあの真剣なまなざし、全部がどうしようもないくらいかっこいい春久が。
いまはこんなにも、女々しいおれのせいで、かっこわるい。
「秋人」
ちょっと無理な姿勢で、春久はおれの視界に入り込んだ。
「ごめん、俺はほんとーに、秋人のこと大事に思ってるし、このことに関しては嘘吐いてない。あんまり言い募るとよけい嘘臭くなりそうだけど、ほんとうに、好きだから」
「……」
「誤解される言い方した俺が悪かったから、だから」
春久の顔がゆがんだ。
「泣かないでくれ」
「泣いてねぇし」
春久のほうが、今にも泣きそうで、苦しそうで。
「春久」
「うん」
「ごめん」
小さく春久は首を横に振った。
「ごめんな」
「ん」
春久が唇、の左脇にキスをした。
「秋人?」
おそるおそる呼んだ口許だけで春久は笑った。見つめてくる目はまだ、つらそうで。
「機嫌、なおった?」
わがままで、嫉妬ばっかりで、ごめん、春久。
言ったら、声に出したら泣き出すんじゃないかと思って……春久の超至近距離の唇に触れるだけのキスをした。
「……」
春久は目見開いて、ぽかんと口あけちゃって。おれはもう恥ずかしいからそんな春久見ていられなくて。
「機嫌、なおったから」
「秋人っ!」
「わぁっ」
体重かけて春久がおれを押し倒した。挙げ句、顔をなんども胸にすりつけてくる。
「なに! どしたのっ!」
「だぁって、秋人からキスされたの初めてなんだもん!」
ぎゅっと春久はおれにしがみつく。
「う、うん」
「マジうれしっ」
鎖骨やら、首やら、顎やら、頬に、春久はキスしまくった。
「春久、ちょっ、くすぐってぇよ!」
普段の春久は、あんなにかっこいいのに。
女の子たちがキャーキャー言って、バレンタインデーなんか他校からチョコレートもらうくらい。ライブのあとは絶対告られるんだ。逆ナンされた回数なんか、おれと一緒にいたときだけでも数えらんない。
そんな春久へのおれの不安を、
「秋人っ愛してる!」
やまないキスで、春久はきれいに消し去ってしまった。
「わかったからっ!」
こんなに顔をゆるめて、かわいくなってしまうのは、おれの前だけなんだよなぁ。
「超大好き!」
おれの肩に顎乗せて、春久が叫んだ。うるさいけど、うれしい。
「……おれ、も、すき」
はきだす息に紛れるように小さな声でささやいたのに、しっかり春久の耳には届いたようで。
「秋人ぉ」
猫なで声で名前を呼ばれ、それはキスよりくすぐったくて、聴き心地がよくて。
「んっ……」
男同士なのにね、こんなにキスするだけで脳味噌とろけそうなくらい、気持ちいいんだもんなぁ。
「ね、秋人、ベット行こ」
「……はいはい」
「大好き、だから」
甘ったるい低い声で、春久はおれにそう言った。


end







2007/01/18
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